病理:肉眼的には病変部の古さは、いろいろである。壊死巣は初期からずっと播種され、合着をおこし、炎症性浸出性の潰瘍壁を有した膿瘍(図2)をつくり、その周りを繊維性の不整のない壁が覆う。治療を怠ると、硬化病変となる。組織学的には、本来アメーバ性壊死は血管性の塞栓による梗塞病変にあたり、中心部がPalmer壊死による膿瘍を形成する。潰瘍性膿瘍は、フィブリノイドを豊富に含んだ小片により境された中心性壊死の集合で形作られている。その中にアメーバがいて、次に炎症性肉芽を作り、周囲の肝実質部とは分離される。このような病変は全て、内科的な治療に十分反応する。さらに時間が経つと、壊死部の周囲に結合組織が形成され、浮腫性、繊維性となる(図3)。病変部が外部と隔離されているので、たいていの場合中心部を外科的に排膿する必要がある。
典型的な急性型
発病にいたる条件:肝アメーバ症は、現在発育中または以前に誤診されたり忘れ去られた昔の急性腸アメーバ症に合併する。60%以上が初発例と思われる。本症は女性より男性の方に頻度が高い。
臨床症状:疼痛が前面に出る。右季肋部痛で、痛みの程度はさまざまあり、深く吸気することが出来ない。右肩を《きつく紐で縛られた》ように痛みが放散する。体温はふつう上昇するが、すぐに落ち着く。全身状態の変化を伴うこともある。肝腫は常に見られる(図4)が、その重要性はいろいろある。触診では、辺縁は鈍で固く、疼痛がある。無理に触診を行なうと激痛が走る。痛みで触れないところが1ヵ所見つかる。本症の肝腫にはひ腫を伴わず、腹水、側副血行路もなく、ふつう黄疸も生じない。右下葉に肺胸膜症候群を30%の症例で見る。アメーバの浸淫地へ旅行したり滞在していた者で、このような臨床所見がある場合、特に急性腸アメーバ症の既往が以前あるときには、本症が強く疑われる。しかし問診上得られた記録は、時として誤りであることもある。
補助的検査:X線検査では、右横隔膜弓は挙上し、可動性がない。胸膜は途中で判別出来なくなり、右下葉の肺実質はときどき暗くなる(図5)。胸水の貯留もしばしば生じる(図6)
日常の血液検査は診断に向けて価値がある。血算では、多核好中球優位の白血球増多症があり、血沈は1時間値で50mmを越える。肝機能テストでは変動は少ない。
糞便検査から得る情報は少ない。陰性でも本症を除外できないし、病原型、非病原型あるいは嚢子を検出し陽性であっても、本症を確診できない。
免疫学的検査は診断に多大の価値がある。ゲル内沈降反応(immunodiffusion(図7), immunoelectrophoresis(図8), electrosyneresis)は特異的で感受性が高い。ELISA(図9)、間接的免疫蛍光法(図10)や受動的免疫凝集反応、ラッテックス凝集反応は偽陽性を示すこともある。免疫学的に強陽性のときは腹部、特に肝のアメーバ症を強く示唆する。けれども時には急性腸アメーバ症や、長い時間が経過した既往の或いは未知の組織のアメーバ症のこともある。これとは逆に、免疫学的に陰性であっても、特に病初期には、肝アメーバ症を明確に除外することは出来ない。 超音波による肝の断層撮影では、膿瘍の大きさ、所在部位が明らかとなる。超音波検査では、幾つかの部位に液体の貯留を示す(低反響または無反響の)画像を得る。場合によっては混合性であったり、腎う膿瘍のように辺縁に反響増強のないモザイク様になる。肝のシンチグラム(図11)やテクネシウムを用いた検査は診断に用いられないが、(CTスキャナーによる)断層撮影は壊死病巣をはっきりと描出する。これら2つの技術は、膿瘍の発育を医学的に経過観察できる。病巣の回復は緩徐で、何ヵ月かして、画像上はっきりとなる。
この他の補足的検査は、いずれもほとんど有益でない。腹腔鏡では、肝は鬱血、肥大し、肝−横隔膜間が癒着して、ときおり膿瘍が局部的に凸型に突き出しているの認める。動脈造影は一部の例外でしか適応とならない。
穿針ガイド付きの穿刺は有益であるが、熱帯地方では超音波断層撮影や免疫学的試験が行なえるかどうかで、不可能なことがある。実際に行なうと、(アメーバは膿瘍壁に偏在しいるので吸引物にアメーバを含まないことの方が多いため)アンチョビーソース様の膿だけが回収される(図12)。さらに、その後に排膿する。空気とリピオドールの混合物を注入すれば、排膿後の空洞の大きさを観るのに役立つ。反対に設備の整った施設では、治療のためとか膿瘍の大きさを小さくする(超音波ガイド下穿刺)ための超音波検査の適応はない。
:化膿前肝アメーバ症や、組織内へ感受性がある抗アメーバ薬があるのに膿瘍を穿刺したり肝切除することは、定石としては正しくない。実際、たくさんの膿瘍が排膿することなく回復するし、抗アメーバ薬でうまく行くか否か比較する方がずっと価値ある。
内科的治療は大抵の症例で有効である。発熱は通常3-10日で解熱するが、疼痛や肝腫大の改善にはそれより時間がかかる。血沈値の低下は急速に進み、4-6週間で正常化する。これは回復の度合いを早期に測る目安となる。これと平行して、多核白血球も早期に減少する。肝腫大の改善および膿瘍の消滅には、最終的に3-6ヵ月を要する。血清学的検査は、肝アメーバの治療後数か月から数年しても陰性化しないため、短期間の経過観察には適さない。
十分早期に発見された症例では、内科的治療に失敗することはほとんどない。臨床上(発熱が10日以上、何らかの合併症状がある)、生化学上(血沈が1ヵ月しても高値)、超音波画像上(低反響部の増多、残存)が認められるときには全てが、穿針排膿または外科的肝切除の適応となる。
肝アメーバの臨床型
発症型:発熱は少なく、欠如していたり僅かに見られる程度である。患部や異所性に疼痛があったりする。反対に黄疸は、昔からの説として、血球溶解型または停滞型などいろいろな型が生じる。肺胸膜への合併症は肝自体の症状よりも前面に出ることがある。
潜在型:肝後部または左葉の膿瘍は、希で見逃され易く、ときどき合併症が1つあって見つかることがある。診断と治療が遅すぎて、その予後は重篤である。
亜急性または慢性型:これらには低温の雑音(bruit)が聴取され、原発性肝癌や肝硬変と所見が似ている。Kiener繊維性膿瘍、Achard−Foix肝結節と称される、特異的な病理型に相当する。
重症、劇症、合併症型:栄養不良の小児や治療が遅れた症例で見られることがある。Rogers型劇症アメーバ 症は、びまん性肝実質壊死に一致し、数日で死に至る。これより軽症では、肝の多発性膿瘍が見られ、治療が困難である。ときには他の病原体による重感染が起こり、アメーバ肝膿瘍以外の問題をもたらす。膿瘍は大血管にびらんを作って大出血を引き起こしたり、門脈を圧迫して門脈圧亢進症をまねいたり、肝後静脈では希にアメーバによるBudd−Chiari症候群が生じる。他の臓器でも同様である。ときには膿瘍は隣接臓器に侵入することがある。肝上部から拡がれば、胸膜、肺、縦隔、心外膜にびまん性膿瘍が出来る。肝下面からでは、腹膜を破り、ふつう限局性の腹膜炎の危険性がある。消化管や他の臓器にも同様に波及する。後方であれば、後腹膜に拡がることがある。
肝アメーバの鑑別診断
肝アメーバ症の問題点は、腫大した肝と発熱、疼痛にある。
肝の細菌性膿瘍は、熱帯地方ではアメーバ性より頻度が少ない。これにはふつう、敗血症、胆管胆嚢炎、肝内胆管の先天性拡張、腹部の感染病巣が合併する。病原菌の分離は嫌気性菌の方が多い。以前から存在した細菌性膿瘍にアメーバが重感染した場合は、判断が難しい。
原発性肝癌はアフリカの黒人に多く、肝アメーバ症に似たところがある。
metronidazoleによる治療がうまく行かないとき、アメーバの特異抗体価が上昇していないとき、患者の血中α-フェトプロテインが増加しているときに、本症の疑いがある。腹腔鏡や組織学的検査で鑑別する。
ある種の肝硬変も疼痛と発熱がある。しかし黄疸、腹水、浮腫および門脈圧亢進症の所見があれば、本症の疑いが急速に高まる。
肝の包虫症はアメーバと重感染して重症化することがある。胞嚢を誤って穿刺すると重篤な事態となることがある。
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