ベトナム

ベトナムで新しいプロジェクトを開始

AMDAベトナム  川崎 美保

AMDA Journal 2004年 8月号より掲載

「ベトナムには国際援助など必要ないのではないか」ベトナムの首都であるハノイ市に到着してすぐにそう 感じた。人々の服装や食事、建物や公共交通機関等の表面的な観察にしか過ぎないが、生活水準はほとんど 日本と変わらない。携帯電話が一般的に使われており、ほとんどの車はエアコン完備で、公共バスですらエ アコンが効いている。市内のあちこちに、おしゃれなレストランやカフェ、雑貨屋やお土産屋が立ち並び、 エステや化粧品屋、そして様々なショップがある。ベトナムに着任して初めの1週間は、どうして、こんな 国で援助が必要なのだろうと自分の中で大きな葛藤があった。しかし、北部山岳地域の事業地を視察し、地 元関係者の話を聞き、人々の生活を自分の目で見て、都市と地方の経済格差を目のあたりにし、支援の必要 性を感じた。事業地では、電気、水道、交通、通信、衛生施設、医療施設、学校等の基盤整備が未発達であ った。また、住民のほとんどは少数民族で、農業に従事しており、ベトナム語を理解しない人々、さらには 、文字の読み書きができない人々もおり、貧困層が多かった。

ベトナムの経済に関する資料を読むと、ベトナムは1986年に「ドイモイ(刷新)政策」を宣言し、市場経済 の導入と対外開放政策を推進した結果、1990 年代にはGDPが約2倍に増加する成長を果たしている。特に、1 992年から 1997年にかけては、年率8〜9%の経済成長を遂げ、貧困層の人口も半減している。しかし、急速 な経済成長に地方の開発がついていかず、都市と地方の経済格差が広がっている。

このような現状を踏まえ、AMDAは、外務省の日本NGO支援無償資金を受け、北西部山岳地に位置するホアビン 省ダーバック郡の1つのコミューンおよびソンラー省イェンチョウ郡の2つのコミューンを対象に、2004年4 月から事業を開始した。事業地の説明を交え、新事業の紹介をしたい。

ホアビン省ダーバック郡
タンザンコミューン

ホアビン省はハノイ市内から車で2時間程の場所にある。ホアビン省ダーバック郡の中心地までは道路が舗装 されており、アクセスも良い。しかし、ダーバック郡からタンザンコミューンまでは未舗装のがたがた道の 山道を四輪駆動車で2時間半程走り、ダー湖の湖岸に到着後、さらに船で20分程かけて対岸に渡る必要があ る。湖の対岸沿いに広がる山にタンザンコミューンがある。同コミューンは9つの村落に分かれ、5つの村落 は湖岸に位置し、4つの村落は山間部に位置し、コミューン内には、計2000名以上の住民が住んでいる。コ ミューン住民の約90%は少数民族で、主にムオン族とタイ族が占める。

1次医療サービス向上の必要性

タンザンコミューンが抱えている問題点は1次医療施設が適切に機能していないことだ。
     コミューンには、コミューン全体の医療を担当するコミューンヘルスセンター(以下、CHC:Commune Heal th Center)があり、コミューン内の各村落には、村のヘルスワーカー(以下、 VHW:Village Health Wor ker)が1人ずつ配置されている。山岳部の住民達はVHWに健康相談をしたり、薬剤の購入を行ったり、CHCで 受診するケースも多いが、ダー湖岸の住民の多くは、2次医療施設である郡病院に直接行っている。そのた め、CHCの受診者は毎日5人程しかおらず、1次医療サービスの空洞化が起こっている。この背景には、CHCへ のアクセスの悪さ、医療施設・医療機材の未整備、医療技術レベルの低さ、医薬品不足等がある。特にアク セスの悪さは顕著で、 CHCに行くには、足場が悪く、かつ40度程の勾配のある未舗装の道を船着場から40分 程歩く必要があり、患者の搬送が大変困難である。尚、VHWに関しては、全員中学校卒業レベルの教育水準 で、村落の住民の中では高学歴という基準で選ばれている。VHWに選ばれた後、郡立病院で3ヶ月間のトレー ニングを受けただけに留まり、普段は農業に従事しており、定期的なトレーニングや教育が行われていない ため、十分な医療技術や医療知識を持ち合わせていないのが実情である。

湖岸の住民は3〜4時間程かけて、ボートと車輌を乗り継いで、郡立病院まで行くこ とが可能であるが、山間部の住民にとっては郡立病院まで足を運ぶのは大変だ。湖岸までたどり着くため に、山道を3〜4時間歩き、そこからさらにボートと車を利用し3〜4時間かかるのであるから、片道だけで6 〜 8時間もかかる。また、杖を持たないと歩けない道や、急なでこぼこ道もあるため、病人や、妊産婦、乳 幼児等の搬送はかなり困難である。さらに、雨季には、足場が悪く、歩くことすら困難となるため、山間部 の住民達が湖岸まで降りることは大変困難である。従って、山間部にも1次医療施設が必要とされている。 また、VHWやCHC等の1次医療施設が適切に機能し、高度な治療が必要な際には、1次医療施設から2次医療施 設に転送できるようなリファーラルシステムの構築が必要である。

保健衛生教育の必要性

また、コミューンには電気が通っておらず、裕福な家庭のみ、家庭用の水力発電機を設置して、わずかな電 気を発電している。そのため、テレビやラジオ等のマスメディアが普及しておらず、電話も無いため、住民 達の情報が限られている。そのため、住民達の保健衛生に関する知識は低い。
 また、CHC及びVHWは住民の疾患予防のため、住民協力員(Population collaborator)、女性連合、青年連 合等(以下、各組織)と共に住民に対する保健教育も行う義務がある。しかし、コミューンヘルスワーカー (以下、 CHW:Commune Health Worker)やVHWは患者から相談を受けた時にのみ返答しているのが実情であ る。また、各組織が月に1度、各村で集会を行い、住民達を対象に保健・衛生に関する講習を行っているが 、指導者であるCHWやVHW、各組織の保健・衛生に関する知識が少ないため、充分な情報の提供が行われてい ない。その背景には、郡がコミューンレベルの医療従事者や各組織に対して教育やトレーニングを提供する システムになっているにも関わらず、予算不足やコミューンへのアクセス困難等の理由から、あまり行われ ていないという問題がある。従って、コミューン住民が、健康に関する必要最低限の知識と対処法を理解し 、行動変容が促進されるよう、郡・コミューン・村落間の、保健衛生に関する適切な情報提供のネットワー クが必要である。

活動内容

このような現状を踏まえ、AMDAはタンザンコミューンで以下の活動を行う予定である。
1)山間部の2つの村落にヘルスポストの建設
2)1次医療機関へ基礎医療機材と医薬品の提供
3)医療従事者ら人材の育成
4)伝統薬草の栽培
 特に3)の人材育成に力を入れたいと考えている。具体的には、「郡の医療従事者及び各組織」、「コミ ューンのCHW及び各組織」、「VHW」、そして「村落の住民達」間の相互情報交換が行われるよう、ネットワ ークの構築を図り、保健医療に関する適切な情報交換の実施を目指す。また、医療保健に関しては、医療従 事者及び各組織が、郡→コミューン→村落という流れで指導や教育を行うシステムが機能するよう、協力・ 支援を行う。 

ダーバック郡では国際機関の支援で32のヘルスポストが建設されたが、そのうち28のヘルスポストは開設2 〜3年後には閉鎖されたということを耳にした。医療施設の建設のみにとどまり、医療施設の運営方法の指 導、医療従事者の教育や育成等のソフト面での支援が行われなかったからであろう。同じような過ちを避け るためにも、事業終了後も地元政府機関や各組織が責任を持って活動を持続できるような人材育成、及び、 システムの構築を図りたい。

ソンラー省イェンチョウ郡チェンハック
コミューン・トゥーナンコミューン

ソンラー省都は、ハノイ市内から車で8時間の山岳部に位置する。ハノイ市内からソンラー省都までは国道が 通っており、車窓から美しい田園風景を眺めることができる。省都から車で1時間程南東に走った場所にイェ ンチョウ郡があり、郡都からさらに車で1時間の場所にチェンハックコミューンとトゥーナンコミューンがあ る。両コミューンでは、少数民族が人口の約90%を占め、主に、ブラックタイ族、フモン族、シンムン族が 住む。チェンハックコミューンには17の村落があり、トゥーナンコミューンには15の村落がある。両コミュ ーンが抱えている問題点は安全な水の不足、衛生施設の不足、住民の保健衛生に関する知識不足等である。 また、タンザンコミューン同様、1次医療施設が適切に機能していないという問題点も抱えているが、安全な 水の問題が緊急の課題となっている。

安全な水及び衛生施設の必要性

両コミューンにおいては、上下水道やトイレが普及していない。約半数の世帯は、水の入手が困難であり、 数少ない井戸水を飲み水として共用し、生活用水は雨水、河川の水、そして、池の水を利用している。また 、雨季には井戸水を利用する住民も、乾季には井戸水が涸れてしまうため、河川や池の水を飲料水として利 用している。さらに、井戸が無く、河川の水のみを利用している村落もあり、山間部に位置する村において は、川の支流から水を運ぶのに半日かかる。
 また、トイレは両コミューンの中心部にしか無く、しかも、し尿は直接河川に流れる仕組みとなっている 。また、約5割の住民は地面に穴を掘っただけのトイレを利用しており、残り5割の住民はトイレを持たず 、草むらや河岸で用を足している。そのため、汚染された河川の水を飲料水として摂取したり、生活用水と して利用しているため、両コミューンでは、下痢症や腹痛、皮膚病が多い。また、女性の生殖器系感染症率 (RTI: Reproductive Tract Infection)も高い。

保健衛生教育の必要性

高い感染症率は、住民の保健衛生に関する知識不足や、それに伴う不衛生な行動様式にも原因がある。住民達が感染症の原因を理解し、衛生的な行動様式を取ることにより、自らの健康を守ることができるが、充分な保健衛生の知識を持ち合わせていないのが実情だ。従って、コミューンの住民達に保健衛生教育を行い、病気の予防方法を理解してもらう必要がある。両コミューンにおいては、3ヶ月毎にCHWやVHWが各村落を廻り、保健衛生教育が行われているとのことであった。しかし、実際に村落を訪れ、事情を聞くと、山間部の村落では雨季には足場が 悪くアクセスが不可能となるため、保健衛生教育は年に1度〜2度しか行われていなかった。
特に、フモン族は標高の高い山岳地帯に住み、独自の文化を発展させ、独自の言語を使い、ベトナム語を理 解せず、文字の読み書きができない人が多い。そのため、情報が限られており、保健衛生に関する知識も低 い。例えば、習慣や水不足等の理由から、フモン族は日常的に身体を洗わず、年に数回しか身体を洗わない 。また、CHCに行くのに、足場の悪い道を徒歩で1時間以上、さらに、車輌で3時間以上かかるため、医療施 設へのアクセスも困難である。

このように、医療施設へのアクセスが困難で、かつ、保健衛生に関する知識が低い人たちへの保健衛生教育 がほとんど行われていない状況であるため、各村落の住民が適切な保健衛生教育を受けられるよう、郡−コ ミューン−村落の医療従事者及び各組織が協力し、ヘルスネットワークが構築され、情報交換ができるよう なシステムが必要である。

活動内容

そこで、両コミューンにおいては、以下のような活動を行う予定である。
1)水供給システムの設置
2)公衆衛生トレーニング
3)トイレの建設
4)植林の活動
 水供給システムは、山間部の川の支流を塞き止め、大型タンクに貯水し、浄化タンクを通し、集落に設置 した小型タンクにパイプで配水する仕組みとなっている。浄化された水を供給することにより、感染症の減 少を図る。さらに、ダーバック郡同様、郡→コミューン→村落という流れで保健衛生の指導や教育が行われ るよう、ヘルスネットワークの構築を図る。さらに、末端レベルである村落のVHW及び各組織が適切に住民達 に保健衛生教育を行えるよう、協力・指導を行う。また、し尿を地下に溜めるタイプのトイレを建設し、植林 も行うことにより、住民達に、し尿を直接河川に流すことの危険性や、植林のもつ浄水効果を理解してもら う。

 事業を行うにあたり、現存する人材やシステムの向上・活発化を図り、事業終了後も地元の人々が主導権 を握って、活動が継続されるような活動を展開したい。




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