スタディツアー

ネパール スタディツアーに参加して

栄養士 桜井 利早
看護婦 久保智恵子
AMDA Journal 2000年 11月号より掲載

ネパールってどんな国?と考えた時、私達の多くは栄養失調の子供たちの姿を思い浮かべていました。テレビの報道番組で見たことのある、骨と皮 だけの痩せている子供や、栄養のバランスが悪くて、おなかの出ている子供 たちの姿です。しかし、実際は…。

 あと10分くらいでそろそろカトマンズに到着という時、窓から下を覗い てみると何だかとても懐かしい風景が広がっていました。緑豊かな山々が点在し、その裾野にもまた青々とした田園が広がり、茶色いレ ンガ造りの家々が立ち並び村を形成していました。とても自然で、気持ちが 休まる心地がしました。


 空港へ到着後、私達は市内を車で移動しホテルに向かいました。ネパールの首都カトマンズはとても都会で、車やバイクが後を断たないくらいに走り、活気に満ち溢れていました。もう既に外は暗くなっていて、はっきりと町の様子は見えませんでしたが、あまり信号がない為か、多くの車が「隙あらばいざ」 とあちらこちらから割り込んで来て、平気で対向車線を逆走する始末。

その車の間を縫うように人々が道を渡っていきます。そしてけたたましいクラクションがひっきりなしに鳴っています。しかし、それがかえって細かいことを気にしない感情丸出しの人間臭さというのか、まさに生きているという 証明のような人間の体温、熱気を感じさせてくれ、日本では得られないような感覚が沸き起こってきて、これからのさまざまな出会いにワクワクしてき ました。
 
 さて、翌朝私達は子ども病院のあるブトワール市から25キロ離れたバイワラに飛行機で移動しました。まず国 連開発計画(UNDP)のルパンデヒ郡を統括するフィールド事務所に案内 して頂き、担当職員の方から参加型地域開発事業について詳しい説明を受けました。自分達の英語力のなさを非常に情けなく思いましたが、神経を集中 させ、できる限り理解したいという気持ちで臨みました。実際に事業を進め ていらっしゃる方の生の声をお伺いできたことはとても貴重な経験でした。


 その後、開発事業の対象となっているタル族のゴンゴリア村にも案内して頂きました。ドキュメンタリー番組などのテレビ画面から受ける一方的な印象とは異なり、実際に自分の目で直接見聞きし、感じたものをまるごと自分のものとすることができたと感じました。しかし同時に、村の中に存在する 貧富の差も感じずにはいられませんでした。3階建ての大きな石造りの家が あったかと思うと、次に見える家は今にも倒れそうな手作りの小さな家なのです。

そして、その小さな家々に、たくさんの子供達が住んでいました。その景色を見ながらふと思ったのは、子供達がみんな元気だということでした。ネパールのこのあたりの地域は農業が盛んで、食料に困り飢えてしまうようなことはないそうです。子供達の元気な姿を見て嬉しく感じたことを覚 えています。村の奥へ奥へと進んでいっても、小さな家々、多くの子供達、そして多くの牛や水牛達、この景色は変わりませんでした。

 
 ゴンゴリア村には、女性グループ(もちろん男性グループや男女混合グ ループもあります)がいくつかあり、彼女達は週に一回程度 集まり、グループリーダーを中心にさまざまな活動について の話し合いをしているそうです。彼女達の表情は明るく、と ても前向きな姿勢が印象的でした。

そして彼女達自身の力で 貯金をして、それを活用しながら生活レベルを向上させ、結 果として村を発展させていくというプロジェクトが取り入れられていました。 実際この村では、過去数年間で百万円近い資金が集まり、農業や飲料水確 保、あるいは小規模の経済活動を支援するために使われたそうです。「村」と 言っても5千人くらいの人達が住む大きな居住区ですが、プロジェクトの導 入によって人々の生活が少しずつ豊かになっていく姿を見て、プロジェクトスタッフもそうですが、グループを構成する彼(女)らの凄さを感じました。

 翌朝にもう一つ別の村へ行きました。ドゥドゥラクチャ村と言って、以 前AMDAの医学生インターンの方達が、保健衛生の調査を行なっていたと 聞きました。AMDAでは現在、ルパンデヒ郡においてUNDPや、いろいろな 市民団体と協力しながら、保健衛生教育プロジェクトを始めているそうですが、その中で、家族計画協会というNGOには、韓国版の海外青年協力隊 であるKOCVから看護婦さんが派遣されていて、家族計画の指導も行われていました。

ネパールでは一般にまだ女性の地位が低い為、その意識改革・ 向上を図ることを目的として、AMDAがユニセフから提供を受けたビデオを 活用しながら啓発活動も行なわれており、その日はたくさんの人々が集まっ てきて熱心にビデオを見ていました。このような地道な活動の積み重ねに敬服すると共に、人々が少しずつでも理解をしていってくれることを切に願いました。

 
 さて最後になりますが、ブトワール子ども病院では、院内を案内して頂いた後、現地医師の方達に入院患者の病状説明を受けたり、診察を見学させて いただいたりしました。その中で、いろいろ考えさせられる場面もありました。日本脳炎や寄生虫といった、日本ではもうあまり聞かれない病気が多いのです。そして感染症の多さにも驚きました。日本脳炎は予防接種で防げま すが、多くの貧しい人達はワクチンが高くて買えないそうです。ここでも貧 富の差という厳しい現実に触れざるを得ませんでした。


 そしてもう一つ、特に心に深く刻み込まれたできごとがありました。それは出産に立ち会えたことです。大変な難産で、途中見ていられなくなったりもしましたが、その分赤ちゃんが無事生まれた時には「生命」の神秘と尊さを強烈に感じました。

同時に、このような難産であった場合、病院で適切な処置を行っていなければ、赤ちゃんが無事に生まれていたか、そして母親も無事であったかは疑問です。ネパールの現状として、乳児死亡率が非常に高 いことが言われていますが、このよう に子ども病院で出産したお蔭で無事生まれたというケースは、今のところご く稀な恵まれたことだという現実を忘れてはいけませんし、この子ども病院 の果たしている役割についてもっとたくさんの人々に知ってもらいたいとい う気持ちを強くしました。

また、病院スタッフの皆さんが、忙しい中であっても患者さんに対して、ちゃんと顔を見ながら丁寧に対応されている様子を見て、日本の医療現場ではいつの間にかなおざりにされていた最も大切な事を見い出した思いがしました。


 今回のスタディツアーでは、もっともっとよく知りたい、そして自分には 何ができるだろうか?と真剣に考える機会を与えていただきました。この貴 重な経験を大切にし、今後に活かせていきたいと思っています。最後になり ましたが、本当にお忙しい中、私達の為に時間を割いてくださいました子ど も病院のスタッフの皆様に感謝申し上げますと共に、これからもこのような 活動がますます広がっていくことを願って止みません。



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