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 皮膚・粘膜リーシュマニア症の症状と診断


 
 皮膚リーシュマニア症
 
 旧世界の皮膚リーシュマニア症(ICD 085.1. 085.2.)
 
 L.tropica, L.major, L.infantum, L.aethiopicaの4種のリーシュマニアが明らかになっている。中間状態にあるものは全て、慢性経過や無症候性をとる可能性がある。L.aethiopicaに因る皮膚リーシュマニア症は単純型皮膚リーシュマニア症を作ることが最も多く、ときにびまん性皮膚型や(口鼻腔)粘膜型を形成する。
L.tropica で惹起されるヒト型または都市型:本型は乾燥型と呼ばれ、地中海沿岸の都市部に多い。潜伏期は2-4ヵ月で、ときどき遅延する。病変は単一か複数で顔面や四肢といった露出部に多い。当初は深紅の円形丘疹(図1)で次第に表面から浸潤して深く広がる(図2)。何週間か経過した後、中心性潰瘍からか皮を形成する。この時期のものが典型的なリーシュマニア症の病変である。か皮を伴った潰瘍は無痛性で、境界不鮮明な直径2−3cmの炎症性結節を遺す。典型的にはか皮は潰瘍の深さによって《鍾乳石様に》発育する。病変は時折掻痒を伴うが、決して痛みはない。経過は何ヵ月か、ときには1年以上かかって自然に回復する。潰瘍部が盛り上がってはん痕が残ると醜くなる。
図1 図2


L.major に因る人畜型または農村型:経過が早いため、乾燥型と区別される。病変部の潰瘍はより深くて炎症がひどく、はん痕はより多く残り深刻となる(図3)。(融合や重感染といった)合併症を生じない限り、無痛性である。湿潤型は特に中央アジアの農村部で見かけるが、地中海沿岸や黒アフリカにもある。6-8ヵ月かけて自然に回復する。
図3


散発型:恐らくL.infantumに因る皮膚リーシュマニア症で、アフリカ北部に散発的に見られるとの報告がある。一般に病変は1つで、深堀れ潰瘍かルポイド様で、数か月から2年かけて顔面に病変を作る。

再発型:従来の説に反して、皮膚リーシュマニア症は部分的一時的な免疫の他は生じ得ないとするものである。以前病気になった者が定形型の新しい感染を示すことがある。これは十分免疫がなかったり、不顕性であったり、丘疹の時期で止まったものや、部分的な免疫を獲得していた場合に起こる。再発型はルポイド様と結核様の二型がある。療法とも治療が困難で、数年持続する。誤診されることがたくさんある。病変は必ず顔面に見られ、以前の病変がはん痕に近いかたちで残っているか無傷かである。病変は1つか複数で、黄色調の円形結節で、直径2-3cm、固いが弾力性があり、滑らかな表皮で覆われている。

新世界の皮膚リーシュマニア症 (ICD 0.85.3.)

 本症はラテンアメリカの農園の従業員(キナノキの樹皮やチクル*を拾い集める)や森林の住民(樵、焼畑農民)、道路工事人、鉱山や石油採掘者、砂金採取者、夜働く狩猟家等などと旅行者が罹る。病変は旧世界の皮膚リーシュマニア症のそれと重複するが、びまん性で慢性化し、四肢の切断も生じるためより重篤である。
*チクル(chicle)は中南米熱帯地方産の木サポジラから採れるチューインガムの原料で、その採取者をチクレロ(chiclero)と呼ぶ。

チクレロ潰瘍L.mexicanaに因り、丘疹性結節または潰瘍性病変が、単独で良性の病変を耳朶に生じる(図4)。数か月から半年で自然寛解することが多いが、損傷は大きい。
図4


ブバ(buba)または森林イチゴ腫: Pian-bois(森林イチゴ腫)という表現は使われなくなり、ギニアに於けるLeishmania guyanensis が主たる病原体となっている、リーシュマニア症の多型性皮膚病変に数えられなくなった。臨床型の50%以上が無痛性潰瘍に時どき周囲に小病変を伴う症例で、潰瘍は境界明瞭で浸潤性で、時折か皮で覆われる(潰瘍か皮型)。この他に認められる型として、硬化性索状リンパ腺炎を合併する潰瘍が数珠状に連なり、無痛性のスポロトリクム型(20%)や、か皮型、丘疹型、結節型、カリフラワー型がある。病変の数は1から10で、平均3つで、70%以上は四肢に出来る。

ウタ(uta): L.peruvianaに因る基本的には小児の病気で、潰瘍は分立しており、数か月で数が減少して回復するか、湿潤な部位に広がり、か皮を形成し、ときにはカリフラワー状になって、重感染やリンパ節炎を合併する。つまりウタは顔面から多方面に広がり、口腔粘膜や鼻腔へ至ることもある。

L.panamensisに因るもので、パナマに見られる。臨床病変は森林イチゴ腫と殆ど変わらない。鼻咽喉粘膜に発生する2−5%の症例が本型である。

L.braziliensisに因る一次性皮膚病変:その重症度から他種で惹起される皮膚リーシュマニア症とは区別される。リンパ系に広がり、粘膜に病変を作り、慢性化して、晩期には二次病変が現われる。

びまん性皮膚リーシュマニア症( ICD 0.85.4.)  旧世界型(L.aethiopicaに因る)と新世界型(L.amazonensis, L.pifanoiに因る)は臨床症状も組織型も類似している。
 本型は丘疹-結節型で皮膚全体に生じ、特に四肢と顔面に好発して、L型らいに近似する。潰瘍や粘膜の病変はない。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染の経過中に特に頻繁に認められるようである。治療しないと致死的である。

皮膚粘膜リーシュマニア 症(ICD 085.5. )  粘膜の病変は鼻、中咽頭、口腔内組織、時には食道といった軟骨に接した部位に生じ、重感染を起こす。同部の欠損は有痛性で、気管支肺炎か栄養不良で死亡する。

エスプンディア(espundia)L.braziliensis, L.panamensisによって引き起こされる。初発皮膚病変は特異的でないが、5%の症例で初発病変を見てから数年の経過中に、リンパ行性と血行性播種による粘膜病変が出現する。粘膜病変が現われる患者の50%は2歳児だが、それ以降に見られることもある。鼻や耳朶の軟骨部と口唇や中咽頭の粘膜に発症する。この病変は拡大性で、組織欠損で鼻中隔は破壊されて、鼻や耳朶の部分的切断となる(図5)。
図5


旧世界の中鼻リーシュマニア症:スーダンや希に北アフリカで見られる皮膚粘膜リーシュマニア症は臨床上新世界型と類似し、重篤で欠損を生じる。しかし本型はエスプンディアのように、初発皮膚病変から転移しない。口腔や鼻腔粘膜、希に結膜からの直接接種の形をとるか、隣接皮膚からの進展による。マグレブ地方ではL.tropica, L.major、スーダンではL.donovaniが病原である。

皮膚型、皮膚粘膜型リーシュマニア症の診断

鑑別診断  皮膚リーシュマニア症の多様な病変は幾多の皮膚病と類似している。せつ、異物反応性肉芽、エキツィーマ、真菌性細菌性潰瘍、Hansen氏病、サルコイドーシス、狼そう、真菌症、皮膚の良性と悪性の腫瘍がそれらである。痛みがなく、重感染では汚染があり、(サシチョウバエ がいる)分布地域で、慢性病変であることが鑑別の指針となる。実際、浸淫地帯に滞在または居住した者で、2週間以上にわたり皮膚病変が存在すれば、病原体の確認を問わず、リーシュマニア症と診断する必要がある。

生物学的診断  リーシュマニア症が存在することを証明するのが唯一の診断法である。この原虫はふつう、病変部縁辺を掻爬して得られる皮膚切片を調べると見つかる(図6)。Giemsa染色による塗抹標本は必須の診断法である。同様に皮膚生検を行なったり、病変部縁辺に生理食塩水を数滴注入して、それを回収してスライドグラス上で検鏡すれば組織学的検査の効率が増す。 May-Grunwald-Giemsa染色は全ての場合に用いられる。直接法では大抵陽性となるが、新世界では特に重感染のため陰性となることがあり、その場合新しい検体を採取して調べる必要がある。とりわけルポイド型では原虫が僅少で、NNN培地で培養するかハムスターに接種しなくてはならない(図7)。リーシュマニアのアンチモン製剤に対する感受性試験は試験官内ではありとなるか、臨床上の結果はこれとうまく相関しない。血清学的にはいつも陰性である。培養リーシュマニア抗原を利用したMontenegro皮内試験では70%の症例で陽性となるが、残りは不定で、浸淫地域での診断価値以外のものはない。
図6 図7


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