|
|
貧しい患者の為のローン
AMDA Journal 2002年 1月号より掲載
|
AMDAネパール子ども病院(Siddhartha Children
and Women Hospital = シッダールタ・子どもと母の病院)には、毎日200人ほどの患者さんが訪れます。子ども病院は、1998年11月に開設されて依頼、「小児及び周産期医療の専門病院として、貧富の差やカーストに関係なく、必要とする人に、必要な医療サービスを提供する。」を実行すべく努力しており、活動が認識されるにつれ、遠方からも多くの患者さんが訪れるようになりました。
現在、子ども病院の診療代は初診料15ルピー(23円)、再診料10ルピー(15円)と、市中の私営クリニックなどと比較して約10分の1に抑えられています。手術や入院費を含めた治療費も、患者の負担額は市中の医療費に比べ2分の1から3分の1程度に抑えられています。これらは、総支出の5
割以上を政府からの補助金でまかなっている公立病院の診療費とほぼ同程度です。健康保険制度のないネパールの過疎地において、こうした慈善病院が経済的に自立するためには、本来現行治療費の数倍を頂戴しなければ、病院の自立運営及び望むべく発展は困難と言えるでしょう。しかし、診察代、治療費、入院費を値上げすることによって貧しい人々が排除されてしまうのでは、慈善病院としての存在意義が失われてしまいます。
こうした状況を踏まえ、子ども病院は皆様のご支援を受け、一定レベルの自立運営が可能となる最低限の医療費を徴収することにより、過去3年間医療サービスを提供してまいりました。しかし、ネパールにはその医療費さえ支払う事の出来ない人々がいます。子ども病院はこうした現実の壁に突き当たりました。特に、現地へ医療支援活動を行いに来た日本人医療従事者らにとり、治療費が支払えない貧しい患者さんを目の当たりにし、医療サービスを施したいという気持ちと、子ども病院に最低限の自立はしてほしい、すなわち、医療サービスを無料にする事は難しいという気持ちの対立、ジレンマは、辛いものでした。また、患者さんを無料で診療すると決めた場合、どの患者さんが本当に貧しいのか、どの患者さんが本当に無料診療を必要としているのか、子ども病院の自立と同様に、患者さんの自立の妨げにはならないのか、などという問題もありました。
この問題を解決する為に、考えられたのが、「貧しい患者の為のローン制度」です。ローン制度といっても、利子もなく、返済しなかった場合の罰もなく、緩やかな形の制度ですが、これは、1.貧しい患者さんへ医療を受ける機会を 2.慈善病院としての子ども病院へ自立の機会を 3.貧しい患者さんへ自立の機会を(自助努力の促進) という3つの目的の元に作られた制度であるといえます。
ネパール観光の途中、子ども病院に立寄って下さった方々、あるいは医療専門家として子ども病院に過去派遣された方々からご寄付頂いたお金を基にこのローン制度は2000年1月に始まりました。現在まで、12人の患者さんが、子ども病院のローン担当者により審査(家族構成、年収、財産等)をうけたあと、このローンを適用されました。(下表の通り)
|
患者名 |
病名 |
住所 |
ローン金額 (単位:ルピー) |
1 |
Sandeep Chudhari |
髄膜炎 |
Dang District |
345.00 |
2 |
Uma Budha |
鎖肛 |
Rolpa Distirct |
12,390.00 |
3 |
B/O Juna Gurung |
肺炎 |
Shankar Nagar |
965.00 |
4 |
Ghana Syam Giri |
急性呼吸性疾患 |
Semlar |
2,395.00 |
5 |
Yoddha Kumar B.K. |
敗血症 |
Bhaluhi |
2,941.00 |
6 |
Top Kala Sunar |
帝王切開 |
Kapilbastu District |
2,950.00 |
7 |
Sangita Chaudhari |
肺炎 |
Dang District |
595.00 |
8 |
Saraswoti Bhusal |
切開術 |
N.P. District |
1,000.00 |
9 |
Puskar G.C. |
日本脳炎 |
Kapilbastu District |
11,093.00 |
10 |
Shiva Bdr. |
マラリア |
Kapilbastu District |
365.00 |
11 |
Kamala Pun |
出産 |
Khaireni |
1,064.00 |
12 |
Babu Chudhari |
肺炎 |
Kapilbastu District |
295.00 |
|
36,398.00 |
表で示したように、ローンを受けることのできた患者家族は月々250
名の入院患者数を考えると全体の0.5%に過ぎません。この制度をサポートする基金もまだ十分にあるわけではなく、また、「貧しければ誰でも」というように、対象枠を大きく広げてしまうと患者の依存体質を強めてしまうといったようなネガティブな結果につながる恐れもあります。
現状を観察する限り、ローン受領者の大半は、返済能力に関わる、あるいは地理的な困難を抱えており、これまでに返済できたケースは四分の一に過ぎません。しかしながら、本当に心の底から自分の子どもの命を救いたいと思っている人、本当に困っている人に「ローン」 といった形で支援を行うことが現状では、上記の3つの条件を満たす、最良の方法ではないかと考えています。子ども病院では、今後とも改良を加えながら、細く長くこのような支援を続けていきたいと思います。
|
|
|