ベトナム

世界銀行とベトナム政府が行っている北部山岳地域貧困削減プロジェクトの中で、AMDAは2つの日本のNGOとコンソーシアム(共同事業体)を組み、北部山岳地域貧困削減プロジェクトパイロット・コミューン・プログラムを実施している。 AMDAは保健衛生分野を担当し、テクニカル・アドバイザーとして岡安利治氏を3度にわたり派遣している。そしてその保健衛生活動を強化する意図から、7月末に竹久佳恵調整員と紺谷志保助産師を長期派遣した。 今回は、Phu Tho州Doan Hung県Ming Lung村(コミューン)における活動報告をお伝えしたい。

AMDAベトナムプロジェクト
─保健ワークショップを開催して─


AMDAベトナム 紺谷志保 (助産師)
AMDA Journal 2002年 10月号より掲載

1. 視察内容及び所感

(1)CHS(Community Health Station)視察・CHSスタッフインタビュー

ワークショップの開催に先立って、CHSの訪問及びCHSスタッフ(准医師4名)へのインタビューを行い、施設状況、データ管理、技術レベル等を把握した。

分娩件数は年間約35〜40件、うち30〜35件がCHS出産、うち2〜3件が自宅出産(急速分娩例)、3件が異常分娩と診断されDH(郡立病院)に母体搬送とのことであった。分娩台帳のような記録物は無く、出生時はDistrict(郡)へ提出する一定の用紙(出産証明書に相当)のみ記入との事。 外来患者台帳へ記入していると言うスタッフもいれば、記入していないと答える場合もあり、実数は把握できなかった。実数を簡単に提示しないのは、ふたりっ子政策による厳しい出生数管理があるからかもしれない。しかし私達のわずか9日間の滞在中に前期破水と羊水混濁による搬送例が1件あり、正常分娩も1件あった。 たまたま重なっただけかもしれないが、出産数と搬送例数はともに口頭で得られた情報よりも若干多いのではないかという感じがした。CHSは、約8部屋の新棟を建築中であった。従来の棟は診察室、処置室、陣痛兼産褥室、分娩室、書庫兼物置の計5部屋で、ベッド数4、分娩台1、未使用の分娩台1。 薬品庫2(ガラス張り1、木製戸棚1)手洗い用蛇口つき桶1、洗面台1、成人用体重身長計2、新生児用体重計1、カフ型血圧計1、聴診器1がおもな備品であった。分娩室には最低限の分娩用器具と婦人科検診用器具及び中絶用器具が乱雑に置かれてあった。 使用前には煮沸消毒しているとの事であったが、実際の分娩直前の場面では行っていなかった。電気供給後の必要物品として、吸引機(Vacuum兼Suction)とオートクレープをあげていた。新生児の蘇生に関する医療器機は無く、異常分娩は初期段階でDistrictへ搬送するので必要無いとの事で、新生児管理及び救命救急処置に関する認識不足が感じられた。 清潔に関しては分娩室への出入りはHien准医師専用の靴が用意され履き替えるようにしていたが、靴そのものが汚れていた。手洗い用水は蛇口付きの大鍋を改良した器に煮沸され準備されていた。そこに薬用石鹸とブラシが置かれていた。 ガラス張りの薬剤戸棚に薬剤が陳列されていたが、そこから薬剤を取り出す場面は見られず、乱雑に薬品やディスポの針付き注射器が(使用後のものも剥き出しのまま放置されていた)置かれている木製の棚から薬品を取り出し使用していた。 医療廃棄物専用のダストボックスが置かれていたが一般ごみも混じり、使用後のアンプルや注射器も分別されること無く捨てられており適切に使用されていないようであった。血圧計1台、聴診器1本、トラウベ2〜3本ディスポ手袋(使用後洗って干していたが診察以外に使用するとの事)があった。

データ管理については、主なものとして外来診療録があり月毎に診療科別受診人数、搬送例数が記録されていた。その他に妊婦の破傷風予防接種録、乳幼児の予防接種録、予防接種在庫台帳があった。 前述のように分娩台帳が無いのかはっきりしなかったが、実際の分娩に立ち会った際、新生児の出生時間を見たり、出血量測定もせず、出生後の新生児のバイタルチェックも行っていなかった。分娩時の産婦や新生児の状態をデータとして把握する必要性を感じていない為だろう。

技術レベルについては、妊産婦医療に関しては女性であるHien准医師の担当となっていて、彼女がこの地域の殆どのお産を介助し、バイクで村を走ればひっきりなしに声が掛かり(恐らく、赤ん坊は元気だよとか、産後のひだちはいいよとか)夜間も自宅に新生児を連れた若い夫婦が子供の診察に訪れるといった、地域住民から絶対の信頼感を得て公私なく活躍されておられるようだった。

妊産婦検診や分娩介助についても熟練された技術を持ち適切に行われていた。ただ、彼女が全てを担いすぎて居るような感も有り、彼女のアシスト的存在や後身となる人物の育成が必要とされているように感じた。

(2)妊婦家庭訪問

二人の妊婦の自宅へHien准医師と共に家庭訪問した。二軒とも中流家庭といった感じで、生業はベトナム茶栽培、こぎれいな母屋とトイレ、井戸があり、家畜(豚、鶏)を飼育していた。二人とも経産婦で現在の妊娠経過は順調、家人の妊娠に関する協力も得られていて何の不安も無いと言った優等生的な発言ばかりであった。 しかし、一人の妊婦は妊娠週数に比べて腹部が小さくIUGR(子宮内発育遅延)が疑われた。体格もやせ気味で、ベトナム茶の栽培農家ということだが過度な労働状況と低栄養下にあると思われた。同行のHien准医師によるとやや貧しい家庭ではあるが、適切な栄養摂取方法を知らないだけとのことだった。 二人とも第1子は完全母乳保育、出生体重2800〜3000g、ファミリープラン(家族計画)をして2年後の妊娠といったあまりにも完璧すぎる回答しか得られなかった。訪問先の選択、同行者等考慮すべきと思われた。

2. ワークショップ

(1)実施内容と対象

日時 内容 参加者
8月9日 妊娠経過 郡保健省医師2名、郡保健省看護士1名、コミューンヘルスセンター(CHS)スタッフ2名、Village Health Workers(VHW)8名
8月10日 分娩経過と出産 郡保健省看護士1名、CHSスタッフ2名、VHW8名
8月11日 妊産婦保健指導 同上
8月12日 妊婦検診(実施訓練) 同上

(2)所感

一日目は、妊娠経過を知り正常と異常の判断が出来る事を目的とした。妊娠中の母体の変化と胎児の成長過程を視覚的に捉えられるよう胎児を描いたり、表やリーフレット、胎児写真を用いた。それに関連して妊婦検診の観察項目や予定日換算方法を説明していった。

二日目は胎児モデルを使い分娩経過を示し異常時の診断と対処をおさえ、分娩介助方法を胎児と骨盤モデルを用いてHien准医師に実演指導してもらった。何人かのVHWが興味を持ち自ら進んで介助手技のデモンストレーションを行った。 現在は自宅分娩にならないよう分娩開始兆候があればすぐにCHSに来るよう徹底されているようで、VHWがお産に関わることは無いとCHSスタッフは断言していた。だが、実際に急速分娩例もあり、VHWとしても緊急時の対処方法を知っておきたいと言っていた。 また、全員が血圧測定をしたことがなかったのでひとりづつ実技指導を行った。皆、出来きるまで何度も繰り返し、やっと出来た時はとても満足げだった。

三日目はCHSスタッフからVHWへの要望としてあがった妊婦への保健指導と分娩後の自宅での産褥ケアと育児について行った。家庭訪問という設定でロールプレイを行い問題を抽出していった。ロールプレイは初めてだったそうだが、皆役になりきって演じかなり盛り上がった。 CHSスタッフが母親役となりうまく問題を提示してくれて、具体的な指導内容まであがっていた。

四日目のon the job training(実施訓練)では妊婦検診を目的に、胎児心音聴取や子宮底長測定等を実施することができた。また幸運にもその日19歳の経産婦が入院し、3時間あまりで分娩となり女性VHWのみ見学及び新生児ケア、初回授乳指導を行えた。 正常出産で新生児の状態も良好でやったばかりの講習の内容が実際に見学できよかったのではないかと思ったが、参加者の女性は全員出産経験者であり、家族の出産を手伝う事も多いようで、あまり新鮮な感じは無く、そうそうこうなるのよといったとても落ち着いた態度であった。

当初の予定通り4日間のワークショップが実施できた。CHSスタッフにとっては基本的産科学の範囲内の内容となり、知識の確認といったレベルだった。VHWには、異常時の診断や対処等医学的な話になるとついて来れず、内容によっては難解であったと思われる。 そのような場合は、なるべくCHSスタッフからVHWに説明するようにして、CHSスタッフがVHWに期待する知識の習得や、活動内容が伝わるようにしてみた。

実技に関しては、VHWは殆ど実施的な訓練は受けていないようであり、体温測定や血圧測定を出来る人はいなかった。しかし、積極的な姿勢と呑みこみの良さで、一時間程度のトレーニングの間に、血圧測定や胎児心音聴取をVHW全員ができるようになった。 このような体験が、村に戻っって実際にやってみようという行動のきっかけになって欲しいと思う。一度でもやってみることで、出来たという事がその人の自信となり、同時に人の役に立つという喜びを感じられ、更にできるようになりたいというモチベーションの向上に繋がっていけば、より高度なところへと発展していけるだろう。

また、妊娠、分娩という身近でありながら実は知らない事の多い内容を、正しく理解出来るように絵や図を表やリーフレットに多用し、胎児モデルや胎児写真等も活用したことは興味を引き効果的であったと思われる。 妊検の講習の時、男性VHWから女性である妊婦にお腹の張りや出血の有無を聞くことは出来ないといわれたので、興味を持たないかもしれないと思っていた。 だが、終了時のアンケートで男性VHWの一人からこの様な内容を知る事が出来てとてもよかったとあり、踏み込めにくい分野ながらもその重要性はしっかり認識できていて、異常時に何かしら対処できるようになりたいという気持があるように感じた。

反省点は、参加者の習得した知識の検証の時間を十分取らなかった為、理解度を把握できなかったことだ。次回からは、各内容について参加者による発表や説明の時間を多く設け、理解の程度を確認しながら進めていこうと思う。 ロールプレイや胎児モデル、骨盤モデルを使用したデモンストレーションなどが好評だったので、これらをより効果的に使用できるような内容に変えていくつもりだ。

CHSスタッフから、今回の様なVHWと一同に集まる場が設けられた事で、お互いの情報交換ができて有意義だったとあった。ここで今必要とされていて実現可能な事としてあげるとすれば、VHWの自宅訪問による産前産後の妊産婦保健指導の体制化だと思う。 VHWはまじめでモチベーションの高い方が多いようなので、CHS、特にHien准医師との連携態勢が確立していけば地域の母子保健レベルの向上のために十分活躍できると思う。

次回から村に入る時は、なるべく早くトレーニング全体の焦点を定めて、より実践的な指導や診断能力が習得できる展開にしていけるような講習内容を考えていこうと思う。




緊急救援活動

アメリカ

アンゴラ

イラク

インドネシア

ウガンダ

カンボジア

グアテマラ

ケニア

コソボ

ザンビア

ジブチ

スーダン

スリランカ

ネパール

パキスタン

バングラデシュ

フイリピン

ベトナム

ペルー

ボリビア

ホンジュラス

ミャンマー

ルワンダ

ASMP 特集

防災訓練

スタディツアー

国際協力ひろば