ザンビア

AMDAザンビアから見たコミュニティ・ビジネス・開発

AMDAザンビア Virgil Hawkins
AMDA Journal 2005年 7月号より掲載

はじめに3つのクイズ

世界のとある発展途上国の貧しいスラムのなかで、ある病気が拡がって住民を苦しませてい ます。そして、遠く離れた外国から来たあるNGOが自分の資金を使って、その病気の蔓延をくい 止めるために一緒に働き始めました。しかし、何年たっても、やはりその問題の規模が大きす ぎて、これからも何年もかけて活動を続けないとその病気を止められません。しかも、何年も 頑張ったそのNGOの資金がそろそろ底がつきましたし、いつまでも遠く離れた外国で活動をす るわけにはいきません。さて、そこで問題です。あなたならどうしますか?

(A) 精一杯やってきたが、我々ができることはここまでと仕方なく帰る
(B) そもそも病気の蔓延を止めないといけないのはその国の保健省だから任せて帰る
(C) そこの住民たちが自分で自分の健康を守れるようにして帰る

 (A)と答えた人、そんなに簡単にあきらめてもよいのでしょうか?まだできることがあるか もしれませんね。
 (B)と答えた人、確かにその通りですが、その国は貧しくて、その保健省が与えられている 保健サービスへの予算もスタッフの数も非常に少ないのです。だから、ある程度の治療ができ ても、予防活動などが難しく、その国の力だけではこの病気を止められません。
 (C)と答えた人、なかなかいい線いっていますね。その住民は病気になりたくないはずだし 、みんなで力を合わせれば、自分のコミュニティから病気になる人を減らすことができるでし ょう。その国の保健政策に沿った健康的な社会になるように、国の保健サービスだけではなく 、住民達も力を合わせて双方で活動を推進していくことが効果的でしょう。
 具体的な活動としては、住民たちが協力し合って、病気の村人がきちんと薬を飲んでいるかど うかを確認することと、蔓延を防ぐためにコミュニティで保健教育などを行ってその病気に対す る住民の予防意識を高めることなどができるでしょう。

そこで、2つ目のクイズです。しかし、住民たちが力を合わせるといっても、誰がリードしてそ の「力」を集めて、そして誰が実際コミュニティのなかでその地道な活動を続けていくのでしょ うか?

(A) 病気になりたくないという気持が働いているからボランティアが自然に団結してくるでしょう
(B)教会や地元のNGOなど、既存する住民団体を通して活動を続けてもらう
(C) そのための新しい住民組織を団結させ、自立するまでサポートする

 (A)と答えた人、残念ながらそんなに簡単に人は集まりません。自分または自分の家族が今病 気でなければ、いくら同じコミュニティだといっても、隣人の苦しみは他人事になってしまいます。
 (B)と答えた人、もうすでに住民ネットワークをもってコミュニティのなかで活動が豊富な団 体を通すというのはいいアイディアですね。ただ、その新しい活動はその団体にとって負担になり 、その団体の本来の目的からずれる恐れがあります。
 (C)と答えた人、最初に団結させるのは大変かもしれませんが、この病気を防ぐことを目的に つくられた住民組織だから効果的でしょう。
 いずれにしても、この問題においてはその地域の住民が中心になるわけだから、「ボランティア 活動」という形になるでしょう。しかし本来、ボランティアは無給で働くわけだから、ある程度の 時間、金銭的な余裕のある人でないと長続きはしないものでしょう。スラムに住み、ただでさえ貧 しくて、家族を支えるために一生懸命働かないといけない人たちがボランティアとして毎日他人の 病気と闘うのでしょうか?
 やはりどこかで、なんらかの形の報酬がなければその活動が成り立たないでしょう。また、ボラ ンティアといっても、誰でもができるわけではなく、定期的な研修が必要となります。それから、 ボランティアが無給で自分の時間を提供するとしても、活動をするのに文房具、身分証明書の発行 など、様々なところで費用がかかります。
 さて、そこで3つ目のクイズです。そのNGOが現地のボランティア団体と交代して、国に帰るとし ても、活動を続けてもらうのになんらかの金銭的なサポートが必要となります。この資金はどこか ら調達しますか?

(A)受益者などから使用料をとる
(B)事業の申請書を作成して他のドナーから調達する
(C) やはりこれは現地政府の責任だから活動費を負担してもらう
(D) その地域で別のビジネスをはじめ、その利益を事業に流す

 この長引く病気に関しては、世界保健機関(WHO)からも治療を無料にするようにということにな っており、またその予防にしても、保健教育などの受講者から使用料をとるわけにはいきません。 他のドナーに事業計画を作成して資金を調達することは可能かもしれませんが、どの基金でもだいた い1〜2年で終わってしまい、長期的な解決策にはなりません。確かにできるところでは現地政府は自 分の住民の健康に関する責任をとらなければいけませんが、その保健省が研修をボランティアに提供 できても、予算の面から活動費やボランティアに対する報酬を出すことはとても難しいでしょう。
 そこでひとつのちょっと変わった選択肢が残ります。実施しようとしている保健活動と関係のない ビジネスをはじめ、そのビジネスから得た利益を保健活動に転用することです。どのビジネスにして も目的は利益を出すことですが、その利益を株主や一部の社員にではなく、保健活動を行っている住 民組織の委員会にいくようにと、本来なら関係のない二つの組織をリンクすれば現地レベルで自立で きる開発システムは成り立つと考えられます。うまくいけば、恵まれていない住民のための自立発展 性の高い福祉システムが残るだけではなく、少しでもそのコミュニティの経済成長にも貢献できるで しょう。

AMDAザンビアの保健と農業開発のユニット

ザンビアという発展途上国のジョージ地区という貧しいスラムの住民のなかで結核という病気が広 がって住民を苦しませています。そこで遠く離れた日本から来たAMDAが結核の蔓延をくい止めるため に一緒に働き始めました。そこの住民が自分で自分の健康を守れるようにと、結核治療サポーターと いうボランティア住民組織を団結させました(具体的な活動は藤本悌志氏の活動報告を参照)。
 AMDAは1997年からザンビアで活動をしていますが、一つの中心的な事業は栄養推進の事業です。保 健省から農園用の約3ヘクタールの土地を借り、雨季にはボランティアの力を借りてたんぱく質の豊 富な大豆を栽培し、食生活と栄養の改善を提案してきました。 AMDAが栽培した大豆をJICAとルサカ 保健局が組織した栄養推進の住民組織に提供し、その住民組織がコミュニティをまわり大豆料理を教 えながら安く大豆を提供してきました。
 これらの活動の将来を考えたとき、農業の収入を保健活動にリンクさせて自立運営ができないだろ うかというアイディアが出てきました。せっかくの広い農園は、栄養推進事業のための土地とはいっ ても、農業の収益を上げなければなりません。自立運営を目指すために、2004年の年末から給水シス テムを改善し、乾季の栽培をより効果的なものにすることができました。大豆だけでなく、トマト、 キャベツ、玉ねぎ、茄子、オクラ、かぼちゃなど商品価値の高い多様な農作物の栽培を始めました。 さらに養鶏場を二つ建て、全体的に利益が出せるビジネスに進化させるという狙いで少しずつ農園の 開発を進めています。 収益事業として成り立てば、この農園は栄養推進事業のための大豆をつくり ながら結核事業をこれからもずっと支えていけることができるはずです。
 しかし、金銭的な自立だけで自立にはなりません。組織的な自立も重要な要素です。特に本来関係 のない二つの活動(結核治療サポーターのボランティア活動と農業のビジネス)を頑丈な絆で結びつ けようとしているため、外部の組織の力、あるいは数少ない個人の力に頼らないシステムを確立する ことが必要不可欠です。
 現在、AMDAは農園を運営していますが、AMDAが帰った後には、農園長や会計担当のスタッフなどが すべての活動、計画、予算づくり、会計を管理できるように能力を身に付ける必要があります。そし て、一つの自立した組織として農園管理が行われるという形に持っていく必要があります。また、公 正に利益を保健活動に転用するために、利益の扱いかたや会計監査などに関する措置を決め、保健セ ンターや結核治療サポーターの代表と契約を結ぶことが必要になります。結核治療サポーターに関し ても様々なシステムを確定する必要があります。
 このように、AMDAはザンビアのジョージ地区での保健活動を経済活動とリンクさせました。このこ とで、保健活動を一つの開発ユニットに組み込んで金銭的にも組織的にも完全に自立運営できるよう な形を目指そうとしています。現在取り組んでいることは、農園の収益性を高め持続性を保証できる ようにすることと同時に、保健活動と農園の組織運営能力を強化することの二つです。

包括的な開発ユニットへの発展の可能性

AMDAは、同じ農園の敷地内でその他のいくつかの活動を行っています。二つのトレーニングセンター があり、一つは裁縫教室でもう一つはコミュニティ・スクール(以前は識字教室)です。裁縫教室で は、地区の住民が技術を学び経済的に自立した生活ができるように職業訓練を行っています。コミュ ニティ・スクールでは、何らかの理由で学校に通えない子どもたちが公立の小学校と同じカリキュラ ムで学んでいます。
 教室の生徒からはわずかな授業料をとっていますが、これは先生の給料、教科書、ミシンのメンテ ナンスなどの活動費を支えるほどの収益にはなっていません。そうすると、同じ敷地内で行われてい るこれらの活動も農園の傘の下に入り、足りない活動費も農園の利益でカバーするという形になりま す。しかし、すべての開発活動が農園の利益に頼るのも危険で、より多様な収入源を確保したほうが 安定するでしょう。
 そこで、裁縫教室の卒業生を中心に裁縫ビジネスを始めることにしました。卒業生がトレーニング センターのミシンで制服、作業服、私服などを作って販売することです。これはもちろん教室を支え るための収入源の意味もあるが、卒業生の進路サポートという意味もあり、効果的だと考えます。AM DAのトレーニングセンターで年間40〜50人の裁縫卒業生を出していますが、ミシンがないため、ある いは経験がないため卒業から就職までの一歩が困難な場合が少なくありません。裁縫ビジネスがあれ ば何人かに一時的な就職と貴重な経験を与えることができます。
 しかしながら、やはり将来的なことを考えて、収入源は多様なものとして考えていかなければなら ないとすると、スタッフの柔軟な発想も取り入れるべきでしょう。そこでもう一つの小さな収入源と して、同じ農園・トレーニングセンターで小さな雑貨屋を始めました。農園の野菜や鶏を販売すると 同時に冷たい飲み物、つまみ、日常雑貨なども販売しています。
 すべての活動をつなげてみると、そして長期的に考えると、外部の資金・組織に頼らない現地レベ ルで完全に自立した、栄養推進、結核治療サポート、保健教育、コミュニティ・スクール、職業訓練 などと包括的な地区開発活動ができる組織になります。これを目指して、AMDAザンビアでは住民参加 型の開発事業、ビジネス、そして全体的な組織におけるシステムづくりに力を入れています。

今後の結核治療サポーター事業拡大に向けて

計算上、現在の結核治療サポーター活動の規模だと、将来的な農園からの収入で十分支えられると考 えています。しかし、2005年の7月から結核治療サポーター事業の規模が約10倍拡大する予定です。J ICAの草の根開発パートナー事業が採択され、ジョージ地区ともう一つのカニャマ地区(総人口30万 人以上を抱える地域)で活動を実施する予定です。これらの地区に対して効果的な結核治療サポート を実施するためには結核治療サポーター200人を動員する必要があると考えられます。この事業の実 施期間中(2年半)、活動費は事業が負担することになっていますが、事業が終了するまでに現地レ ベルの収入源も拡大し、結核が問題とならなくなるまで自立した住民組織がルサカ保健局と一緒に活 動を続けられるようにしたいと思っています。
 もうすでに、カニャマ地区の近くでより大きい規模の養鶏事業を計画しています。これからもその 他の様々なビジネスの可能性を探るつもりです。また、これからもルサカ保健局に対し交渉を続け、 とりあえずサポーターの研修の費用だけでも、保健局が負担するようにしたいと思っています。これ らのことで、事業が始まる前から事業が終わったことを想定して、事業で達成したことを何年後も持 続していくことが出来る事業を実施したいと思っています。

最後に一言

開発の分野でよく引用されることわざで「人に魚を与えれば一日食べられるが、つり方を教えれば 一生食べていける」というのがあります。開発を進めようとしているNGO はやはりこれを常に意識し て活動をしなければいけないと思います。 どの事業でも活動におけるもっとも大きな目標は、事業 としての存在意義すらなくなることです。 つまり、外国の援助団体が存在する必要がなくなることで す。そういう意味で、開発事業の「成功」とは、事業終了してから 5年後、あるいは10年後に何が残 っているかが勝負ではないかと思います。AMDAザンビアも自立を目指すだけではなく、その後にも発 展が持続するといった長い時間を見据えて頑張らなくてはならないと思っています。




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