ミャンマー

総合的な地域保健医療サービスの提供を目指して
「母と子のプライマリーヘルスケアプロジェクト」
間もなくスタート


AMDAミャンマープロジェクト 駐在代表 小林 哲也
AMDA Journal 2002年 7月号より掲載

皆さんがもし病気になった時、とにかく急いで一番近くの病院まで行こうとしたら、どれ位の時間がかかりますか? 大都市であれば、個人病院なら歩いて数分のところにあるでしょう。小さな町や村でも車で30分〜1時間も走れば、大抵は何らかの病院に辿り着けると思います。

しかし、国民全体の半数以上が暮らしているミャンマーの農村ではそうはいきません。村にある保健センターには助産師や保健師はいますが、医師はおらず医療機器も無いので、きちんとした診察や治療が出来ないのです。 従って町の病院まで行かなければなりませんが、町の中心にある公立の総合病院までは、まず凸凹の農道を牛車に揺られながら数時間かけて舗装道路まで辿り着いた後、更に乗合バスで数時間もかかります。 つまり合計で最低でも2〜3時間、かなり奥まった村からだと5時間以上かかることも決して珍しくありません。加えて、その交通費が村人達にとっては大きな負担となります。

このように非常に時間がかかることと、経済的に負担が大きいことなどから、村人達は病院に行くことを出来る限り避けようとします。そして行かないため、「病院では何をされるか分からない」といった恐怖感も、まだ農村には強く残っています。 そのため特に赤ちゃんのような容態が変わりやすい患者の場合、村ではどうにも手の施しようがなくなって慌てて病院に行こうとしても、生きている間に辿り着けないケースや、着いても既に手遅れだったりするケースが非常に多いという悲しい現状があります。

実際、ミャンマーは5歳未満児死亡率がアジアで最も高い国の一つです。UNICEFの統計によれば、1,000人当りの死亡率が112人とアジアで2番目に悪く、世界でもワースト40に入っています。 また妊産婦死亡率は、10万人当り580人というWHOの統計と、同230人というUNICEFの統計(ミャンマー政府提出)に大きな差が見られますが、実際にはその中間程度、約400人程度だと言われており、それでもアジアでワースト5に入るという状況です。 疾病については、大人の死因はマラリア、肺炎、内臓系疾患、呼吸器系疾患、結核などが上位を占めていますが、5歳未満児の死因では、急性の呼吸器系疾患に加えて下痢、栄養失調、死産・早産が多くなっています。

厳しい自然環境による問題もあります。ミャンマーの中部乾燥地帯は、年間降水量が僅か500mmから600mm程度です。これは東京の3割程度、ミャンマーでは降水量が豊富な南部のラカイン州の1割程度しかありません。 この極度に乾燥した気候とそれによる水不足が、呼吸器系疾患やマラリア、下痢、トラコマなど様々な疾病を誘発しています。従って保健医療面での十分なサポート無くして、地域住民、特に母親や子供が健康を維持することは非常に困難です。

こうした現状に基づき、母子保健を中心とした課題の解決に向けて、AMDAミャンマーは1997年から、日本の外務省やJICA、そして国連機関(UNDP/WHO)と協力してプライマリーヘルスケアの活動を行ってきました。 そして今回、これまでの実績が認められ、中部乾燥地帯での総合的な地域保健医療サービスの提供を目指すプロジェクトを、今年7月(予定)から実施出来ることになりました。これがJICAの開発パートナー事業による、「母と子のプライマリーヘルスケアプロジェクト」です。

具体的には2005年3月までの約3年間、メッティーラ市に加えニャンウー市、パコック市という中部乾燥地帯を代表する3都市で、以下のプログラムを実施します。母子保健の向上に向けて、医療サービスの供給や医療施設の整備だけでなく、栄養管理や浄水供給、保健衛生教育などのプログラムも実施します。 加えて、外部への交通アクセスが困難な農村における受診・照会用の交通手段の提供など、幅の広い活動プログラムによって総合的な地域保健医療サービスを提供することが、このプロジェクトの特徴です。以下にその内容を簡単にご紹介します。

1) 地域医療施設整備プログラム

農村の地域病院や地域保健センターには、医者(地域病院のみ)やベテランの助産師などスタッフは配置されていますが、設備が整っていないため適切な治療が出来ません。従って現場スタッフの能力を十分に活かし、母子保健の向上を図るためには、こうした医療施設とその設備を充実させることが重要です。 このような目的から、これまで活動を続けてきたミャンマー子ども病院(メッティーラ総合病院小児病棟)に加えて、パコック市やニャンウー市の総合病院小児病棟、各市の地域拠点病院や地域保健センターなど、母子保健に深く関係する医療施設を新築・改修したり、医療機器を導入するのがこのプログラムです。 また同時に、2)の巡回診療の実施に向けて、補助保健センター等、末端レベルの施設の整備も行います。

2) 巡回医療と基礎保健教育プログラム

巡回診療と基礎保健教育プログラム
巡回診療と基礎保健教育プログラム
ミャンマーの5歳未満死亡例の35%は、病院で治療を受けなかったケースであり、また12%は未許可の医者による治療ミスが原因となっています。しかし、前述したように殆どの村には医療施設が無く、病院への交通費も高いこと、また公立の病院は診察費と一部の薬以外は有料であることも、村人達の経済的な負担を大きくしています。 従って農村地域で安く適切な基礎医療サービスを提供することが、母子保健の向上に向けて必要です。また疾病予防のための保健教育も重要な課題です。

そこでこのプログラムでは、各市で病院へのアクセスが困難な村を5村選び、毎日午前中、4WD車に薬と器材を積み込んで1つの村を訪問し診療を行うと共に、保健教育を行います。そして午後はAMDA診療所兼事務所で診療を行います。 メッティーラ市では昨年1年間だけで、巡回診療で約2万2千人、AMDA診療所で約1万4千人と、合計約3万6千人(延べ人数)の患者に基礎医療サービスを提供することが出来ました。従って今年からは、3市で約10万人の患者を診ることが出来ることになります。

3) 幼児栄養給食と栄養管理プログラム

幼児栄養給食と栄養管理プログラム
幼児栄養給食と栄養管理プログラム
経済的な理由と母親の知識不足から、村には栄養不良の子供達が多く、彼らは病気になった時の抵抗力が弱いというリスクを抱えています。ミャンマーでの乳幼児の志望理由の2割が下痢や栄養失調であるというデータがこの実態を示しています。 従って母子保健を向上させるには、こうした子供達の栄養状態を早急に改善すると同時に、栄養管理について、特に母親の意識改革と知識の向上が欠かせません。 このプログラムでは巡回診療を実施する各市5村、合計15村に給食センターを建設し、栄養不良の子供達に給食を提供すると同時に、母親を対象とした栄養指導のセミナーを実施します。 これは子供達の栄養状態の改善による疾病予防と健全な発育の促進によって、乳幼児の死亡率を減少させるだけでなく、給食の体験によって栄養管理の重要性を母親に認識させ、その知識を高めることも目的としています。

4) 井戸建設と衛生指導プログラム

このプロジェクトを実施するミャンマー中部乾燥地帯は、国内で最も降水量が少ない地域の一つであり、安全な水の確保が極めて困難な地域です。従って特に子どもについては、不衛生な水の使用による下痢や赤痢が多く、またトラコマなど目の病気や皮膚病も非常に多くなっています。 また、いくら保健衛生に関する教育を行っても、それを具体的に実践する環境が無ければ、どんなセミナーも意味を為しません。従って水源が無い村では、井戸建設によって浄水を確保することが、セミナー等の効果を高め、地域の母子保健の向上につながります。 このプログラムでは、巡回診療や幼児給食を行う各市5村の内、メッティーラとパコックの合計4村又はその周辺地域で井戸を建設し、浄水供給を行うと共に、井戸水の利用者を対象とした衛生指導を行います。

5) 受診と照会促進プログラム

農村の道路は、舗装されていない悪路が殆どであり、交通手段は牛車か自転車などに限られています。従って村で巡回診療や幼児栄養給食を実施しても、診療所や給食センターから遠く離れた場所に住んでいる村人、特に、移動が困難な子どもや病人は、これらのサービスにアクセスすることが容易ではありません。 従って受益者を増やし活動の実効性を高めるには、交通手段の整備も必要です。

そこで小型あるいは中型トラクターによる農村巡回バスによって、巡回診療や幼児給食プログラムに参加するための交通アクセスを確保するのがこのプログラムです。また村で重病や急病の患者が発生した際、より上位の病院に搬送するためにも使用します。 これによってリファラル(照会制度)を一層充実させ、適切な医療サービスを患者に提供することが可能となります。

6) 医療技術と看護指導

ミャンマー子ども病院(メッティーラ総合病院小児病棟)は、AMDAの事業として99年11月に建設されました。母子保健の向上を図るためには、この子ども病院の医療体制を更に充実させることが必要です。 病院は開院してから約2年半が経過し、看護師の数などは次第に増えてきましたが、例えば小児外科など、更に専門的な医療体制については、これから整備が必要になります。そこでこのプログラムでは、日本人の小児外科医師と看護師を現地に派遣し、子ども病院を中心に、ミャンマー人の医師や看護師に対して小児外科技術や知識の移転と指導を行います。

これらのプログラムを有機的に上手く組み合わせて実施することによって、地域保健、特に母子保健の向上を図ることが出来ると考えています。そしてその成果を具体的なデータで示し、記録することによって、ミャンマーにおける地域保健政策のモデルを構築することも可能でしょう。

現在は開始に向けた最終的な段階に入っており、スタッフ一同、非常に張り切って準備を進めています。今年秋のAMDAジャーナルで、このプロジェクトが始まった様子をお伝えしたいと思います。




緊急救援活動

アメリカ

アンゴラ

イラク

インドネシア

ウガンダ

カンボジア

グアテマラ

ケニア

コソボ

ザンビア

ジブチ

スーダン

スリランカ

ネパール

パキスタン

バングラデシュ

フイリピン

ベトナム

ペルー

ボリビア

ホンジュラス

ミャンマー

ルワンダ

ASMP 特集

防災訓練

スタディツアー

国際協力ひろば