ベトナム

ベトナム活動報告

AMDAベトナム  紺谷 志保(助産師)

AMDA Journal 2003年 4月号より掲載

 2002年8月から6ヶ月間ベトナムに滞在し、ベトナム北部山岳地帯保健教育プログラムにおける 母子保健教育を担当し、ベトナム北部の6ヶ所のパイロット・コミューンを巡りCHS(コミューンヘ ルスセンタースタッフ)、VHW(保健ボランティア)を対象に母子保健トレーニングを行ないました。

トレーニング

海外での医療活動は私にとって初めての経験で、自分に何ができるのか不安なままの出発でした。 ベトナムに到着後、現地医師のアドバイスを受けながら、とりあえず何かしなくてはと、チャートを 描き、リーフレットを準備し、布を買ってきて胎児・胎盤・臍帯モデルを作り、俄仕立てに教材を準 備しての始まりとなりました。
 最初の村で実際に自分の目でCHC(コミューンヘルスセンター)を見て、そこに勤務する準医師や助 産婦やVHWと話をして、やっと何をしにやってきたのかおぼろげながら感じつつも想像以上の厳しい現 状に自分に何が出来るのだろうかと途方にくれてしまいました。特に困惑したのは、トレーニングの 対象となるVHWの母子保健に関する知識、経験、地域における役割や期待度、本人のやる気等に非常に ばらつきがあること、アクセスや施設の不充分さのため救命処置に限界があるということ、継続的な トレーニングでないため経験の積み重ねによる技術の習得が期待できないことの三つでした。今にし て思えばこの短期間でそんな広範囲の事を自分一人でできるはずも無く、ましてや期待されてもいな かったのでしょうが、結果を残せるような内容にしなくてはと気ばかり焦っていました。
 しかし、トレーニングをしていくうちに、ここで聞いたことがひとつでも心に残って何かのきっか けになればそれで十分かもしれないと感じ、このトレーニングの目標を「お産を知る」ということに しました。妊娠中の母体の変化、胎児の発育の様子、生まれる時の様子、出生後の母体の変化、新生 児の生理、母乳分泌のしくみや利点を参加者の知識や経験をふまえながら説明し、写真やビデオを用 いたりリーフレットやチャートを改良し、より具体的にわかりやすくなるように努めました。また、 母子保健に関する情報を書き込んだ村の地図をつくることで村の細かな問題点が浮かび上がってきた り、トレーニングの終りにお産ドラマの製作・実演をしてもらうと役になりきって感極まる場面があ ったりと、こちらの予想を越えた効果が現れる事も度々ありました。
トレーニング中の筆者(左)と現地AMDAスタッフ
トレーニング中の筆者(左)と現地AMDAスタッフ

 結局、トレーニング内容は全ての村で違うものとなりました。はたして、どれだけの人に何か残る ものがあったのだろうか、何かのきっかけになりえたのだろうか。こうしかできなかったという思い と、見当はずれのことをしてしまったのではないかという危惧が残りました。どの分野の保健活動で も同じでしょうが、お産に関する事も母と子の安全を守るためにするべき事は膨大な範囲に及びます。 さらに、母子の生活や健康、病気、妊娠、出産はその社会の習慣や信仰、伝統など文化的な背景に大 きく影響を受けます。短期間の関わりしか持てないトレーニング条件の中で適当と思われる内容を選 び、村の実状を把握しながら進めていきましたが、なにか目にみえる成果を残せるような的を絞った トレーニング方法の工夫も必要だったのではないかと反省しています。また、トレーニングの目標を 「お産を知る」とし、妊娠や出産の成り立ちや妊娠中の胎児の状態を知ることで「生命の尊さ」を感 じてもらおうとしたのですが、今ふりかえると、人それぞれでその感じ方は違うでしょうし、何が正 しいというものでもありません。私自身がねらいに到達する事にこだわりすぎていたように思います。

TBA の存在

 AMDAのアフガニスタンやネパール支援活動の中でTBA(伝統的出産介助者)の方にトレーニングを行 い現在活躍されていると聞いています。ベトナムでもたくさんのTBAと呼ばれる方々がいました。ベト ナムは国の方針として施設分娩を奨励しているものの、緊急時にかぎりTBAによる自宅出産介助を認め ています。彼女らに医療トレーニングを受けさせるシステムはありませんが、VHWとして保健教育を行 い地域のお産の担い手として活用していこうとしている所もありました。一度、ふたりのTBA兼VHWと 一緒にCHCでの出産に立ち会う機会がありました。彼女らは早速トレーニングで話したことを実践して みせ、その効果を深く理解している様子でした。彼女らのお産に関する真剣さと感の鋭さを強く感じま した。お産は経験がものをいいます。地域でお産に関わり長く活躍してきたTBAの技術と知識を検証し 再教育することで、ベトナムでもTBAを母子保健の担い手として役立てていけるのではないかと思いま す。
 と同時に、緊急時に対応しうる搬送システムの充実の必要性をつよく感じました。今回訪問したな かにも、通信手段も無く交通手段は徒歩のみという険しい山岳部やダム湖で分断された山中といった 厳しい地理的条件下の村がありました。ベトナムにはそのような場所がまだたくさんあります。政府 の奨励するCHCでも出産時の急変に対応できる医療設備はありません。緊急処置の可能な県レベルの 病院まで送るという選択肢を確保出来るよう、通信や交通といったインフラの改善が求められていま す。また、それはCHSやTBAの重要な役割のひとつである異常を見極めて搬送する正常と異常の判断能 力が、現実に搬送という手段の無いところでは育たないということからも必要とされています。

今回は自衛隊さんのテントをお借りしての訓練でした 妊婦の体について説明
胎児のはく行くの様子について説明 妊婦の体について説明

最後に

 今お産の世界では、先進国の従来の病院分娩の在り方が見直されてきています。分娩台の上での仰 向けの姿勢、慣例的な会陰切開、母子別室等々といった事が科学的に正しくないと立証されてきてい ます。それなのに途上国でこのような方法を近代的な出産法として広める事は無意味だと批判もされ ています。近代医療の流れが変化してきている今、途上国への一方的な医療の導入ではなく伝統的医 療の価値を認めることは、近代医療のさらなる進歩に貢献するだろうと言われています。私もベトナ ムでの様々な体験の中でそれを実感する場面に何度も遭遇しました。今後、私は助産所で働き日本の 助産婦が培ってきた医療機器の無い場所での安全で人間らしいお産の援助を学びたいと考えています。 それはきっとベトナムをはじめ途上国で必要とされていることに最も近いのではないかと思います。 この6ヶ月間、自分の不十分な知識や技術、弱点をあからさまに実感させられ、自分をふりかえるかけ がえのない体験となりました。未熟な私をいつも励まし助けてくれ、ひとつの布団で眠り、ともに川 で水浴びをし、断りきれない振舞い酒を代わりになって飲みほしてくれた竹久調整員に心から感謝申 し上げます。




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