スリランカ

キリノッチ地域巡回診療中間報告


成田 和未 保健師・黒石 幸恵 看護師
AMDA Journal 2003年 10月号より掲載

Tはじめに

2003年5月19日〜7月10日におけるAMDAのキリノッチ地域での巡回診療について、巡回診療の展開と今後の展望について報告致します。

U キリノッチ地域における巡回診療の背景
 戦争中に攻撃を受けたキリノッチ地域の道路や施設は、再建のための工事が日々進められる一方、避難先からの帰還者に対し、医療の供給が充足されるにはまだ時間がK要と考えられる。キリノッチ地域の中心部にあった病院は完全に破壊されたため、車で40分ほどかかる村にある病院が一番近い入院施設のある病院となっている。そのため、スリランカでは医療費が無料となっているものの、キリノッチ地域の住民にとっては医療施設へのアクセスが困難なため医療サービスを十分に受けられない。一般病院を受診するとなると歩行やバスなどを使用して約2時間を費やし、さらに約5時間の順番待ちをするという状況である。
 現在、政府側とLTTE(タミルイーラム解放の虎)は異なった医療組織体系を確立しているが、対立は見られず、住民の医療確保を共通の目的に必要施設の建設と情報の交換を行なっている。さまざまな国際援助機関がキリノッチ地域に入り各種のプロジェクトの展開を始めているが、電話回線の乏しい地域であり、各機関の新しい情報を入手するのも容易ではない。AMDA 巡回診療チームは、他機関とのプロジェクト重複の回避と情報交換を行なうため、月に1回のキリノッチ地域DPDHS(政府保健省管轄)主催のヘルスフォーラムへの参加を7月10日より始めた。

V 巡回診療の活動状況
 週3回、固定された3箇所の村を廻り、それぞれその日ごとに仮設診療所を設けて巡回診療を行っている。チーム編成はタミル系オーストラリア人の プロジェクトコーディネーター1名、タミル系イギリス人の医師1名、日本の看護師3名、現地の看護師2名、現地のドライバー2名、英語からタミル語への現地通訳1名、トータル10名である。初診の受診者は受付にて診察券を渡され、身長・体重を測り、20歳以上の人は血圧も測定し、発熱を訴える場合のみ体温の測定を行ない、その後医師の診察を受ける。再診の受診者は頭痛があれば血圧測定、発熱を訴える場合には体温測定を行ない、その後医師の診察を受ける。
爆破された村の建物を利用して巡回診療実施
爆破された村の建物を利用して巡回診療実施
 7月10日現在、受診者数は延べ3000名を越え、現在約40%が再診者である。成人の平均血圧はどちらかと言うと低めであり、急性上気道炎による発熱や痰の訴え、筋肉・関節の痛みを訴える患者が目立ち、そして貧血も多く見られている。その他には湿疹や寄生虫などの疾患が続く。ただし巡回診療で血液検査は現在行なわれないためすべての診断が問診と視診・触診・聴診に基づいて行なわれている。詳しい検査や高度な治療が必要と判断された患者には病院への紹介状を渡し病院受診  を促している。緊急の場合には病院まで巡回診療に使用する車輛での搬送を行なう予定だが7月10日現在まで行われていない。
 巡回診療を進めていく中で、子供達のけがの多さが目立ってきている。子供達の多くは低栄養・低蛋白状態にあるように思われ、結果自然治癒力が低く、さらに開放創にしていることによって、それほどひどい傷でなくても感染のリスクから免れられないと考えられる。さらに、素足で砂利道の長距離登下校をしている学童にとって、足の裏や足先の傷は一度消毒したとしてもすぐに地べたに足をつき、再び感染のリスクが高まると言える。
 下表は巡回診療に来られる患者さんを対象にしたスリッパ着用の有無である。(Battaはタミル語でスリッパの意、履物がある人をYES・履物がない人をNOとした)

 これによりスリッパを履いていない学童の数が多いことがわかる。診療所近くの小学校では5人中4人がスリッパを持っていないことが分かった。成長期におけるスリッパ着用の意義は、子供の足の保護だけでなく、活動時の耐久性を増し、運動意欲を高め、足や体の発育を促進させることと考える。また、足から受ける適度な刺激が脳の活性を助けるとも言われており、内戦で病んだ体と心のケアのためにはまず、足元から…と考えつつ巡回診療を行っている。
地元看護師と成田保健師(右)写真

【履物の所持率】 
  履物がある人   履物がない人 無効患者合計
場所/年齢6〜16歳その他6〜16歳その他
KO6  54  10  27  24  121  
MA22  66  14  19  38  159  
KA2  25  5  7  22  61  
小計30  145  29  53  84  341  
各群(%)17.2  82.9  35.4  64.6    

W 今後の展望

1. 地域住民の年代別平均身長体重の算出
 巡回診療を行なっての印象として、20代前半より若い人に小柄な印象を強く受ける。戦争の影響により、ある年代以降には栄養不良による発育不全が起きているのかもしれないし、スリランカの地域性として第2次成長が遅いだけかもしれないと考えられる。現在、初診の際の身長・体重測定による測定値の標本数がそろいはじめており、キリノッチ地域における年代別の平均身長と平均体重の算出を開始する予定でいる。

2. 急性上気道炎の予防教育についての可能性の調査
 巡回診療を通して、「受診者における急性上気道炎の多さ」と「キリノッチ地域の気候や環境」には因果関係があるのではないかと考えられた。キリノッチ地域はドライゾーンと呼ばれる地域に属し、モンスーン気候により湿度は高めだが5月・6月・7月に雨は全くと言ってよいほど降らない状況にある。また道路の大部分は未舗装であるため土埃の量が非常に多く、道を行きかう人々は常に土埃に曝されている状態である。調整員からは「キリノッチではうがいによる感冒の予防の習慣はない」との声も聞かれた。もしそれが事実であるならば、うがいを奨励することにより急性上気道感染の予防に効果があるのではないかと推察できる。今後はスリランカ保健省でのうがいの習慣についての調査と、キリノッチ地域での受診者への聞き取り調査を行ない、うがいを取り入れた健康教育が可能であるかを検討して行きたいと考えている。

X おわりに
 巡回診療を開始してから2ヶ月間が経過した。今回は統計調査を行ない始めたばかりで、疾患の分析を始める前の報告となってしまったが、今後もモバイルクリニックを通して地域住民の健康問題を明確にし、学校保健についても視野に入れて健康教育を行なっていきたい。




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