マラリアの疫学


ヒトに感染するマラリアには、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、卵形マラリア、四日熱マラリアの4種が知られている。特に熱帯熱マラリアは悪性の経過をとり、人命に重大な危険をもたらすので重要。

熱帯熱マラリア 三日熱マラリア 四日熱マラリア 卵形マラリア
ICD-9/10コード 084.4, B50 084.1, B51 084.2, B52 084.3, B53
Plasmodium P.falciparum P.vivax P.malariae P.ovale
分布 熱帯(最低気温18℃) 北緯37〜南緯25 局地的 サブサハラ*

*特に三日熱マラリアの少ない地域に多い


WHO熱帯病制圧部門の推定によれば、現在世界でマラリアが流行している国は、100カ国で、流行地域の居住人口は23億人。
年間罹患者数は3-5億人、年間死亡者数は150-270万人で、うち5歳未満が100万人。アフリカの患者が80%を占めるとされる(アフリカのマラリア再興の現状については、CDCの季刊誌EID,vol.4,no.3参照)。
マラリアの感染者は、免疫機構が確立していない5歳未満の小児と、免疫機能が寛容化している妊婦に多い。
マラリアに対する免疫がない非流行地の住民が、流行地に入って感染して死亡する事例が増えている。

マラリアの流行を惹起する要因として、地球環境の変化、環境破壊、ヒトの大量移動が挙げられる。
難民問題や地球温暖化現象がマラリア疫学に与える影響は、不明な点が多く、さらに研究されるべき(WHO熱帯病研究部門参照)。
薬剤耐性マラリアや殺虫剤耐性マラリアの問題が、世界的により深刻になっている。

マラリアの生活環
マラリアは感染した雌ハマダラカの吸血により、人体に侵入する。ハマダラカ(Anopheles)属の唾液腺に集結した数百のスポロゾイトが、吸血時に人体内に入り、血流にのって1時間以内に肝に達する。肝細胞内に入った後クリプトゾイトとなり、約1週間で成熟してメロゾイトとなり、肝細胞を破って再び血流に放出される。人体感染からここまでを赤血球外発育期といい、この時期が概ね潜伏期となる。クリプトゾイトのなかには肝細胞内でヒプノゾイト(休眠体)と呼ばれる非活動型になるものもある。この現象は三日熱マラリアと卵形マラリアによく見られ、感染後、数年から数十年して再燃することがある。メロゾイトは赤血球に侵入してトロフォゾイト(栄養体、輪状体)となり、48-72時間でシゾント(分裂体)に成熟して、新たなメロゾイトを放出する。この周期がマラリアの発熱発作にほぼ一致し、この期間を赤血球内発育期と称す。シゾントの中には雌雄のあるガメトサイト(生殖母体)となるものもあり、これがハマダラカに吸血時に吸い上げられれば、マラリアの伝播が起こる。
ガメトサイトは雌ハマダラカの胃で雌雄のガメテ(生殖体)に変態し、受精してオーキネートからオーシストと成熟する。オーシストが破裂してスポロゾイトが胃壁から放出されると、これらは唾液腺に集結して、新たなヒトへの感染を可能にする。


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