E.granulosusの亜種には、中間宿主及び終宿主との関連や、地理的分布、幼虫の好発寄生臓器についての差異が知られている。例えばE.granulosus equinusはウマの肝でしか幼虫は発育しない。
ヒトでの生活史:ヒトは2つの様式で幼虫被殻を摂取する。感染している犬に直接に接触することと、水や食物(果物や生野菜)、感染したイヌの排泄物を介して間接的に暴露することである。体内に入った虫卵は胃で孵化し、六鈎幼虫を放出する。これは小腸壁を通り抜けて、静脈内に侵入し、門脈系へ至る。これらの50-60%は肝に留まり(図5・肝の巨大病変)、30-40%は肺へ、残りの5-10%の症例では他の臓器(心、脳、脾、腎、骨、筋、リンパ腺)に病変を生じる(図6・脳の病変)。六鈎幼虫はゆっくりと包虫嚢(hydatid cyst, kyste hydatique) に変態する。
包虫嚢の構造:中空の球形で、2枚の膜によって覆われ、包虫液で満たされた水泡をなし、宿主細胞の反応による繊維で取り囲まれている(図7)。包虫周囲の繊維性反応は、二次性の結合織であり、石灰化することは殆どない。寄生虫側の本来の膜は全部で2枚である。胞虫嚢壁の胚層はより内側にあり、貯蔵物質を多く含んだ、大きな核をもつ胚芽細胞からなるきめの細かい膜である。これは外生娘胞虫嚢、という外層から分れており、これら2層が包虫を包含している(図8)。包虫液は清明で、岩清水のような液体である。寄生虫の排泄物と分泌物からなるが、宿主の体液物質も含まれる。胞嚢虫壁は胚層から分離し始め、多数の頭節をもった繁殖胞を形成する。頭節には(吸盤と鈎という)付着器官がある。包虫砂には、胞嚢虫壁から離れた、これら全ての要素が含まれている。
娘胞虫嚢では2種類ある。内生のものは頭節のある繁殖胞が成長したもので、包虫嚢の内側にあって、外に開口していない。ごく希に外生があるが、これは胞虫嚢壁が外側にかん頓して生じるものである。これは胞虫嚢に変化が無ければ、外側に向かって同じように成長する。
胞虫嚢の成長:容積の増加では、感染した者の年令(成人よりも小児の方が成長が急速)と臓器(脳と肺では他の臓器よりも成長が早い)に依存する。胞虫嚢は瘻を作ったり、感染したり、管腔臓器で破裂することは殆どない。成熟してくると、遊離した胞虫嚢が二次性包虫症を起こす危険がある。時おり偶発的に石灰化するが、幼虫が退行しても後まで生き残ることは稀である。
地理的分布:包虫症は広く分布するが、特にイヌによって守られた大きなヒツジの群れがいるところで、しばしば上昇を見る。南米(アルゼンチン、ウルグアイ)、北及び東アフリカがそうで、オ−ストラリア、キプロス、サルジニア島とイベリア半島では減少している。このような包虫症の流行域では多くが、イヌとよく接触する小児と、職業上暴露される者(羊飼い、精肉業者)に感染が見られる。
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