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 疫学


 赤痢アメーバ
 
  Entamoeba histolytica はヒトに病原性を示す唯一の原虫である(自由生活アメーバとして、 Naegleriaという原発性アメーバ性脳髄膜炎を起こす種が例外的にある。続く第7章を見よ)。この種はヒトに特異的である。
  侵襲型赤痢アメーバ(trophozoite histolytica または Entamoeba histolytica histolytica)は、赤痢様の糞便中や、大腸壁や転移先の臓器の膿瘍部に認められる病原性型である(図1)。大きさは30-40μm で、新鮮な検体では、透明な小さな偽足を動かしながら、素早く一定方向へ移動するのがわかる。偽足はその後すっかりなくなってしまう。細胞質は透明で辺縁にあり、微細な顆粒を中央にもち、赤血球を補食している。血球貪食性アメーバと名付けられた由縁である。核は染色後にはっきりと見え、中央にカリヨゾーム、辺縁に微細なクロマチンが規則的に配置されている(図2)。電子顕微鏡を使った研究では、ミトコンドリアとGolgi 装置が欠如していたということが特筆される。細胞内網様体は発達が未熟で、たいていが3枚の各種の膜によって構成されている。アメーバの運動と関係するものには、ポリメラーゼ化によってマイクロフィラメントを形成する、アクチンとミオシンに代表される蛋白の存在がある。

図1 図2

  非侵襲型赤痢アメーバ(英米学派はE.dispar、フランス学派はtrophozoite minutaまたはEntamoeba histolytica minutaと称す)は、大腸壁にいる非病原性型で、非赤痢型の糞便中に発見される。偽足を出してあらゆる方向に動き回る。核は侵襲型のそれと同じだが、体長は10-12μm と小さく、とりわけ血球貪食性でない。
  赤痢アメーバの嚢子は抵抗型で、アメーバを播種する。円形、不動性で、壁は厚く堅固である。若い嚢子は1核で、グリコーゲン胞を有し、鉄成分を含んだ屈折性のかん状体をいくつか認める。成熟嚢子は大きさが12-14μm で、核を4つもっている。
 
 生活史
 
   E.histolyticaの生活史は2つある)。たくさんの健康な保有者がいて、非病原性のアメーバを拡散させるサイクル(図3)と、遅れて患者に侵襲型として現われる病原性サイクル(図4)とを広める。  

図3 図4

 非病原性サイクル:非病原型は大腸の内層上あるいは粘膜上にある。分裂増殖をし、食物の残りや細菌を栄養とする。これらが病原性を示すことはない。ある種の悪条件になると、これらは1核、2核、それか4核の嚢子(図5・trichrome染色)に変わる。これら嚢子は糞便上に排泄される。外界に出されると急速に抵抗型となる。水温が0-25℃の間にある場合、およそ2週間生存する。湿り気のある糞便中では数日間、乾燥した後でも数時間は生き延びられる。そうしてこれらの嚢子は、新しい宿主に食物や飲料水を通して摂取され、嚢子壁は消化液で溶けてなくなり、後嚢子に変化する。核と細胞質の分裂の後、8つの脱嚢後栄養型(図6)が非病原型で大腸に再び現われる。非病原性のこのサイクルが持続するには、《嚢子保有者》である健康人によって、赤痢アメーバが確実に拡散されねばならない。

図5 図6

 
 病原性サイクル:これは非病原型から病原型に変化することで起こる。この《変異》は外部からの複数因子(大腸細菌叢の変化、粘膜の化学的あるいは機械的刺激)による影響の産物である。アメーバの系統という内因的な要素もある。ゲル電気泳動によって、20種のザイモデームから8種類だけ潜在的に病原性のアイソエンザイムを分離することが出来る。しかしながらザイモデームの安定性は確かなものではないらしい。 病原型は(トリプシン、ペプシン、ヒアルロニダーゼといった)酵素を豊富にもっており、これらが組織を壊死することが可能である。大腸粘膜に侵入することで、爪の一掻き状(図7)の潰瘍を形成する。潰瘍が粘膜下に達すると、そこでアメーバ(図8)は活発に分裂増殖し、≪シャツのボタン≫状といわれる、表面より奥の方が広がった膿瘍が出来る。このような微小膿瘍が急速に重感染を起こし、急性の腸管赤痢アメーバの原因となる。これは腸管のぜん動運動を亢進させ、隣接する粘液腺を分泌過多しに、毛細血管を徐々に潰し、MeissnerやAuerbach神経叢を刺激する。一連の変化が赤痢様症候群を引き起こし、卵白状の粘血便と仙痛をもたらす。微小膿瘍は自発的あるいは治療により癒着し、繊維性癒着を残して、このような仙痛の原因となる。 病原型は粘膜下膿瘍から一般には腸管外に放出され、そこで急速に増殖する。しかしこのような場合、アメーバは腸管膜静脈から門脈へ至り、そこで壊死を引き起こし、アメーバ性肝膿瘍の危険性が生じる。壊死巣は小さく播種性だが、次第に合体するか幾つかの集ぞく性膿瘍を形成する。肝の一部から出発して、アメーバは血流に乗って肺や稀にその他の臓器に到達する。

図7 図8

 
 赤痢アメーバの疫学的様相
 
 アメーバの感染:無症候性型は非病原性アメーバのサイクルに一致する。この潜在性の寄生虫症は E.histolyticaの嚢子(図9・ヨード染色)を飲み込むことと、その保有者がこれを排出することによる。ヒトとヒトの間の伝播はしばしば直接的で、社会の基礎的衛生条件に起因する。これよりも多いのは生きた嚢子が混入している汚水の使用、調理が不完全な野菜、きれいに洗っていない果実やサラダによる間接的なものである。疫学的に好ましい要因は大抵が以下のようなものである。不十分な糞便処理、いわんや嚢子を大量にばら播くことになる人糞の農業利用(図10)、個人の衛生観念の欠如(汚い手が混入を助長する)、糞便中の嚢子を食物の上に運ぶ可能性があるハエがたくさんいること、そして嚢子の生存を引き伸ばすことになる暑くて湿度が高い気象条件である。

図9 図10

 
 アメーバ赤痢の発病:血行性の臓器感染に相当する。アメーバ保有者のうち何パーセントがアメーバ赤痢を発症するかは、文献をみると地域によりばらつきがある。熱帯地方は温帯地方よりも高い数値である。この違いの説明として幾つかの文献が、病原性ザイモデーム株がより多いからだとしている。しかしヒトの寄生虫に対する抵抗性は均等な筈である。熱帯の国々の生活習慣、いろいろな寄生虫、細菌、ウイルスからの攻撃、低栄養や欠乏症といった条件が、十分な栄養と適正な衛生の恩恵にある欧州人よりも、アメーバに対する感受性を高めているのてある。
 免疫
   E.histolyticaについては、14種類の抗原が存在することが証明されている。これらのうち1つは病原性株の86%に認められ、さらに腸管外から分離されるアメーバには、腸管のみに寄生する型には存在しない抗原型があるように思われる。ある株の病原性は文献によれば、おそらくその抗原の構造によるであろうという。
 
 地理的分布
  赤痢アメーバの感染は世界各地で見られるが、やはり熱帯地方と温帯地方により多い。それに反し、アメーバ赤痢の発病はほとんどが気温の高い国々、とりわけ1月と7月の平均気温が25℃以上の地域で猛威をふるう(図11)。罹患率は有名な大病院では低く出るが、とても大ざっぱなものである。アジアでは、特にインドのデルタ地帯で高く、東南アジアでは死亡率が14%で全アメーバ症の25%がアメーバ性肝膿瘍という。アフリカの熱帯地方では、アメーバ症は均等に広く猛威をふるっている。アメーバ赤痢はサバンナに多く、アメーバ肝脳膿瘍は森林に多い。北アフリカ、中近東、ラテンアメリカ(メキシコを除く)では多かれ少なかれ頻繁に見られる。欧州や米国では稀で、大半が輸入症例である。

図11


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