ミャンマー

Finding Patients: 村民受診率向上プログラム

看護師 本田 絵美
AMDA Journal 2002年 7月号より掲載

熱が出たらまず病院に行く。夜間の発症でも救急病院がある。病院へは救急車が搬送してくれる。子どもが泣き止まなかったら病院に電話をして聞いてみることもできる。

日本では当たり前の医療サービスが、ここミャンマーでは人々と医療サービス特に病院を利用することが一般化しておらず、その原因として考えられるもの、一つは経済的な負担が大きいこと二つ目に地理的にアクセスが困難なこと、そして三つ目には健康に対する認識不足から治療の時機を逸してしまいこれらの理由から医療者の手に渡ったときには時既に遅し、ということが珍しくはありません。

Finding Patients(村民受診率向上プログラム)
Finding Patients(村民受診率向上プログラム)
このプロジェクトはメッティーラ総合病院小児病棟開設後、その認知度の向上の為に、また広くは母子保健の更なる向上を目指し、この国の健康水準の向上を阻む、地理的,経済的事情から医療サービスを受けることが困難な人々にサービスを提供するべく2000年10月より始められました。

当初は対象が小児のみで、主な目的が患者発掘─日本人看護師による健康相談、AMDA医師との取り決めによる約束処方、要継続治療児には受診推奨、また緊急を要する患児には病院までの搬送─でMW(Mid Wife:助産師の役割と担当村の健康管理と、応急処置を行っている。 外傷の際は縫合も行う)が村を訪れる際に同行していましたが、同行という形を取ると日程調整が困難なことから、AMDA単独で従来の巡回診療とは別に、S/C(Sub center: MWが駐在している村人に最も身近な医療機関、現在メッティーラ地区385村に対し32のS/Cがある)や村を訪問していました。 また、対象を成人にも拡大し、医師が同行するようになり、次第に人が集まるこの場を保健教育の場にも当てるようになり、現在では医療機関からより遠く医療者のいない村をTNO(Township Nursing Officer: 地域の医療従事者を統括する役人)が選定し、週に一回の割合で医師、看護師、AMDAスタッフと、地区担当のLHV(Lady Health Visitor:日本で言うところの保健婦のような役割)MWをはじめ現地の関係者と共に村へ出向き、治療と3日分の処方と生活指導、そして保健教育を行っています。

時期により差がありますが、現在受診率は平均して村人口の約10%程度ですが、中には特に症状の自覚があるわけではなく、ただ医師による診察を希望して来たと言う人もいます。しかし彼らも診察をしてみると自覚症状こそないものの、高血圧、皮膚粘膜感染症、栄養障害特にビタミン不足による脚気等の症状があり、治療の対象になることが多いです。

診察処方料は一律100Kと抗生剤1錠の購入価格が15K以上することからもこの価格はかなり安価と思われます。この地域の労働者の平均的な日給が150K程度、それ以下のこともあり、支払い困難と村長とMWと医師が認めた場合無料にすることも珍しくありません。 また3日間の投薬では限られた効果しか期待できず、私達も毎回異なる村へ行くことから、要継続治療と思われる症例で、なおかつ経済的に通院が困難な場合はAMDAクリニックを紹介し、そこから"OR病院を紹介し、AMDAのEmergency Fundを使って治療が継続できるような体制をとっています。

村へ行くのはAMDAの4WD車でも二時間かかると言うこともあります。当然村の人が受診をするに自家用車などもなく、最寄のS/C(MWが1/Wの割合でクリニックを開いている)まで牛車で、または自転車で数時間というところもあるくらいです。交通費が診療代より高くつくこともあります。村の人が多少具合が悪いところで、まず受診をしようと言う気が起こるわけがありません。 要継続治療と判断してもその後医療機関に行くかどうかは本人次第と言うことになり、毎回異なる村へと行くこのプロジェクトでは把握しきれていないのが現状です。

疾患として多いものは、この中部乾燥地帯に頻発する呼吸器感染症、その場では一応ARIと言うことになりますが、その中の何割かはPrimly Complexであることが多く、乳児も然り、TB Gramを持つ小児の数の多さに驚きます。また急性期には入院をすることがあっても、その後のFollow upが困難で、長期間の服薬指導をしても、症状が改善したからと自己判断で内服を中断してしまうこともあれば、経済的理由により継続治療不可能な場合もあり、この拡散を防ぐにはまだまだ時間が必要です。

また水源不足、水質が悪い事から多く生じる胃腸炎(寄生虫症を含む)皮膚・眼・耳感染症、特に寺に集団生活をする子坊さん達は、疥癬(かいせん)は日常のもので、一人疥癬の子坊さんを見つけるとできるだけほかの子坊さんも呼びに行き同時に治療を呼びかけるようにはしていますが、寺の出入りが多く跡を絶ちません。 そして各種ビタミン欠乏症、少なくない重篤な栄養障害、親の無知から極端に偏った栄養を取らされているものや、この国に多く存在する迷信から来るもの、例えばミャンマーでは米が主食で習慣的にお米ばかり食べる傾向にあります。幼児でも丼飯を食べる子もいるくらいですから、当然ビタミン不足に陥ります。 そこに経済的な事情が加わりほかの栄養素の摂取が困難で重度の栄養障害となってしまいます。乳幼児の場合一見して月齢を当てるのは困難です。実際に貧困と親の無知から1才8ヶ月になっても水と油しか与えられておらず、見た目は5、6ヶ月児程度で立つこともできないという発育障害が懸念されるケースもありました。ですから、処方される薬には必ずといって良いほどビタミン剤が入りますが、3日間の処方では、焼け石に水です。診察において栄養指導が最も多いのではないかと思います。

また奇形、口唇口蓋列がおおく、政府もキャンペーンを張って、MW等による患者の発見、手術を行ってはいるのですが、年長児、時には青年期でも医師の診察を受けたことがないこともあります。習慣がないだけに病院が、手術が怖いと言う理由から診察を受ける機会があっても躊躇することが多いようです。 私達は怖くないから手術を受けるよう話をし、経済的な問題があれば、AMDAクリニックに来ればFUNDが使え無料になることを説明して、手術を受けるよう働きかけてはいますがそれでも、躊躇する場合もあります。

そして悪性腫瘍を疑わせるもの、診察時には検査もできませんので直ちに診断できるケースは少ないのですが、実際に数ヶ月に渡る倦怠感、通過障害、呼吸障害等の症状が出現し羸痩(るいそう)も著明で病院に行くよう手配をし検査をしてみると既に末期だったというケースがありました。原病巣は胃がんの肝肺転移だったのですが、敬虔な仏教徒の多いこの国では最期は家で迎えるという習慣があります。 このケースでは入院数日で自分の病気がわかると家に帰ってしまいました。その他には地域特有のもので、肉魚を塩漬けにして保存する為に食生活から生じる高血圧、脳血管障害、季節特有なものとしては雨季に増えてくるデング熱、インフルエンザなどが挙げられます。

珍しい4WD車が村に行くとたいていの村で人が集まってきます。そこで彼らの協力を得てまず受け付け、診察、投薬の机の設置から始めます。もちろん個室など作れるわけが無く、個々の診察中も診療を待つ患者が周囲を取り囲んでいます。しかしプライバシーと言う概念の薄いこの国ではそれが却って和気あいあいとした雰囲気の中で診療ができ、医師は適宜彼らに対しても保健教育をしながら、個人の診察、健康指導を行います。 そして人が集まり、村の健康の動向が把握できた頃、医師による保健教育が始まります。テーマはその都度、医師が最も必要と思われるものを行います。

ミャンマーでは迷信、伝統医療と言うものがまだまだ家庭看護の主流を占めています。例えば咳をしているときに鶏肉と甘み料は禁忌、口唇ヘルペスには中国製の歯磨き粉をつける、火傷に塩を塗る…等私達にはその根拠が理解しかねるものもあります。また通院が地理的経済的にアクセス困難なこともあり、伝統治療(無資格の医師のような人─もちろん違法です)と言うものも多く存在します。 奇形が多い原因のひとつはTraditional Medicine(漢方薬のようなもの)ではないかと言う説もあるようなのですが、国の人々に広く知れ渡っていて、安価で簡単に利用できることから、外傷も含めまず身近なTraditional doctorに見せる。その結果良い方向に向かえばそれはそれでいいのですが、そううまく行くとも限らず、悪化させてから医療機関にかかる、不潔な器械で処置をされ感染症までうつるというケースもあるというくらいですから、楽観視することができない問題です。

しかし人々は健康増進について知りたいという欲求を持っていますし、医療サービスを受ける事が困難な村人にとっては、健康を害する、労働ができなくなると言うのは死活問題です。よって実際に教育の現場では、大人も子供も真剣な顔つきで聞いており、反響も非常に大きく、日本人の私には非常に驚くことが多々あります。テレビも雑誌もなく迷信以外の健康情報も限られており知識を得る機会が少ない彼らにとってこの様な保健教育は貴重です。 情報伝達の媒体の主流が口コミというこの地域では、正しい保健教育が各家庭に伝わり易いと言えます。好奇心いっぱいの黒いクリっとした目で真剣に聞いている子供達にも、これを繰り返すことで、村の大人に正しい知識を広める役目を果たし、将来的には彼らが実践してくれることでしょう。

この国の医療水準の向上を阻む原因の一つであるインフラの整備にはまだまだ時間がかかります。先祖代々伝えられてきた迷信を打破するのにもまだまだ時間はかかりますが、今私達にできること、治療よりもまずは健康を守るために必要な正しい知識、特に衛生と栄養について自分達で考えることができるようになること。 恐らく結果が見えるのは数年先でしょう、しかしこの様な草の根の活動を地道に続けていくことでいつの日か芽が出ることを信じています。




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