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症状
  熱帯の鈎虫症は重症となる。理由は大量の寄生が、栄養不良や(小児のような)弱体に突然生じ、他の欠乏症や消耗性疾患の誘因となるからである。しかしながら、鈎虫症に固有の症状は実にありふれたものである。これはその昔、真性赤血球増加症(Vaquez病)や血色素沈着症の症状の治療に、鈎虫を接種して用いたことからも窺える。組織内寄生期は宿主への幼虫移行症に一致し、体腔内寄生期は貧血症状が主となる(図8−8)。
 組織内寄生期または幼虫移行期
  流行地域では、この期は目立たず、無症状で現地人には問題とならない。
 皮膚所見:感染幼虫が皮膚を貫くのと同時に、欧州では《小膿か疹》が発症する。これは丘疹性紅斑で、掻痒があるため、擦過傷を合併する。数日で消失する。このように典型的な所見は、初回感染やわずかな感染の場合、熱帯の現地人には希である。
カタル性膿か疹:これも熱帯地方では一般に見過ごされてしまう。気道−消化管を表面的に刺激するもので、晩に多い咳、粘液性の痰、発音障害、さらには不全失語を伴う。これを日本ではかつて若菜病と称した。回虫症のように、真性のLoeffler症候群として起こることはないだろう。
  体腔内寄生期または消化管内定着期:十二指腸-空腸への成虫の寄生は、消化管症状は少ないが、時折重症の貧血をまねく、というのが通常である。
消化管障害:鈎虫症の初回感染では、発症はいつも20-30日後に、上腹部痛、悪心嘔吐、食思不振、あるいは味覚異常(土食症または《異味症》)、粘液性の下痢や著しい痩せといった所見で認められる十二指腸炎で現われる。この十二指腸炎は1-2ヵ月続くが、再感染のときには決して再発しない。例えば、流行地域に住んでいる人は、常に再感染しているので、下痢の傾向を除けば、消化管障害は見られない。
貧血症候群:実質的には、熱帯の鈎虫症の所見に集約される。これは鈎虫が吸血することで起こる。その重篤性は原因となる種( A.duodenaleのほうがN.americanusよりたくさん吸血する)、寄生数の程度、患者の栄養状態による。低栄養や鉄欠乏状態、いろいろな寄生虫や細菌やウイルスの侵撃を受けた子供は不安定な均衡状態にあり、この寄生虫感染でそれが崩れてしまう。この貧血はよく持ちこたえられるが、いくつかのものは治療しなければならないときに、偶然明らかになることがある。それは鈎虫の重感染例で代償不全となったものや、妊娠中の影響で危険が増す場合である。
  鈎虫症による重症の貧血は、つぎのようなかたちで現われる。蒼白は顕著で、黒い皮膚でそのように見えるときは、粘膜、特に結膜にいつもこれが認められる。心血管系では器質的心疾患の所見を引きおこし得る。努力性呼吸、頻脈、低血圧、各種の心雑音、キャロップ音、鬱血肝、X線上の心拡大がそうである。このような《心筋症状》は貧血との相関があって生じる。皮下の軟性で無痛性の浮腫は、飲酒したときに時折顔に現われるものと同じで、眼瞼や体下方の粘膜、生殖器に著明で、漿液の溢出を伴う。鉄欠乏は爪の異常として現われる。爪は軟化し( onychomalacie)平たくなって、さじ状に裏返る( koikonychie)。重要な陰性所見も引き起こす。亜黄疸や著明な溶血性の所見は、いかなるものも認められない。肝、脾、舌は正常である。結果的には、その重大性にも関わらず、この貧血は理に反するが如く十分うまく持ちこたえ、血色素量はひどく低下しているにも関わらず、この疾患はしばしば元気な状態に隠されてしまっている。このことは貧血がゆっくりと進行していくことを疑いなく示している(図1・浮腫があり、血色素量3g/dlの小児)。

図1

  血液生化学的には、血算は赤血球が 200万/μl 程度に減少し、時折 100万/μlあたりまで低下する。この貧血は低色素性で、ヘモグロビンは中程度大の血球の集ぞくより、さらに低下しているのが重要である。グロブリン量が中程度以下に大きく減少した、小色素性貧血である。結果的に、網状赤血球率が低下していることから、骨髄の反応が無くなっていることがわかる。同時に特記すべきことは、白血球増多と好酸球増多が認められることである。さらに血漿鉄が減少し、血漿蛋白、特にアルブミンが低下して、アルブミン/グロブリン比の逆転を伴う(図2・小球性小色素性貧血と好酸球)。

図2

  重症の鈎虫症による貧血の予後は、幼児の場合後まで残るものである。成長と神経運動系の発達を抑制し、ときには全身浮腫や合併症の影響による不全収縮像を呈し死亡することもある。予後を悪化させる病的因子には、腸管の寄生虫(回虫、糞線虫、アメーバ)、他の原因による貧血(ヘモクロビン血症、G6PD欠損症、マラリア)、各種の欠損症(クワシオルコル)が挙げられる。成人の場合、鈎虫症は小児より持ちこたえる。重症の貧血は希である。しかし妊娠中の女性ではヘモグロビン解離を引き起こし、流産や早産の原因となる。


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