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症候学
  回虫症はしばしば無症状で、症状があって検便をしたときか、糞便中に回虫 の成虫が自然と排出されたときしか認められない。それ故臨床症状があるときに、内科的あるいは外科的適応となる。生活史のなかで幼虫と成虫がなす2相が2群の臨床症状に一致する。即ち、侵入期の胸部、定着期の消化器の所見である。    第1期(侵入期、回虫幼虫症)
  幼虫が肝臓を通過するときはいつもは無症状である。それに対し、肺を通過するときには、肺胞壁の機能を司る部分を侵害して局所的なアレルギー反応を惹起する。Loeffler症候群の発症原因となる。これは好酸球症を伴う変動性の肺浸潤である。臨床的には無症状かときどきの微熱、乾性咳嗽、あるいは回復期には喀痰、喀血をみることもある(図1・喀痰中の幼虫)。放射線学的には、肺全体に1つ或いはいくつかの浸潤影、辺縁不鮮明像、斑状影、結節影、または粟粒影を認める。これらの像はしばしば偽性結核と称され、一過性で数日から数週間で消失する。生物学的には血中に高度の好酸球を認め、喀痰中には好酸球とCharcot-Leyden結晶がある。回虫に起因するLoeffler症候群は2ヵ月後以降にA.lumbricoidesの虫卵(図2)を糞便中に発見することで証明される。けれども時折幼虫が肺の中で身動きが取れなくなり、《寄生虫の成長不全によるLoeffler症候群*》という結果になることがある。糞便検査は陰性である。    *この症候群はヒトの回虫では稀であり、より頻繁なのは動物の回虫、イヌのToxocara canis、ブタのAscaris suumの感染による場合である。    <第2期(定着期、親回虫症)
  この段階では、寄生虫が人体に、内科学的外科学的に重篤な障害をおこすことがある。      一般所見と神経学的所見:これらは民間の伝承によるところが大きい。《寄生虫症候群》とは小さな所見が交ざったものを含有するものをいう。チック、咳発作、夜間性流涎、顔色不良やむっつりした表情、ぎらぎらした目付き、微熱がそれである。 Quincke浮腫による掻痒があるアレルギー性の症状は、暖かい時期の所見である。また、血尿を伴った腎炎や、結節性紅斑、幼児の症例で強度の寄生のため虚脱したことが報告されている。脳脊髄膜症状として、行動変化、痙攣、メニンギスムスがあるが、これらの現実性は議論の多いところである。    消化器症状:小腸に成虫がいると、しばしば腹痛を伴うが、これは偽性潰瘍の症状に類似することがある。痩せや一般所見の変化、あるいは悪心嘔吐(1そうかそれ以上の虫体が交ざっていることがある)、粘血性か普通の下痢があったりなかったりする。    外科的合併症:稀だが、緊急処置を要する。 小腸の咬合はいつもは回虫の一塊による閉塞でおこる(図3・回虫症によりイレウスを起こした子供)。さらに稀には、虫が詰まったことで重くなった部分が軸捻したり、腸重積症になったり、虫体が集積した部分が風変わりなヘルニアを起こしたりもする。いずれにしても、この特有の臨床症状が自然に治ることはない。例外なのは、《紐束状に》と称される、回虫が凝集したものが、軟らかい腫瘤として触知されるときである。一般に、回虫は外科手術によって発見される(図4)。   合併症の始まりは、成虫が消化管の付属器や腹膜に異所性に迷入することと結びつく。なかでも多いのは、肝胆道系への回虫症である。回虫が総胆管を塞ぐと、偽性胆石症になり、肝部仙痛や閉塞性黄疸、繰り返す胆道炎が起こる。ずっと稀にだが、胆嚢への迷入が引き金となって胆嚢炎になったり、肝内胆管への場合、肝に予後不良の細菌性膿瘍を作る原因となる。 Vater膨大部や Wirsung管が閉塞された場合は急性・亜急性の膵炎を引き起こすことがある。  虫垂を迷入すると、好酸球血症が顕著な熱発がある虫垂炎になる。最終的に成虫が小腸壁を穿破すると、急性汎発性腹膜炎をもたらすが、局部的な筋性防御や真性寄生虫性の腹膜−小腸間膿瘍のほうがずっと多い。真性穿孔は数少ないが、回虫が小腸や虫垂の縫合線上に障害をもたらしていることが関連づけられる。従って、頻度的にみれば、ある種の熱帯外科学的な処置、つまり消化管の処置が全て終わったところで駆虫剤を投与することが望ましいといえる。
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