ミャンマー

ミャンマー発HIV/AIDS予防プロジェクトの
始まり


AMDAミャンマー 木下 真絹子
AMDA Journal 2003年11月号より掲載

長い雨季が終わりに近づいたとはいえ、ヤンゴン空港はまだまだ湿気でじめじめしていた。ミャンマーに赴任したその日からすでに忙しい日々は始まっていた。

さっそく、新しいHIV/AIDSプロジェクト立ち上げ第一弾として、新スタッフのためのオリエンテーショントレーニングの準備にかかった。このプロジェクトはUNDP(国連開発計画)とUNAIDS(国連合同エイズ計画)の共同支援を受けて始まった。ミャンマーで活動するNGOやユニセフなどの国連機関もようやくエイズ対策プロジェクトを実施し始めた。まさに、国レベルでエイズ感染拡大予防の動きがここミャンマーでもようやく始まったと言える。

1988年に始めてエイズ患者が確認されて以来、ミャンマーでもエイズ患者は増えるばかりである。今や東南アジアのなかで感染率が高く、増加率に関しては1・2位と言われているが、正確な統計の入手が困難であるのが現実である。

HIV/AIDS予防プロジェクト ーBehavior Changeー

AMDAミャンマーのエイズプロジェクトの第一フェーズは、特定グループを対象にエイズ予防教育と意識改革とに焦点をあてる。まず行動様式調査を行った後、その結果をもとに、エイズキャンペーンや地域でのエイズ・保健教育の効果的なプログラムを企画、そして実践していく。また、Peer Education(ピアエデュケイション)という手法を使って、正しいエイズの知識をピア(仲間)を通して普及していく。それに加えて、男性のみならず女性へのコンドームの促進にも力を入れる予定だ。

しかし、ここミャンマーで避妊具として一般に使われるのは経口避妊薬(ピル)と注射である。よって、エイズ予防のためだから、と言って彼らのプライベートな生活の中に新たにコンドームを紹介するのは簡単なことではない。理想的なシナリオとしてまず、正しいエイズの知識を得てもらい、次にコンドームがエイズ予防方法の1つだと理解し、そしてその上でコンドームを使ってみようかと考え、正しい使い方を学び、実践する。しかしながらこんなに簡単に人の行動パターンを変えられることは残念ながらできない。それには様々な外的・内的要因が必要となってくるのである。

そもそも私達の習慣を変えるのはそう簡単なことではない。身近な例で言えば、禁煙やダイエットがそうだ。体に良くないとわかっていても、行動が伴うまでには時間もかかるし、意外とつらいものだ。そこで私達はエイズ感染予防のために、人間の行動様式の変化という難題にチャレンジすることになるのだ。

エイズに対する意識改革・教育のみならず、今後は自発的カウンセリングとテスト(VCCT)をプロジェクトに導入できるよう、スタッフトレーニングを予定している。また、各フィールドにあるAMDAクリニック内(パコック、ニャンウ、メッティーラの3市)でカウンセリングとエイズテストができる場所を設けることができればと考えている。エイズのカウンセリングやテストだけでなく、性感染症やリプロダクティブヘルスに関するカウンセリングや治療がAMDAクリニックで可能になる日々はそう遠くないのかもしれない。

オリエンテーショントレーニングを行う筆者
オリエンテーショントレーニングを行う筆者

HIV/AIDSプロジェクト オリエンテーショントレーニング

今回行われたオリエンテーショントレーニングの期間は7日間。対象者はこのプロジェクトのために新たに採用されたミャンマー人スタッフで、医療関係者も含め合計25名。主なトレーニング内容は別表のとおりである。

様々なテーマを盛り込んで講義を行ったが、できるだけ対話形式やデイスカッション、またはロールプレイを盛り込みながら進めるようにした。トレーニングは室内で行われるばかりではなく、実践上役に立つような内容も組み入れた。ヤンゴン市内の感染症専門の国立病院に行きエイズ患者を訪問したり、行動様式調査サーベイのテストを街に出て行ったり、他の団体が実施しているエイズプログラムの見学がそれである。

国立感染症病院ではエイズ患者に見られる日和見感染症で苦しんでいる老若男女であふれかえっていた。結核、肺気腫、皮膚病、慢性の下痢など症状は様々である。生まれたばかりの小さな子供は体重が増えることなく、やせた頬をして母親に抱かれ、こちらをうつろに見ていた。その光景はなんともいえない印象的なものだった。

新しい形の行動様式調査

近々、行動様式調査の実施を予定している。まず対象はハイリスクグループとその家族だ。AMDAの活動地では、若者、タクシードライバー、売春婦とその客、バーやカラオケバーの従業員、季節労働者や移民とその家族が主な対象グループになる。調査を通して、彼らがどれだけエイズに関して正しい知識を持っているのか、エイズリスクの高い行動形態とパターンは何か、性感染症に対する適切な知識と対処方法をどれだけ分かっているか、さらにエイズという病気に対する理解と受け入れなどを調べてい。これらの質問はすべて、私生活の部分に深く関わっていることもあり、かなり気を遣わなければならない。ある種テクニックが必要だ。今回のトレーニングでは、基本的な調査手法のみならず、このような微妙な内容の(個人的な)質問をどのようにしていくかなどもカバーした。トレーニング参加者と一緒にすべての質問を見直し、その土地に適切な言葉や言い回しなどを丹念にチェックし訂正していった。そして実際にグループごとに街に出てサーベイのテストし、その後もう一度最終訂正を行った。今後、AMDAスタッフはフィールドに出て、難しいと言われる行動様式調査を1人でしなければならない。

私自身これまでに色々な国の人と働いてきたが、ミャンマー人と働くのは今回が初めてである。すでにこれまで出会ったミャンマー人の能力の高さに驚いた。いろんな意味でここは可能性の秘めた国なような気がする。これからが楽しみだ。

主な内容
Day1AMDAの理念紹介
HIV/AIDSプロジェクトの詳しい活動内容
講義:HIV/AIDSの基礎医学的知識
Day2病院訪問(エイズ患者との面会)
講義:HIV/AIDSケアとサポートI について
Day3PSI(Population Services Inernational)による
男性コンドーム&女性コンドームの正しい使い方の実演
講義:HIV/AIDSケアとサポートII について
Day4講義:Peer Educationについて
講義:IEC(情報・教育・コミュニケーション手法)について
講義:保健省がサポートするVCCT(自発的カウンセリング、
エイズテスト)について
講義:PRA&PLA(農村参加型開発)とは?
Day5講義:Stepping Stoneとは?
講義:行動様式調査について
質問内容の見直しと編集
Day6フィールドでのテスト調査(Pre-test)テスト調査の評価と訂正
Day7ワールドビジョン(NGO)によるエイズプログラム紹介
会計・レポートについて
トレーニング全体評価



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