スリランカ

今なぜスリランカなのか
―平和の定着と国づくり支援―


AMDA職員 鈴木 俊介
AMDA Journal 2003年 3月号より掲載

インド洋に浮かぶ美しい島国スリランカで、20年近くにわたり続いてきた内戦に昨年2月、無期限停戦という形で一応の終 止符が打たれた。それから一年、その間政府軍と「タミル・イーラム解放の虎」と呼ばれる反政府軍が戦火を交えたという 報告はない。

今度こそ、本物の和平プロセスである、と誰もが期待している。アフガニスタンやアンゴラなどのように、大 国の利害によって翻弄されてきたわけではないので、スリランカ人口を構成する異なる民族(紛争の当事者)が、真に平和を 希求すればそれなりの結果がでるはずである。

近年の国際社会における平和構築プロセスの中でも、これほど順調な経過を巡り、成功の可能性が高い例はないであろうと思われる。すでにメディアなどでも報じられてきたが、和平はノルウェーの 仲介によって進んできた。これを政治的介入(調停)とすれば、日本は今、復興に向けた経済的側面からの介入(支援協力)を 推進する中心的役割を担っている。

ちょうど十年前、カンボジアでUNTAC(カンボジア国連暫定統治機構)を率いた明石康氏を スリランカ和平に関わる政府代表に任命した日本政府は、今年3月に和平会議を、そして6月には復興支援会議の開催を計画 している。アフガニスタン復興支援に関しては緒方貞子氏が、そして今度は明石氏が国連で培った外交手腕を発揮して、日 本の顔が見える積極的な外交努力を支えている。

一方国際協力銀行(JBIC)は、1月下旬と2月初旬に相次いでスリランカ支援に関するセミナーを開催した。世界銀行やアジア開発銀行などとも足並みを揃え、復興支援に向け積極的な取り組みを開始 する準備が整いつつあるといった様子である。

これまでも、日本からスリランカへの経済協力支援は援助国の中でも顕著であり、2000年度には無償、有償、そして技術 協力を含めて約350億円、そして2001年度には520億円がODAとして計上されている。しかし、これらの支援は紛争解決、もし くは平和構築という意味において積極的な役割を持っていたわけではなかった。従って、今回スリランカにおいて「平和の 定着」に向けたODAの積極的活用が実施に移されようとしている現状は、日本政府にとって大きな方向転換であると言ってよ い。大胆かつ慎重な舵取りが期待されている。

ところで、今回のスリランカ和平プロセスに関して、「平和の配当」という言葉をよく耳にする。配当とは通常「株式投 資などの見返りとして会社などが株主に対して還元する利益の一部」である。スリランカでは、平和構築と新たな国づくり への第一歩を踏み出した政府と国民の意志とそれを堅持する努力に対して、ドナー側が人道支援、経済援助というかたちの 「配当」を前倒しで提供しようという考え方である。和平プロセスを後戻りさせたくないという思惑があるからである。こ れは外部配当と言える。一方、これまで軍事増強のために割かれてきた国家予算が、経済支援の実施に活用できるようにな ったはずであるから、これは内部配当と言えるであろう。2001年に独立後初めてマイナス成長を経験した同国は、今年度、 すでに4%近い経済成長率を達成すると予測されている。

地域医療の現場(北部)、スリランカの母子保健のレベルは高い
地域医療の現場(北部)
スリランカの母子保健のレベルは高い

さて、和平プロセスが順調に進んだ場合、今後百万人近い難民、国内避難民の帰還に拍車がかかると予想される。停戦合 意以後、すでに彼らの5割から6割の人々が帰還したと伝えられているものの、以前の生活を取り戻すまでには長い時間がか かるであろう。最も大きな戦禍を被った北部地域は破壊し尽くされており、建物の瓦礫が野ざらしになっている村があちら こちらに点在している。本道を少しでも外れると、そこには地雷があり、復興の大きな阻害要因になっている。人口一人あ たりの地雷数では、スリランカ北部が世界一であると聞く。地雷除去のペースが現在のままだと、その処理が終了するまで に少なくともあと20年はかかるという話も耳にした。

地域住民グループから地元状況の聞き取り調査(東部)
地域住民グループから地元状況の
聞き取り調査(東部)

又、スリランカの課題は北部だけではない。乾燥地帯が広がる南部では、常に貧困と隣り合わせの状態が続いてきた。北 東部のタミル人だけが分離独立を叫んでいたわけではなく、南部のシンハラ人の一部にも政治的に先鋭化したグループが存 在する。東部では仏教を信仰するシンハラ人、ヒンズー教を信仰するタミル人に加え、イスラム教を信仰するムスリムグル ープが微妙なバランスの上に成り立つ社会を構成している。彼らの中には、政府とタミル・イーラム解放の虎の二大勢力に よって推進されている和平プロセスに追従することを必ずしも潔しとしないグループが存在する。さらに、ウィクラマシン ハ首相とクマーラトゥンガ大統領は所属政党が異なるタスキ掛け状態を呈しており、政府は一枚岩ではない。これらの事実 は、和平後の状態が必ずしも楽観視できないことの一端を示している。だからこそ今、平和の価値を具体的に実現するため の「配当」が必要なのであろう。

小泉首相は、1月31日の施政方針演説で国際平和への決意を以下のように述べている。「和平交渉の促進、難民支援や対人 地雷除去、インフラの復旧・整備、教育支援など『平和の定着と国づくり』に積極的に取り組みます。昨年一月に東京で開 催したアフガニスタン復興支援国際会議は、国際社会でも高い評価を得ました。今後も、スリランカや、インドネシアのア チェなど、様々な地域で平和な国づくりに貢献してまいります」このように、日本政府はODAを国際社会安定の実現に向けて 活用していくことを決意したが、「ODAを使ったからと言って、すぐさま『平和の定着と効果的な国づくり』につながるわけ ではない。つながるように使わなければならない」と注文をつけたのはODA総合戦略会議のスリランカ国別援助計画タスクフ ォース主査を務める絵所秀紀法政大学教授である。

地雷注意の看板がいたるところに立てられている(ジャフナ)
地雷注意の看板がいたるところに
立てられている(ジャフナ)

我がAMDAも、微力ながらこうした和平プロセスに積極的に関わっていくことになった。AMDAジャーナル1月号でも述べたが、 日本政府との協力関係を軸に持ち味を発揮していきたい。すでに国際協力事業団(JICA)から事業申請が無事採択された旨、 通知を受けた。「草の根パートナー事業」と呼ばれているが、この事業は、北部ワウニア郡における地域保健医療システム の復旧と人材育成を主な活動内容としている。一方、外務省民間援助支援室を通じて、多数の難民、国内避難民の帰還が予 定されている北部ジャフナ地域において、コミュニティ住民間の融和と共同体意識の確立を促進するための事業を申請中で ある。そして最後に特筆すべき新たな計画が進行中である。名付けて「スリランカ医療和平プロジェクト」。当法人菅波理 事長が自らスリランカへ赴き、事業の立ち上げを指揮している。詳細は前頁の通りである。この事業は明石康政府代表の要 請に基いており、AMDAが社会から「必要とされている」ことを実証する具体的なケースであると言える。

以上述べたように、AMDAは日本政府の協力を仰ぎ、また政府のパートナーとして、スリランカの和平プロセスの促進に少 しでも効果的な貢献をしていきたいと考えている。もちろん、活動地域や事業規模は限定されるが、少しでも多くの人の「 今日の家族の生活と明日の希望の実現(AMDAの平和の定義)」につながることを願って止まない。AMDAはスリランカに支部を 構えている。3ヶ月後、彼らとの共同運営体制の下、上述した3つの事業のうち少なくとも一つは実施段階に入っていると考 える。読者の方々にその報告ができることを祈念する。




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