スーダン

ダルフール緊急医療支援事業
「臨床検査システム改善プロジェクト」

AMDA本部 柳田 展秀

みなさんはスーダン共和国という国をご存知でしょうか?アフリカ大陸の北東部に位置し、 日本の約7倍もの面積、約250万Km2の国土に約3,361万人(2003年)が暮らしており、周囲の 国境線を9カ国と接しています。
 たいへん多様な民族構成をもつ国のひとつで、4割がアラブ系ムスリムといわれますが、 南部にはキリスト教を信仰するアフリカ系の人々も多くいます。
 これまで、また今も、スーダンは国際政治に翻弄され、資源をめぐって争いが絶えず、2 0年以上にわたって紛争が絶えない国家でした。AMDAでも1995年からマラリア対策や洪水緊 急支援などで協力してきました。
 日本からの直行便は就航しておらず、渡航には一般的に中東諸国からの乗り継ぎ便を利用 します。家電製品や車などで日本の名前はよく知られていますが、現在現地法人を置いてい る日本企業はないため、AMDAジャーナルの読者・会員の皆さんにも、あまり馴染みのない国 のひとつだと思います。

1. 事業地の背景:

スーダンといえば、20年以上にわたる南北間の紛争がとりあげられますが、これ以外にも国 内紛争、国家間の争いが絶えません。
 ダルフールではもともと水をめぐる争いや政治的抗争が繰り返されてきましたが、2003年 にスーダン政府と反政府勢力との間で最悪の衝突が勃発、これが現在世界の注目を集めてい る「ダルフール危機」のはじまりとなりました。 この紛争により約180万人もの国内避難 民を出したダルフール地方の争いは、一方で南北和平合意が締結された今もなお続いており 、解決の糸口すら見つかっていません。紛争原因には様々な憶測がありますが、1990年代か らは水や土地をめぐって住民間の争いが断続的に発生しており、今日の紛争の拡大した原因 の一つとされています。

2. 事業地の現状と課題:

首都カルツームから空路で約2時間、距離にして約1,300km南西に位置する南ダルフール州の 州都ニャラ市は、人口約20万人が暮すダルフール地方の中核都市の一つです。市内中心部に は大きな市場もあり、午前9時〜午後6 時頃まで多くの人で賑わいます。生鮮食品や日用品 が所狭しと並べられ、紛争下である事を一瞬忘れてしまうほどですが、並べられている商品 価格を聞いてふと我に返ります。カルツームで通常50SDD(約20円)で販売されているミネラ ルウォーター/500mlもここニャラ市では3倍の150SDD(約60円)に跳ね上がり、その他の商品 も概ね2 倍〜3倍の金額で取引されています。
 市内の治安維持はアフリカ連合軍やスーダン政府軍・警察などにより保たれていますが、 市内から30km〜40kmも離れれば、物資輸送車両や村落に対する襲撃や略奪などが日常的に見 聞きされます。このような中、陸路での物資・食糧などの輸送も容易ではありません。その 為、物資輸送の大半は空路に頼らざるを得ない状況にあり、物価の高騰にも拍車をかけてい ます。

【ニャラ・州立病院】

AMDAでは、前述したダルフール危機への緊急対応として、昨年10月に本部職員1名をスーダン に派遣、南ダルフール州での調査を開始、AMDAスーダン支部と連携し同州ニャラ市にある「ニ ャラ州立病院」に対し医薬品、医療消耗品などを提供しました(AMDAJournal2005年2月号「放 置された大地で」P10 を参照)。
 その後、本年1月には日本国外務省NGO支援無償資金協力からの助成を受け、同州立病院とそ の周辺地域にひろく影響する臨床検査システム向上のための支援事業を開始しました。これは 、患者個人の症状を正確な検査でつきとめるというだけではなく、同州立病院が本来州内の医 療の中核を担う位置づけにあることから、地域の感染症の流行を水際で止めることのできる、 臨床検査機能の充実をめざすものです。
 院内には内科、外科、眼科、歯科、産婦人科、小児科など一通りの科目が設けられています が、長引く紛争や増えつづける患者数に対し、医療職として働く人材、また老朽化の進む医療 機材では対応が困難になりつつあります。
 また、全体で400名近いスタッフを抱える病院ですが、ここは教育病院であるため、実際には 臨床経験の少ない医師やインターン、看護師、さらに検査技師アシスタントもスタッフの多く を占めており、逆に指導者となるべき人材の層が戦争のために薄くなっています。
 設備面では昨年8月から開始された病院の改修工事により、建物の更新は期待できます。し かし国内避難民の増加による病院への負担は予想をはるかに超える影響を及ぼしています。現 在1日300人〜400人の外来患者が訪れ、早朝から深夜まで列をなしています。それに加え周辺 キャンプからは週約40名の重症患者が運び込まれます。またそれとは別に、キャンプや周辺地 域での争いにより負傷した人々が運び込まれる事もあり、病院機能を圧迫しています。  さらにこれから雨季を迎える同地域では、マラリアなど感染症の流行も考えられ、E型肝炎 や髄膜炎などの患者が増加するとの国連機関からの報告も出されているため、病院機能の一層 の強化が求められています。
 外来部門には外来検査室のほか、外来診療室、小外科室が含まれますが、機材の不足が目立 ちます。また外来診療は基本的に24時間行われていますが、夜間には人材不足なども影響して 、患者や症例に関する正確な統計データは取られていません。
 また、外来外科患者の手術を行う小手術室では、消耗品の不足から本来使い捨てのはずの手 袋を洗濯して再利用していたり、血液の吸引用チューブを使いまわししているケースも見られ ます。このためAMDAでは、手術室で利用されるメス刃、手術用手袋など、利用頻度が高い医療 消耗品を、事業開始直後の本年3月、同州立病院に提供しました。

3. 事業計画:
【ニャラ・州立病院の臨床検査機能の向上】

院内には、入院患者を対象とした臨床検査室と外来用の検査室の2ヶ所が設置されています。 他の援助機関の計画と調整した結果、AMDAでは外来患者全ての検査を担う外来検査室への支援 を決定、本年2月より本格的に事業に着手しました。
 院内と外来、この2つの検査室の機能が向上する事により、雨季に増えるマラリアなどの感 染症患者への対策、また感染症への危険情報の発信などにより、ニャラ市民と周辺キャンプ の避難民への感染拡大を防ぐ事につながります。  特に外来検査室には、1日150件以上もの検査依頼があげられるため、院内各セクションの 中でも機能の向上が求められる重要な位置にあります。
 こうした状況を鑑み、AMDAでは、とくに検査室のデータ管理および技術の向上に重点を置 くこととなりました。
 診察によって検査が必要と判断された患者は、外来検査室に医師が記した検査依頼用紙を もってやってきます。しかし、検査室での受付がこれまで厳密には行われていなかったため 、現在、患者の名前や性別といった基本データとともに、どのような検査を依頼したかとい った患者ごとのデータを正確にとり、記録を保管するというデータ管理のトレーニングが開 始されています。
 また、技術面では、外来検査室では、マラリア、ヘモグロビン、血球計数カウントなどの検 査が常時4‐5名程度の検査技師アシスタントによって行われています。アシスタントは経験も 浅く、またこれまで紛争の影響から定期的なトレーニングも行われていなかった事もあり、技 術・能力にも個人差が大きく残ります。
 本来、臨床検査は個人によって偏差の残るものでは信頼できる検査データとはなりません。 そこで、AMDAの検査指導員を病院に動員して、基本的な技術指導、さらに新たに導入される検 査機材の訓練などを行い、経験の少ないアシスタントでも信頼できる検査結果がだせるよう訓 練プログラムを導入します。
 本年4月には日本から医療分野の専門家も合流、これまで院内の人材だけでは対処しきれな かったデータ管理や基礎的な受付システムなどを改善すべく現在も指導にあたっています。A MDAではこれまで通り現地主義(ローカルイニシアティブ)を貫き事業運営を行いたいと考え ています。プロジェクトを実施する上で現地の文化、政治、経済社会的背景を考慮し、現地住 民の選択を重んじることは重要です。これまでもAMDAスーダン支部の協力により、円滑に事業 開始にこぎつけるとが出来ました。現地で出来る部分は現地に任せ、不足している部分を私達 が補完する事により、お互いが成長し、最終的には事業成果につながるものと信じています。

最後に:

今なお続くダルフールでの紛争、和平に向かいながらも緊張の残る南北間の問題、近隣諸国と の関係、スーダンには数多くの課題が残されていますが、AMDAでは今回のダルフール事業開始 にともない、他地域での事業も計画していきたいと考えています。
 今年から開始されたスーダン共和国の事業ですが、20年以上に及ぶ争いの影響を克服するに は長期的な支援が必要とされます。特に宗教や部族間の問題は簡単に取り除けるものではあり ません。
 現地のAMDAスタッフにこんな質問をした事があります。「スーダンをどんな国にしたい?」 、彼は笑顔で「いろんな民族・宗教が共存できる国にしたい」と答えました。彼のような考え を持つ人間が今後のスーダンを担っていくなら、何時か多様性が共存できる国家が実現するの ではないかと、私も希望を持つ事が出来ました。
 私達日本人には物理的にも心理的にも遠いアフリカですが、AMDAでは、スーダンのほか、長 らくケニア、ザンビア、ジブチで事業を実施しています。飢餓や戦争のイメージが強く残るア フリカですが、日本とはまったくちがった魅力と豊かな可能性をもつ地域として、日本の皆さ んにもっと身近に感じていただけるよう、私達も努力していきたいと思います。

※上記報告に含まれる医療・病院関連情報は、本年2月に実施した院内調査に基きます。




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