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2005年度静岡県総合防災訓練参加報告
<広域医療搬送実働訓練>
緊急救援事業部職員 柳田 展秀
AMDA Journal 2005年 11月号より掲載
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【訓練日時】:2005年9月1日(木)
午前9時00分〜15時00分頃
【場 所】:航空自衛隊静浜基地(中部広域搬送拠点)
【参加者】: ※敬称略
岡田眞人(静岡県・聖隷三方原病院院長補佐)
則岡美保子 (大阪府・医師)
伊地 知寿 (鹿児島県・医師)
角田 栄子 (埼玉県・看護師)
鵜野 明美 (京都府・看護師)
梶田 未央 (岡山県・調整員補佐)
佐藤 優 (大分県・看護学生)
柳田 展秀 (AMDA本部職員)
吉川 勝貴 (AMDAクエッタ事務所調整員)
【訓練参加機関】: ※順不同
防衛庁(陸海空自衛隊)、消防庁、静岡県健康福祉部医療室、防災関係機関、自主防災組織、筑波メディカルセンター、静岡県立総合病院、AMDA等。
【参加目的】:
AMDAでは阪神淡路大震災以来、行政や地方自治体と連携し、地震を中心とする大規模災害対
策として、静岡県などの実施する防災訓練に参加している。特に昨年度は、史上まれに見る台
風被害、新潟県中越地震、さらに福岡西方沖地震など、各種自然災害が日本全土を襲い、多数
の犠牲者をだした災害の当たり年と言える。
本年度、静岡県で行われた総合防災訓練では、昨年度の教訓からか、これまでの大規模会場
集中型の訓練から焼津市内全域を会場とした広域での受援訓練に重点がおかれた広域受援訓練
へと変貌を遂げた。その為、訓練全体では、自主防災組織や自衛隊、海上保安部等が主役とな
る地方行政及び民間主導型の訓練へと主眼が移っている。
AMDAでは、一昨年度から取り組んでいる広域医療搬送システムにおける民間団体の参画や各
参加機関等とのさらなる連携強化、また行政機関の主導による受入体制の確認と派遣体制の整
備を目的として訓練に参加した。
【訓練概要】:
1.広域医療搬送実働訓練
静岡県において実施する総合防災訓練の内、県が担当する域内搬送過程について実際に県外
から医療チームを受け入れ、演習を行う。全体の訓練項目は以下の通りである。
(1)医師等(広域搬送機同乗・ステージング・ケア・ユニット 1(以後SCU)従事・域内搬
送ヘリ同乗)の参集拠点への参集
(2)医師等(SCU従事・域内搬送ヘリ同乗)の被災地域内拠点 2への参集(静岡県が要請す
る医師、AMDA等)
(3)SCUの設置
(4)災害拠点病院から被災地域内拠点までの模擬患者搬送並びに医療救護(静岡県の要請に
基づく民間応援ヘリ・自衛隊ヘリが搬送を行い。派遣医師、AMDA等が機内での医療救護を実施)
(5)SCUにおける医療行為(被災地域外からの派遣医師)
(6)民間ヘリによる医師等(上記(1))の搬送(参集拠点から被災地域内拠点)
(7)SCUから広域搬送航空機(想定)までの患者搬送
(註)訓練項目(1)(2)に関しては、被災地機内拠点に空路参集を仮定し、陸路参集。
広域医療搬送実働訓練は、大きく1)自衛隊による域外患者搬送訓練、2)地方自治体によ
る域内搬送訓練の2種類に分類できる。このうちAMDAでは、重症患者の域内搬送訓練に参加した。
2.AMDAチーム訓練概要
AMDAチームは、総合防災訓練の中でも特に広域搬送過程に特化した広域医療搬送実働訓練を
航空自衛隊静浜基地において関係省庁および地方行政、各医療機関との連携のもとに参加した。
この訓練でAMDAは、模擬患者のヘリ搬送に同乗するヘリ同乗医療チーム(伊地知医師・鵜野
看護師)、SCUでの医療救護を担当するSCU医療チーム(則岡医師・角田看護師)、さらにSCU
サポートチーム(吉川調整員・梶田・佐藤調整員補佐)の3チームを編成し以下の訓練に従事し
た。
@域内搬送用ヘリを用いた模擬患者搬送中の救護(ヘリ同乗医療チーム)
ASCU内での患者の医療救護(SCU医療チーム)
BSCUにおける医療チームの補助業務(SCUサポートチーム)
【1】ヘリ同乗医療チーム
9月1日、8時30分東海地震警戒宣言発令により、静岡県からの派遣依頼要請を受け、派遣準備
に入る。同日10時25分には中部広域搬送拠点である自衛隊静浜基地に空路到着(想定)。参加
医師・看護師は基地内に設けられた対策本部にて派遣登録を行う。今年度はヘリ同乗医療チー
ムとして、伊地知医師・鵜野看護師が登録し、患者搬送を実施した。
ヘリ同乗チームの主な活動は、被災地内にある災害拠点病院・救護所に運び込まれる重症患
者や被災地内の病院での治療が難しいと判断された患者をヘリで空路搬送することにある。今
回の訓練では、1.「静岡県内の災害拠点病院」⇒2.「域内搬送拠点」までの静岡県が担当
する患者搬送を実施した。
空路での患者搬送訓練は11時頃から開始され、AMDAから参加の2名は静岡県がチャーターし
た民間ヘリに同乗し、患者の待つ焼津市民病院へ向かった。拠点病院では搬送患者のカルテを
準備し、同乗しているAMDA医療チームに申し送りを行い、患者を引き渡す。その後患者はヘリ
で広域搬送拠点まで搬送される。この間ヘリ同乗医療チームは、移動中の患者状態のチェック
や患者の急変時への対応を行い。広域搬送拠点までの継続治療を実施した。今回の訓練では計
3回のフライトで合計4名の患者搬送を実際に行った。
【2】SCU医療チーム
広域搬送拠点に到着した模擬患者は、静岡県医療室職員で構成される地上搬送チーム(看護
師1名、搬送要員4名)によりSCU内の仮設医療テントに運び込まれた。SCUには、医療チーム到
着前、すなわち発災前に計2張りのエアーテントが静岡県医療室チームにより張られ、医療チ
ームの到着、さらには患者の到着を待った。
このように被災地から運び込まれる患者は、すべてSCU内の仮設医療テントに収容され、担
当の医療チームによって治療・維持が施される。模擬患者は域外搬送準備が整うまでの間、S
CU治療チームによる継続治療が実施された。
AMDAのSCU医療チームは主に聖隷三方原病院:岡田眞人院長補佐の指示の下、SCUでの医療
訓練を実施。岡田医師からは、患者の受け入れや搬出など細やかな指導がなされた。また、
患者の搬送状況を監視する静岡県医療室との連携なども試され、実災害時に備えた本格的な
訓練となった。
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SCU医療チーム |
【3】SCUサポートチーム
SCUサポートチームは、言わばSCU医療チームと静岡県との橋渡しとなる。今回は看護師役
として現役看護学生の佐藤、薬剤師役の梶田両調整員補佐、さらにAMDAクエッタ事務所から
吉川調整員が参加し、仮設医療テント内の様々な庶務を担当した。
仮設医療テントでは、空路で次々と運び込まれる患者への対応に医療チームが追われるた
め、それに付随する薬品の補充、患者の搬入連絡など、細々とした作業が発生し、それらを
全般的にサポートする業務が彼らの役目となった。特に治療終了後の定期的なバイタルチェ
ックなどは参加看護師などの指導のもと佐藤調整員補佐が担当し、サポーターとして十分な
役割を果たした。
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広域搬送実働訓練 |
【訓練成果】
AMDAでは、今回2つの目的をもって訓練に参加した。1つ目は、公的活動への民間参加、2
つ目は、国民レベルでの防災に対する啓蒙である。これまで静岡県と連携し、現実的な訓
練参加のあり方を模索してきた結果が、今日の広域搬送訓練でのAMDAが補完できる分野で
あると認識している。また、より多くのAMDA登録医師・関係者の訓練参加を促すことで、
災害の少ない地域の医療従事者に実際に災害医療の現場を提供し、今後の備えとしている。
今回は、これまでの広域搬送の枠組みだけでなく、新たに「受援」体制の強化を主眼と
して行われた。派遣側、受入側その両面からの訓練へのアプローチは、今後の国内防災の
強化にはなくてはならない要素の一つと感じている。
今期で3回目となった広域搬送拠点での訓練は、各関係機関が連携して、これまでの問
題点を十分に話し合い検討してきた結果、すでに実災害にも耐えうる一つの防災モデルに
近づきつつある。
【最後に】
2005年8月29日、米国南部ルイジアナ州では、ハリケーン「カトリーナ」の影響により
河川の堤防が決壊、海抜下最大6mという地理的原因もあり、全市民40万人に避難命令が
出される米国史上最大規模の自然災害となりました。私自身9月6日より支援事業開始の先
鋒として渡米、約2週間、現地での避難所支援、調査を実施してきました。
このハリケーン災害では、政府への対応の遅ればかりが指摘され、本来の焦点である
弱者・被災者には目を向けられることが少なかったように感じます。そんな中テキサス
州では、州政府そして市民を巻き込んでの被災者支援が連日行われました。同州では、
約25万人もの避難民を受け入れ、米国政府主導の下、数万人を陸路・空路を利用した大
規模搬送なども行いました。
日本とアメリカ、それぞれ政府体制・国民意識にも大きな違いがあります。日本国内
の防災システムにそのままの形で引用することは出来ませんが、日本国内の防災システ
ムの早急な構築、さらに広域搬送システムの重要性を再認識させられる機会となりまし
た。
1 ステージング・ケア・ユニットとは、広域搬送の中継拠点(被災地内)で、患者の
病態評価と安定化措置を行う救急医療の専門家チームによる医療拠点。ここで、広域搬
送に耐えられるか第2トリアージが行われる。
2 被災地内拠点とは、実災害時に発生した大量の重症患者を県外搬送するために一時
患者を集結させる施設。本文中では広域搬送拠点と記載。今訓練では航空自衛隊浜松基
地(西部地区)、静浜基地(中部)、愛鷹運動公園(東部)が設定。 |
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