ペルー

ペルーの発展とエイズ問題

AMDA ペルー支部
調整員 Jose Yamanija
AMDA Journal 2002年 9月号より掲載

インドの研究者Amartya Sen氏の発展理論は、福祉を中心のテーマとして展開する。 同理論は、量だけを考慮した福祉と功利主義を批判し、福祉の基本的特徴として様々な目的を達成できる能力を重視する。

この能力は、二つのグループに分類することができる。一つは、個人が所有する財(goods)から得られる物資的な福祉に関するもの。 もう一つは、身体的、精神的、社会的な福祉に関係するものである。

同理論によると、開発政策は物資的な福祉だけでなく身体的、精神的、社会的福祉に導けるようにするべきである。 その際、人的・社会的資本、とりわけ、第一グループの財を目的達成能力に変換できる制度・環境を整えることを考慮に入れなければならない。

ペルーのエイズ患者は1万1千人、HIV感染者は7万人を記録し、その殆どは20歳から35歳である。 これは、大多数が青年期に感染したことを意味する。1993年の国勢調査によると、10歳から19歳の若者(502万7千人)がペルー総人口の22.8%を占めていることが明らかとなった。 これが、この年齢層をAMDAペルーのHIV/AIDS予防教育の対象グループにした理由である。

知識を資本の一つとして考えるべきであるが、ペルーではこれを目的達成能力に変換することが困難である。政治的な過渡期にあるとはいえ、未だに、時代遅れのお堅い機構・制度的枠組が存在している。 国民の健康改善を目指した保健政策や、教育政策などは弱まる傾向にあり、カバーできている範囲も狭い。

若者の性やリプロダクティブ・ヘルスの特別な問題や、その他この過渡期のさまざまな変化に関して重要な役割を果たしていることも注目すべきである。

生活の質を改善するために取られたイニシアチブが成功するには、政府団体を含むすべての関係者による参加が不可欠である。 ここ数年間、保健制度の地方分権化、および民間セクターによる保健サービスへのアクセス改善やカバーする範囲の拡大、質の向上への傾向は、発展途上国での保健サービス提供におけるNGOの重要性をさらに強調するものとなった。

ペルーでは、AMDAが、能力の発達と選択の自由を考慮した教育と保健を通して、HIV/AIDSの問題に関わりやすい若者層の生活水準向上支援活動に参加することを約束している。 2001年には、若者層を対象としたHIV/AIDSの予防策を考慮した性やリプロダクティブ・ヘルスに関する総合プログラムを実施した。

AMDAペルーによるエイズ予防ワークショップの様子
AMDAペルーによるエイズ予防ワークショップの様子

若者層の期待はとても大きく、ジェンダー、性と生殖に関する権利、健康の自己管理についての参加型の研修に参加する小さなグループを選択することになった。 その活動的なプロセスでは、若者達が参加し討論することによって得られた新しい知識に関する結論を出し、能力を発達させることが求められた。

各ボランティアは、訓練後、それぞれの教育機関で同級生と同様の活動を実施できるようになった。 時が経つに連れて、その相乗効果が得られると期待されている。AMDAの支援により訓練を受けた大学生のボランティア30名は、学校と大学で224の教育活動を実施し、約5千人の学生を指導することができた。

ボランティアが、教育活動を通して国の発展に貢献し、自らに与えられた機会をより多くの学生と共有するため、勉強する時間や休み時間を割いて活動を計画・実施していることは強調しておかなければならない。

このように、AMDAは、ペルーの発展に寄与するプログラムの形成と実施について、国民自身にその意思決定と活動に参加する機会を与え、適応能力と効率的・効果的な遂行を考慮し、自ら様々な問題に正面から取り組み、解決策を見出すのを支援している。


エイズ、貧困、グローバル化

AMDA ペルー支部
調整員 Jose Yamanija

社会的・経済的影響

HIV/AIDS(後天性免疫不全症候群)が引き起こしている破壊は驚異的である。英国医療ジャーナル(British Medical Journal)に掲載された報告は、14世紀に歴史上最悪の感染症として世界を驚愕させた黒死病(ペスト)の被害を上回ることは間違いないと伝えている。 国際家族保健研究所により実施された研究の見通しも明るくない。1980年代初期から2001年までには6500万人がウイルスに感染し、2500万人が死亡した。残された4000万人も、適切な治療と十分な薬剤が提供されなければ、ここ数年内に死亡するという状況である。 アジアとヨーロッパにおいて4000万人の死者を出した黒死病と同様に、エイズは、社会的・経済的影響を及ぼし、人類を惨劇の渦に巻き込んでいる。

現在、毎日のように約1万5千人がHIVに感染していると考えられている。その大多数はアフリカの貧しい国々で報告されている。アフリカでは、1200万人もの子供たちがエイズにより孤児となっている。アフリカ人の平均寿命は、この20年間にエイズ、紛争、貧困により15年も短縮された。 エチオピアで開催されたアフリカの人口に関する会議で、2005年にはアフリカ人の大部分が48歳になる前に死亡すると述べられた。それと対照に、ヨーロッパにおける現在の平均寿命は男性の場合74.9歳、女性の場合81.2歳である。

エイズは、世界の国々に様々な形で影響を与えている。性別、人種、年齢、階級とは無関係に国境を越えて人々に感染する一方、歴史的な進歩の遅れと貧困に陥っている社会のわずかな資力を食い尽くす。 言い換えれば、エイズは、予防と治療に必要な資金が不足している人々に最も大きな被害を与えている。エイズ感染の90%は発展途上国にあるが、これは、生活の必要最低条件が満たされない国で感染が多いことを示唆している。

エイズに関する研究の多くは第三世界で行われているにもかかわらず、その研究の対象となった人は、既に死亡してしまっていたり、薬剤を購入する資金がないため、その恩恵を受けることができない。 薬剤研究のため患者を募集製薬会社や研究所の殆どは、まるでそうすることが普通かのように、研究に参加した人々に対し薬剤を提供しない。

薬剤へのアクセスに関して、製薬業界が利益だけを考え、一部の患者に薬剤提供を拒否することは一種のジェノサイドである。貧困者はエイズの治療に必要な薬剤を手に入れることができない。その治療にはヨーロッパやアメリカで年間に1万から1万5千ドルかかる。 多くの国はその費用に充当する資金がない。インド、ブラジルなどは同様の薬剤を70%から30%で安く製造している。こうした状況をふまえ、大手製薬会社の中には、薬剤の価格を下げたところもある。 また、ハーバード大学のある研究は、1100ドルで同治療が可能であることを明らかにした。しかしながら、資本主義社会により動かされているグローバル化の中で、手ごろな値段の薬剤で治療を行うことは違法である。 インド、ブラジル、南アフリカは、低コストで薬剤の製造を可能とする法律を有するため、世界貿易機構の裁判所(争論解決機構)に告訴された。

薬剤それとも命を商売するか

統計が食糧の減少を示さないときにでも、しばしば飢餓は起こる。例えば、1943年にベンガルに被害をもたらした飢餓の際、食糧不足ではなく、農業の日雇い労働者賃金の購買力が減少したことにより食糧へのアクセスが不可能になったことが原因だった。 同様に、1973年にエチオピアのウォヨ地方の飢餓は、長く続いた旱魃により住民が貧しくなったことが主要因であって、同国の食糧総生産に大きな変化は見られなかった。ウォヨ地方の住民の購買力が減少したため、同地方の食糧の値段は他の地方より安かった。 実際、食糧の一部は、高値で販売することを目的に、飢餓の被害を受けたウォヨ地方から他の裕福な地方に持っていかれるということも起こった。(このような悲惨な出来事は1910年代にも起きた。飢えたアイルランドから繁栄したイギリスに食糧が送られたのだ。)

ヨーロッパの市民はエイズの治療費を払えない場合、国の保健制度にその費用を補助してもらえる可能性がある。しかしながら、その周辺の諸国はそうした制度を導入する資金力がない。 世界でHIV/AIDSに感染している患者は3600万人を記録しているが、その95%は治療を受けられずにいる。こうした問題の解決を各政府と市場の手に委ねるべきであろうか? それとも、民主国家に存在する平等と保護に関する法律は、国際社会の全員に適用されるべきであろうか?

これは道徳的かつ現実的な問題である。国際化された社会の中で、裕福な民主国家が、病気、内戦や地域紛争、環境問題、自然災害などの被害を受けている地域がまるで存在しないかのように生活することは、今や不可能である。エイズの問題はその一つの事例である。

正義を投薬する

国連のある研究(Grobal Public Goods、Oxford University Press、1999)の中で、ロックフェラー財団のリンカーン・チェン副理事長、専門家のティム・エバンス氏とリチャード・キャシュ氏は、保健は人類の公共財であると言明した。 心臓発作など一部の病気の治療は、現在まで民間の領域であったが、保健分野がグローバル化するにしたがい、さらに世界の公共の領域に含まれるようになった。 同研究は、構造調整計画と社会保護網の崩壊、麻薬やタバコなどの法的または違法的輸出と病気の増大、人口移動と病気の感染、環境破壊と健康の悪化などの相関関係を明示した。 また、新薬剤の特許に関する政策と、経済的理由から数百万人が同薬剤へのアクセスができない現状について、大きな隔たりがあることも指摘した。

もし保健が公共財であるならば、それは分割不可能なものであり、その平等性は保健へのアクセスが普遍的でなければならないことを意味する。しかしながら、リンカーン・チェン氏は次のように述べる。 「世界の民間市場の広がりは保健・医療サービスの民営化と保健に関する知識の商業化を加速させた。しかし、民間市場は本質的に公正でなく、貧困者は購買力がないため商業サービスおよび保健の技術から隔離されている。」

保健の公共システムは、先進国では危機に面している状態にあり、途上国においては麻痺状態にある。 これは、政府、民間セクター、NGO、国際機関、保健・医療従事者協会、報道機関の全てのアクターが協定を結び、保健・医療システムの再構築を含む構造的な政策を緊急に講じない限り、取り返しがつかなくなる。 脆弱な地域の政府が腐敗していたり機能していないとしても、こうした努力を怠る理由にはならない。人類の大惨事は一時的に人々の感情を掻き立ててしまう。 個人が被害者や消費者のひとりとなるのではなく、すべての人々が世界市民になるためには、世界的な保健システムの不足が、絶え間なく批判と合理的な要求を生むことになるに違いない。

全世界に及んだエイズ

エイズはグローバル化の筋道を追い、各国の許可も取らずに国境を越え地球の隅々まで辿りついた。感染症の大きな影響は、世界中で感じられ、急速に進んでいる。注射による麻薬常習、テレビや映画などにより普及された暴力文化、人種や性の差別は国境を越えた感染の主要因にあげられる。 目に見えず、突如として体内に現れ、その影響は我々の国、我々の都市、そして最後に我々の家族に及ぶ。

エイズの世界的感染は、すでに単なる保健の危機だけではなく、この数十年間の世界における進歩を台無しにする恐れすらある安全保障と発展の危機なのである。

グローバル化とエイズ

国連のアナン事務総長は、世界中の人々がグローバル化の恩恵を享受できることを強く促す、今世紀の行動計画を提案した。同提案は、グローバル化が、世界中の国と人に、挑戦とともに多くの機会を提供できる非常に大きな力であるという考えから生まれたものである。 「グローバル化の恩恵は明らかである。経済発展の加速、生活水準の向上、人々と各国のための新たな経済的機会の提供などが挙げられる。」とアナン事務総長は報告の中で述べている。しかしながら、実際には、その恩恵は一部の諸国に集中し、その国の中でも不平等に分配されていることが現状である。 現在は世界市場の拡大を促す確固たる規定が存在するにもかかわらず、労働規準や環境、人権、貧困削除を含む社会的目標は取り残されたままである。

アナン事務総長は、5年以内に死亡率を20%減少させるのに必要となる90億ドルの資金を集め様々なプログラムを実施する世界的基金を設立することを提案した。全ての加盟国は、最貧国がエイズに関する費用を賄う力がないため追加資金援助が必要であることに同意した。 同諸国の脆弱な保健・医療システムは、予防プログラムに融資したり、緩和薬や予防薬の費用を捻出することもできず、ましてや抗レトルウイルス製剤の費用を負担することはまずできない。しかしながら、基金設立のために要請された資金の10%しか集まっていない。 この経済的な約束の不履行をどのように正当化すべきであろうか。

その結果として、グローバル化はこうした局面でさらに消極的反応を起こしはじめている。アナン事務総長は、「挑戦は明らかである。グローバル化の約束を実現すると同時にその不利な結果を抑制することを望むなら、我々がグローバル化を共により良く統治することを学ばなければならない」と述べて締めくくった。 エイズ対策が具体的かつ一貫性のあるものになるためには、知識と技術のグローバル化の拡大が最貧国に与える機会をさらに有効利用しなければならない。言い換えれば、世界を駆け巡る情報を実用化し、できる限り各国民の文化的・物質的な可能性へ適用することである。

今が、重大な宣言と約束を、緊急政策を、具体化に移すべき時である。国際医療NGO、Medicos del Mundoのピラル・エステバネス氏によると、こうした政策は基本的な前提の枠組みの中に包含されていなければならない。

  • どのような観点からも、予防と治療とを分離して考えた議論を決して認めるべきではない。両政策はそれぞれに分野、時期、重要性がある。予防は長期的で費用効果が高く、治療は感染者の苦痛を緩和し生活の質を改善することを目的とする基本的なものである。このためには健全な保健サービスが不可欠なものとなる。
  • 保健制度の構造を強化するためには、世界におけるエイズの90%を占める途上国の対外債務を緩和する必要がある。世界銀行のウォルフェンソン総裁は、エイズは世界の発展に大きな障害を与えていると認めている。
  • HIV/AIDSの感染に効果的であると認証された治療への継続的なアクセスは、人権のひとつとして認められるべきである。
  • 諸国の司法制度は、血清反応陽性の患者を社会的隔絶から保護し、その秘密を守る反差別法律を含むべきである。

エイズは特定の生物学的要因によるものであるが、その感染の拡大と影響は、貧困、経済的理由による治療と薬剤へのアクセス難、そして諸国の貧困化を深刻にするグローバル化により悪化されている。今世紀は、途上国をHIV/AIDSとの戦いであるという挑戦に直面させ続けるであろう。 この挑戦を乗り越えれば、何百万人の生活の質を著しく改善することが可能となる。

エイズという感染症への「世界的な対応」をし、アナン事務総長が提案した世界的基金を機能させることが急務である。直ちに実行に移さなければ、その善意はただ単に誠意にとどまる恐れがある。貧困とエイズの間に存在する直接関係を忘れることは過ちを犯すことになるであろう。




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