スリランカ

ワウニア地区
基礎保健サービス復興支援事業


AMDAスリランカ 吉見 千恵
AMDA Journal 2004年 10月号より掲載

1.はじめに

このワウニア地区 基礎保健サービス復興支援事業は、2004年5月から JICAの草の根パートナー事業として始まった2年間の事業である。
 今回はこのワウニア事業の内容を簡単に紹介すると共に、その特徴と、視点を活動の周囲にあるものに移して見えてきたものを私見として述べてみたい。

2.ワウニアの特徴

ワウニア県の特徴は何と言ってもその位置である。LTTE 1支配地域への玄関口であり、北への物資の移動はほぼ全てここを通過していく。 北に通じる検問所が朝7時半から夕5時半までしか開いていないので、スリランカ南部から最北部のジャフナまで物資を運搬するのには、 一旦ワウニアに停泊することが多い。またコロンボからの鉄道もワウニアまで通じているため首都コロンボとの往復もしやすいという利点がある。 つまり人や物が集まり、ビジネスが生まれ、さらにそのビジネスが雇用を生み出し、その結果人口がどんどん増える、といった現象が起こっている。 内戦前は、現在LTTEの本拠地であるキリノッチ県が北東部では最大の県で、ワウニア県など田舎町のひとつに過ぎなかったのだが、今は全く逆。 2年前までは片田舎に過ぎなかったこの県が、今では人口が14万人という中核都市となり、スーパーマーケットが2つもでき、ホテルも建設中という、 驚くべき速さで商業が拡大している。何がどう転ぶかわからない例の1つであろう。国連や国際/地元NGOも多い。停戦後増え続ける支援団体は(AMDAもこのひとつ)、 事務所を構え、海外からの赴任者のために家を借りる。小綺麗な家屋がどんどんこうした事務所や家として貸し出され、便利な一角などは家賃が異常に高騰している。 2年前は月Rs.2,000 〜4,000(約2,200〜4,400円)だった平屋が、今ではRs.10,000〜20,000(約 11,000〜22,000円)になっている。こうした現象の善し悪しは別にして、 停戦がもたらした大きな変化だと言えるだろう。

3.事業内容
JICA、現地保健局の関係者との話し会い
JICA、現地保健局の関係者との話し会い

 ワウニアの保健医療の問題点は、内戦の影響を受けた他の北東部県同様、本来政府が行うべき保健医療サービスが、施設や機材・人材不足などが理由で、 うまく機能していないことである。現時点ではWHOやUNICEFなどからの支援を得て少しずつ整備されてきているが、未だ一部の地方病院では体温計もない状態である。 また人材が決定的に不足している。交通手段が十分に発達していない当地では、草の根レベルで活動できる助産師や公衆衛生調査員(Public Health Inspector)と言 った人々が住民の健康や保健を維持する上で大きな役割を果たすのだが、この人員そのものが不足している。
こうした現状をふまえ、特に弱い立場にいると言われる母子に焦点を当て、政府の行う保健医療サービスの質が向上されるように支援を行おうとするのがAMDAの事業である。
 母子保健医療分野において今ワウニアで何が起こっているかと言うと、極端な中央集中である。先進国とは比べものにならないが、それなりに立派な総合病院が中央部にあり、 9割方のお産が現在ここで行われている。当然それだけの需要に見合うサービスが提供できていればよいのだが、実際には病院の能力を遙かに上回った数の妊産婦さんたちがやってくる。 お産のためにやってきてもベッドに空きがないことも多く、床や廊下で数日過ごすことを余儀なくされたり、ひどい場合には病院に留まることさえできず、「あと2〜3日してから来てくれ」 と追い返されることもある。日本の場合だと自家用車やタクシーなどで病院にすぐかけつけることができるが、当地では普通の家庭には車はなく、バスも昼間しか走っておらず、 電話もない家庭が多いのでスリーウィラーと呼ばれる小型三輪タクシーを呼ぶことも難しい。追い返される妊婦さんたちの心理的経済的負担は決して小さくない。
 こうした状況に対し、県保健局は中央の病院機能の拡大を図ると共に、地方の産科病棟を整備し通常分娩はできる限り地方の病院で行われるよう推進しようとしている。 いわば地方の病院機能を回復することを目指しており、 AMDAの事業はこうした県当局の努力を側面から支援しようとするものである。
 今回、AMDAの活動の中心となるのは、ワウニアの中心部から 15kmほど西に位置する、地方病院のひとつであるプーバラサンクラム診療所兼産科病棟(Central Dispensary and Maternity Home, 以下CD&MH) というところである。ハードの支援は主にこの CD&MHが中心であるが、ソフトの教育訓練はワウニア全域の医療スタッフを対象としており、できる限り受益者の裾野を広げる予定である。  具体的には3つの活動を行う。まずは産科病棟の建設。プーバラサンクラムCD&MHの産科病棟部分を新たに建設する。現在建物は存在するのだが、老朽化しており、また低地に建てられているため 雨期になると浸水してしまう、という問題を抱えている。2つ目は医療器材の供給である。基礎的な機材であるとされる、体温計や血圧計、吸引機などを配置する予定である。 3つ目、これがメインなのだが、助産師さんたちへの教育訓練を行う。専門学校を出ているので皆知識は十分にあるのだが、実際にその知識や技術を活用する機会がないため、 実際に活用できていない。そこで新たなことを伝える、というよりは既にある知識や技量をもう1度磨いてもらおうというものである。

4.進捗状況

この3本柱のうち、まず産科病棟の建設については、現在業者の最終絞り込みの段階である。AMDAが建設する とは言え、政府の建物であり、地元にとれば決して少額ではないので、業者を選定するに当たっては透明性を 確保し、ある程度こちらの政府のやり方に沿う必要がある。いわば石橋を叩きながら進んでいるので、予定よ りも時間がかかっているのだが、長い目で見て後々問題を残さないためにも関係各者に納得してもらいながら コトを進めている。医療器材については現在機材の種類について保健局長と協議中である。教育訓練について は添川医療調整員の項に譲る。(本誌7ページ参照)

5. 特徴1 事業内容のパッケージ化

この事業は建設・医療器材の提供・教育訓練という3つの柱で成り立っている。これだけ言うと何の変哲もない ことなのだが、実は少なくとも北東部では医療分野でのこういった地域限定のパッケージ事業はあまり例がない。 UNICEFやWHOと言った大口ドナーは組織や活動規模が大きいだけに、一部の地域に特別な措置を行うことは難しい。
 これに対してAMDAは県全体の施設や機材を整えるというよりは、1つの地方病院がきちんと機能するにはどう いった要素が必要かという視点に立って、問題点を掘り下げ、その改善に取り組むことができる。既述の通り、 現在プーバラサンクラムでは既存の産科病棟が老朽化し、かつ医療器材も不備であるから妊婦さんたちは来ない、 というのが DPDHS2 の見方でありAMDAもそれに同意している。要は妊産婦さんたちに「ここで子供を産みたい」と 思わせる要因に欠けているのである。支援金を提供するだけのドナーなら「ないものを満たす」というシンプルで 分かりやすい支援形態をとるだろう。しかしAMDAは地元政府からの要請に応えるだけでなく、もう少し深く掘り下 げて、果たしてそういうハード面の不備だけが地元民から信頼を勝ち取れない理由だろうか、という目で現状を見 直している。現在は月3〜5 件しか分娩が行われていないが、2年後には15件くらいにすることが目標である。 こ のAMDAの取り組みの結果が、2年後にはある程度成果として出る訳だが、それまでにプーバラサンクラムCD&MHが病 院として適切なサービスが行えるまでに機能が回復していれば、この事業内容が1つのモデルケースとなることがで きる。そうして他の地域にもこの事業の成果が波及することも、事業目的のひとつである。


続きを読む



緊急救援活動

アメリカ

アンゴラ

イラク

インドネシア

ウガンダ

カンボジア

グアテマラ

ケニア

コソボ

ザンビア

ジブチ

スーダン

スリランカ

ネパール

パキスタン

バングラデシュ

フイリピン

ベトナム

ペルー

ボリビア

ホンジュラス

ミャンマー

ルワンダ

ASMP 特集

防災訓練

スタディツアー

国際協力ひろば