ミャンマー

きれいで安全な水を村人たちに!
ミャンマーで浄水供給プロジェクトが進行中


AMDAインターナショナル ミャンマープロジェクト事務所
駐在代表 小林 哲也
AMDA Journal 2001年 6月号より掲載

 人間の体の約7割は水分です。そしてその私達人類が地球上で生活出来るのは、「水の惑星」と呼ばれる程、この星が豊かな水に恵まれているからであり、こうした水の重要性については、今更言うまでもありません。

 しかし私達の生活にとって不可欠なこの「水」にアクセス出来ない人々が、世界中に現在、10億人以上いるとされています。ミャンマー中部の乾燥地帯に住む人々も、その中の一部です。



 ミャンマーの中部乾燥地域では、年間降水量が僅か500〜600mm程しかありません。同じミャンマー国内でも、降水量が多い沿岸地域では約5,000mmもあり、日本の東京でも約1,500mmです。地理学上の定義では、年間降水量が200mm以下の地域は砂漠とされることからも、この中部乾燥地域がいかに降水量の少ない準砂漠地帯かがお分かり頂けることでしょう。実際、この地域を車で走っていると、何種類もサボテンを見かけます。熱帯の国と聞くとうっそうとしたジャングルばかり想像しますが、それだけではなく、こうした側面も併せ持っていることがよく分かります。


 ミャンマーのこのような乾燥地域では、水汲みは女性と子供の仕事です。灼熱の太陽の下、川や池から20kg以上もある水桶を担いで数 kmの道のりを歩かなければならない重労働の辛さは、私達には想像することすら出来ません。それでも得られるだけ良い方で、乾季の終りになると池が干上がったりして、水の確保がより一層困難になります。

 こうした状況下では、衛生的な浄水供給の不足による疾病も当然、多くなります。非衛生な水の使用による下痢や赤痢などが特に子供達に多いのは勿論ですが、水の汚れと砂塵とによって引き起こされるトラコマと呼ばれる目の病気が多いのがこの地域の特徴です。従って浄水の十分な供給は、重労働から女性や子供達を解放するだけでなく、地域住民の健康増進、特に母子保健に向上にも大変大きな意味を持っています。


 このような背景から、AMDAインターナショナル ミャンマープロジェクト事務所(以下AMDAミャンマー)ではJ.S.Foundationから多大なるご支援をいただき、昨年暮れから中部乾燥地域のパコック市において、井戸建設のプロジェクトを開始しました。これは既に過去のAMDAジャーナルでもお伝えしましたが、パコック市郊外の村々において、浄水の入手が特に困難な地域を4ヶ所選定し、そこに井戸を建設する事業です。

 パコックはイラワジ川沿いにある人口約27万人の都市ですが、昔から水不足に悩んでいました。そして実際、地質の状況から井戸を掘るのが非常に難しい地域です。我々が現地調査をした際も、過去さまざまな団体が井戸掘りに挑戦して失敗した跡を幾つも見かけました。そのためAMDAミャンマーでは事前調査を慎重に行い、水を得るために必要な井戸の深さや地質等についての情報を得ました。また掘削の契約についても、1本だけでは失敗する可能性が高いため、水が出るまでは同じ場所で3本まで同一料金で掘るという契約を結び、リスクの軽減を図りました。

 こうして昨年12月末から掘削の工事が始まったのですが、予想通り、工事は困難と試練の連続でした。まず重要な1ヶ所目のカイン村では、1本目の井戸が途中約300フィートも掘ったところで堅い岩盤に当たり、それ以上先に掘り進めなくなって失敗。2本目の井戸では、今度は途中でドリルが泥にはまって抜けてしまって失敗。早速もう後が無くなってしまいました。

 しかしこれまでの2本の掘削で地質の状況をより詳しく知ることが出来たため、現場のエンジニアが3本目の井戸の場所選定を的確に行うことが可能となり、2月の中旬、約430フィートを掘り抜いてようやく水を得ることが出来ました。この知らせを聞いた時、ヤンゴン事務所のスタッフが皆総立ちになって喜んだことは言うまでもありません。その後、地質の状況にも詳しくなった掘削チームは順調に作業が進められるようになり、2ヶ所目のマジカン村では、1本目は埋め込んだパイプが破損するというアクシデントで失敗したものの、2 本目で無事水を得ることに成功。こちらも435フィートの深さまで掘りました。

 こうしてこれまでに2ヶ所で井戸を掘り上げ、パイプラインや貯水タンクの設置を終えた結果、毎時1,500ガロン〜1,700ガロンという大量の井戸水を住民達に提供出来るようになりました。現地の建設会社の全面的な協力や、村人達の自発的な労働力の提供等によって、通常より大幅に安いコストでこれらの井戸の建設が可能となっています。従ってこれまでのところ、資金の効率的な利用という意味では、幸いなことに大変良い結果を得られています。

 現在は3本目の井戸をインピン村で掘っています。こちらも作業は順調に進んでおり、間もなく水が得られる予定です。作業は当初の見込みより大幅に遅れてしまいましたが、自然を相手にする事業だけに、やはり一筋縄には行きません。あせらず、慌てず、慎重に作業を進め、とにかく無事に4本の井戸を全て完成させることが今の最重要課題だと私達は考えています。



 また昨年11月、ASMP「魂と医療のプロジェクト」を開催したチャパタウン市でも、当プロジェクトで訪緬された中島妙江師からご寄付を頂き、浄水供給事業への協力を行っています。これはASMPの慰霊祭を実施させて頂いたシュエタンサー寺院のご住職が中心となって始められた事業で、深さ 600フィート(約200m)の井戸を寺院の敷地内に建設し、2万人から3万人の村民に浄水を供給する計画です。


 パコックと同じ中部乾燥地帯にあるこの都市の人口はパコックとほぼ同じ約26万人。ここでも昔から浄水の確保には苦労しており、今は主に池の水を使用しています。しかし雨が降らない乾季の終り頃になると、池は次々に干上がってしまいます。乾季が終わる今頃は往復約2時間かかる場所の池の水を使っていますが、この池の水もあと半月で無くなってしまい、そうなると20マイル(約30km)も離れた池まで、一日がかりで水を汲みに行かなければなりません。そしてこうした水汲みは、主に10代の子供達の仕事となっています。

 池の水の代わりに、町で井戸水を買うことも出来ますが、家畜用なども合わせると平均して一日約150ガロンの水を必要とする農民にとって、1ガロンで3チャット(約0.6円)という価格は決して安くありません。彼らの月収は平均して約3,000チャット、約600 円に過ぎないからです。

 また池の水は浄水として望ましい水質ではなく、そのため下痢や赤痢、皮膚病などの病気がこの地域でも非常に多く発生しています。いくら保健衛生の知識を得ても、肝心の水が手に入らなければ、実践しようがありません。



 こうした現状に胸を痛めておられたご住職のウチョーティヤ大僧正は、ついにご自分で井戸を建設されることを決意され、農業省水資源局から掘削機械を借りて井戸掘りを始められました。そして600feetまで掘り抜いたところで、幸運にも良い水質の水を得ることが出来たのですが、そこで資金が尽きてしまい、水を汲み上げるポンプや井戸穴を固定するパイプラインの設置作業を休止せざるを得ない状況になってしまいました。

 ちょうどその時、ASMPで現地を訪れた中島師がこの話を聞かれ、事業に協力するための資金をご提供頂いたのです。そこでAMDAミャンマーは早速、水を汲み上げる強力な水中ポンプとパイプラインの購入を手配し、設置の準備を行いました。その結果、テスト作業では毎時2,400ガロンの浄水が得られ、2万人以上の村人達に十分な量の浄水を供給出来ることが確認されました。村人が今利用している池があと半月で干上がってしまっても、それまでにはこのポンプの設置が完了するため、今年からはもう水不足で苦しむ心配は無くなるでしょう。

 尚、ご住職はこれからの雨季に向けて、雨水を貯める5万ガロン級の貯水タンクの建設を計画しています。これによって雨季の間に降る貴重な雨を有効に利用することが出来、また汲み上げた井戸水を保管しておくことも可能になります。この貯水タンクは約30万円で建設が可能なのですが、やはり資金不足で建設を実施する目途が立っていません。ご住職は「日本の方々のご支援を是非お願いしたい」とおっしゃっており、AMDAとしても出来る限りの協力をしていきたいと考えています。


  このようにAMDAミャンマーでは、母子保健を中心とした地域住民の健康増進に向けて、医療サービスの提供だけではなく、保健衛生環境全体の向上を目指して活動を続けています。「体や着ているものを清潔にして病気を防ぐために、きれいな水を使いなさい」という教えが仏教の中にもあるとウチョーティヤ大僧正はおっしゃっていました。安全な水を1人でも多くの村人達に届けられるよう、今後もこの活動を継続していきたいと思います。皆様のご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。




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