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典型的な症例
潜伏期は短く、ふつう2-3日、流行期や大量摂取した場合は数時間、浸淫期では3-7日である。
発症は急激だが、健康な者はすぐ問題が生じない。心窩部の張り、腸鳴、苦悶感があり、次いで通常量より多めの排便から、数回続けて間隔の短い下痢になる。胆汁の混じった嘔吐をする。
最初の1-2時間ほどは臨床上の容態はしっかりしている。便通には仙痛を伴わず、腹部の張りは緩和しないが、患者は疲弊する。便は無色で匂いは殆どなく、はっきりと水様となって、有形便ではなくなる。これは従来から米のとぎ汁様(小粒の塊を含む)と称される。初期に下痢便は噴出するが、次第に疲弊した患者の括約筋から漏れ出るようになり、溢れるほどの量で衣類や移送中に使う茣蓙を汚す。便以外にも嘔吐が特徴的である。最初は抑えられずに突出し、その後患者の口から自然に流出する。吐物はやはり水様で、米粒大の小粒を含有する。消化管からの大量の流出は、数時間で数リットルに及び、全体的な衰弱を引き起こす。患者は水を飲んでも口渇を訴え、四肢から胸腹部に広がる、激しい痛みを伴う筋肉の痙攣を認める。この時点での患者の容態の特長は、意識は明瞭だが、声は嗄れて聞き取れず、やつれた顔貌とどんよりした目とその周りに隈が生じ、眼窩は落ち窪んで、口唇のチアノーゼがあり、体表はねばねばした汗で覆われる。難民キャンプで24時間ほど経過した時点飢餓状態のコレラ患者の容態は、このように見える。脈は速く、しばしば触知出来ない。脈圧は弱く、心音は微かに聴取され、呼吸困難と無尿が認められる。36℃ほどの低体温で悪寒がある。このような古典的な症例では、治療を行なわないと、体液の完全な漏出による虚脱と腎不全で、患者は48-72時間で死亡する。
 
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