ネパール

ネパール国で展開するAMDAネパールのHIV/AIDS関連事業

AMDAネパール 藤野 康之
AMDA Journal 2002年 12月号より掲載

AMDAネパール支部が、1999年10月から、アメリカ合衆国連邦政府国際援助庁(USAID)からのファンドにより、ファミリー・ヘルス・インターナショナル(アメリカのNGO)との業務提携下、ネパール国内の東南部・タライ平原地域のインド国境地帯で展開しているHIV/AIDS事業を紹介します。

1. 事業対象地域と人口規模

ネパール国内を地形的に分類すると、北から、中国・チベットとの国境を占有する「山岳部」、ヒマラヤ連峰ほど標高は高くない山々が連なる「丘陵部」、そして、インドと国境を接する南部のタライ平原の「平野部」とに大きく分けることができます。 また、ネパール国内の行政区割が東から「東部」「中部」「西部」「中西部」そして「極東部」とに分割されています。

そのネパール国内でHIV/AIDS事業の対象地域として絞り込んだのが、東部、中部、西部地域の平野部でインドと国境を共有する16郡(ルパンデヒ郡:429,000人、ナワル・パラシ郡:436,000人、チトワン郡:294,000人、ダディン郡:227,000人、マカワンプール郡:255,000人、パルサイ郡:373,000人、バラ郡:416,000人、ロウタハット郡:340,000人、サルラヒ郡:402,000人、マホタリ郡:359,000人、ダヌサ郡:442,000人、シラハ郡:460,000人、サプタリ郡:380,000人、スンサリ郡:383,000人、モラン郡:564,000人、ジャパ郡:502,000人)を貫く東西ハイウェイ沿いです。 そこでは、山岳部や丘陵部と比較して道路交通が発達し、ネパール国内のみならず国境を超えた人とものの移動が非常に活発なのです。また、インド資本で建てられた大きな各種の工場がハイウェイ沿いに軒を並べ、大きな雇用機会を創出し、たくさんの労働者が生活しているのです。

2. 対象者

そのような事業対象地域で、HIV/AIDS事業を展開するにあたりターゲットを絞っているのが直接的対象者としての性産業従事者とその顧客です。この顧客のなかでも特に、長距離トラック運転手、長距離バス運転手、工場労働者、軍・警察関係者です。 更に間接的な対象者として、性産業従事者とその顧客の配偶者や感染のリスクのある女性等にもターゲットを絞り込んでいます。それらの対象者を媒体としてHIVの感染をひろめないようにすることが、この事業の大きな狙いのひとつです。

3. 活動内容

1999年10月に着手されたこの事業、「ビヘイヴィア・チェンジ・インターヴェンション(BCI)」と銘打ち、「コミュニティ・アウトリーチ」と「ピア・エデュケイション」を活動の大きな柱としています。 これは対象地域と対象者を絞り、地域で展開するHIV/AIDSに関する教育・啓蒙・カウンセリング活動が中心となるHIVの感染の「予防(Prevention)」活動です。更に、2001年9月には、性感染症に関するサービスを提供する事業(「STIサービス・デリヴァリィ」)も加わりました。 ヘタウダ(カトマンズの南。東西ハイウェイとカトマンズから南へインドに抜ける幹線道路の交差する交易の要衝)の長距離トラックの集散地に、ネパール長距離トラック協会(NTEA)との連携でクリニックを開業するだけでなく、BCI事業と連携を取り、各地域へ巡回して性感染症に関する各種サービス提供しています(生殖器官系感染症管理の診療サービスや薬剤の販売等)。 この事業は、HIV/AIDSなどの性感染症の患者に対する適正な「介護・保護(Care)」を普及・促進しています。

以下に、継続的に行われている活動と併せて、最近行われた具体的な活動内容を紹介します。

(1)男性用ヘルスクリニック(STI事業)

2,200台の長距離トラックが登録されているネパール長距離トラック協会の協力により、ヘトウダ(マクワンプール郡)のトラック集散センター敷地内に、男性用ヘルスクリニックを開設。ヘトウダは、東西ハイウェイとカトマンズからインドへ抜ける幹線道路の交差点に位置する交易の要衝として発展しています。 このトラック集散センターには、毎日、約300から600台の長距離トラックが集散します。そのクリニックには、常時、医師、性感染症に関する訓練を受けた医療助士、臨床検査技師、カウンセラー等が各種サービスを提供しています。サービスには、一般的な診断、救急処置、薬剤の販売・配布の他に、特に、性感染症の発見(検査)、介護や処置に重点を置いています。

(2)性感染症患者への巡回サービス(STI事業)

ヘトウダとイタハリ(モラン群)にそれぞれ拠点を置く、巡回サービスチームが2チームあります。チームは、医師、看護師、臨床検査技師、運転手、用務員で構成されています。この巡回サービスチームは、東西ハイウェイ沿いで活動する性産業従事者を対象にサービスを提供しています。 活動範囲は、(なんと!)東はジャパ郡のカカールビッタから、西はルパンデヒ郡のブトワールまでの約550kmです(因みに、AMDAネパール事業では、東のジャパ郡ダマックにはAMDA病院があり、西のルパンデヒ郡ブトワールにはネパール子ども病院が、それぞれ医療サービスを提供しています)。 サービスは、事前に調査されて把握されている性産業従事者に対するだけでなく、BCI事業で新たに発見されて紹介された対象者へ、性感染症の検査(RTIアセスメント)やカウンセリングを提供する事が中心になります。

(3)性感染症・エイズに関する教育・啓蒙活動(BCI事業)

(3-1)他のNGO職員へのセミナー

2002年5月に、モラン郡で活動する地域のNGO職員に対して、HIV/AIDSの講演会を行いました。約102名の参加者(内20名が女性)を集め、HIVの感染を防ぐための地域の役割について、セミナーを開催致しました。

(3-2)教育ドラマの上演会

HIV/AIDS予防のメッセージがこめられて制作された「Buddhi Ko Birko, Sabadhan and Hoshiyar(知識の蓋。気をつけよう!)」を対象地域で10回上演し、約3,500人(内1,225名の女性)の観客が楽しみながら、HIV/AIDSの知識を吸収しました。

(3-3)HIV/AIDS弁論大会

2002年6月10日と12日の2日間、ジャバ郡ダマックのヒマラヤ中等高等学校とラモン郡イタハリのピース・ゾーン寄宿学校で、弁論大会を開催しました。タイトルは「ネパールにおけるHIV感染予防の学生の役割」。23名(内5名の女学生)の学生が、511名の聴衆の前で、熱烈に弁論を披露しました。 4名の優秀な学生に賞状と副賞が贈られました。

(3-4)フィルム上映会

2002年6月17日に、モラン郡イタハリにて、フィルムを上映。36名(内3名の女性)の観客が鑑賞しました。上映後には、事業職員の司会によるディスカッションがつづき、「安全な性交渉」について活発な意見交換が行われました。

(3-5)簡易ホテル経営者へのセミナー

2002年6月19日に、サプタリ郡ラーハンにて、地域のホテル経営者を対象にHIV/AIDSのセミナーを開催しました。ホテルという場所が、HIVの感染が広まるにも、その拡大を防ぐにも大きな大きな役割をになっていると、参加者の認識が深められました。

(3-6)地域女性団体へのセミナー
エイズ予防セミナーに聞き入る人々
エイズ予防セミナーに
聞き入る人々

2002年4月17日にはモラン郡ダランにて、2002年5月15日にはジャパ郡ビルタモドにて、また、2002年6月13日にはスンサリ郡ラーハンにて、それぞれ地域の女性団体の代表とメンバーを対象にセミナーを開催致しました。地域の女性の活動に大きな関心をもっているだけに、とても真剣にセミナーに参加していました。

(3-7)性産業従事者(女性)へのセミナー

2002年5月9日にスンサリ郡ラーハンにて、また、2002年6月23日にはモラン郡イタハリにて、それぞれの地域の性産業従事者を対象にしたセミナーを開催。避妊法や、HIVの感染の仕方、性感染症の症状や対処などを説明しました。コンドームを継続的に正しく使うことの重要性を、深く認識しました。

(3-8)ドロップ・イン・センター

事業地域のハイウェイ沿いや村落の中に、「ドロップ・イン・センター」を開設しました。そこには、HIV/AIDSに関する訓練を受けた事業の職員や「ピア・コミュニケーター」と呼ぶ地域有志がいて、その管轄地域の情報を吸収したり、また、HIV/AIDSに関する情報や、IEC教材を配布したり、カウンセリングサービスを提供したりしています。 そこは、地域のコミュニティ・センターとしても機能し、ビデオの上映会やグループ・ディスカッションの場を提供したりしています。




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