コソボ

AMDAコソボプロジェクトの歩み

コソボプロジェクト事務所駐在代表 濱田 祐子
AMDA Journal 2002年 4月号より掲載


1999年からこれまで

コソボ自治州の正式な名前は、「コソボ・メトヒヤ自治州」といいます。東欧のユーゴスラヴィア連邦の南端に位置し、ほぼひし形の1万平方キロメートルの土地に200万人以上の人が住んでいます。AMDAが本部をおく岡山県は、面積約7千平方キロメートルに約192万人の人口を抱えています。

1999年、NATOによる空爆が激しさを増し、コソボからは多数の人々が難民となって近隣諸国に逃れました。現在コソボ事務所で働くスタッフのほとんども、このころおなじように難民となっていました。

AMDAはこうした状況の深刻化を憂慮し、コソボ難民救援チームを派遣しました。活動は、この後約1年間に及びました。

活動初期のチームはイタリアから高速船で渡り、アルバニア共和国に拠点をおき、巡回診療などを実施していました。99年6月、NATOが空爆の停止を決定すると、閉鎖されていた州境が再び開き、AMDAチームもコソボに入りました。コソボの復興や州内に帰還する人々の生活の支援を行うためです。

AMDAはプリズレン市に移りました。プリズレンは州の南西部にあり、コソボ第二の都市です。ここを足がかりとしてプロジェクトを展開していくことになりましたが、当初は終戦直後の社会の中で、物資の調達から困難が多くあり、運営が軌道にのるまでにはやや時間がかかりました。 コソボの人々は、コソボに帰還したばかりで明日の食事にも困るようなこの時期の、AMDAの活動をよく覚えてくれています。

その後、2001年の11月、満を持して新規プロジェクトが開始されました。それが、現在のホープ(HoRP)です。入念な準備のおかげで、今まで順調に進んでいます。

ホープは正式には「コソボ地域医療再建プロジェクト」と称し、ふたつの軸を中心にして進められます。軸となる活動のひとつは医療職の育成、もう一つは医療施設の再建です。

コソボの厳しい冬のため、建築は春を待って開始しましたので、これまでは医師へのトレーニングが活発に進行していました。現況を軸に沿ってご説明します。

家庭医育成プログラム

このプログラムは、故小渕首相(当時)が国連に設けた「人間の安全保障基金(HSF)」を活用し、世界保健機構(WHO)の提唱する「家庭医学 Family Medicine」に基づき、コソボ州内のプライマリーヘルスの向上と普及に重きをおいて計画されています。

家庭医学は、個人の加齢や世帯の構成、またその家族をとりまく文化や気候など諸条件を考慮して「健康」を捉え直そうとする考え方です。

AMDAはWHOコソボ事務所と共同で実施しており、州最北にあるミトロヴィッツアと、州東部のフェリザイの2ヵ所で行われています。ミトロヴィッツアは、深谷医師の報告(本誌P8)にも触れられているとおり、対立と紛争によって分断されている都市です。 また、フェリザイはプリズレンの次に大きな町であり、いずれもとくに若者のあいだで最近、喫煙、麻薬、 HIV/AIDSといった問題が増加しています。

プログラムの最も重要な点は、医師のあり方が変わるということをどのように考えてもらうかです。コソボは長く社会主義体制下にありましたので、医者は威厳をもって患者の上位に位置付けられ、患者はただ医者のいうことを聞くように義務づけられていました。

そのような医療から脱却し、医者は患者がくるのを待っているのではなく、地域の生活に入りこみ、患者と対等な立場で相手を尊重し、状態と方針について十二分に説明して施療する、そのような医者のあり方、ひいては医療のあり方をめざしています。

これは日本でもまだ充分に実現されているとは言いがたい状況です。日本からメンターMentorといわれる指導医師が派遣されても、やはり教えてやるという上下関係からではなく、現地の医師を同じく医療に携わる友として関わりあうことが求められています。 そして、これまでのところ、たいへん素晴らしい医師たちに出会えました。

AMDAはトレーニングの指導・助言をする医師を派遣していますが、プログラムが開始されて後、高橋徳、井下俊、深谷幸雄の3名の医師が現地に入りました。

高橋医師はAMDAの緊急救援に参加され、今でもコソボのことを気にかけてくださり、今回もいち早く参加してくださいました。

深谷医師も以前にボスニアでのAMDAの緊急救援に参加してくださったことがありますが、今回はミトロヴィッツアへの赴任でした。 気さくで快活なお人柄でスタッフやトレーニングを受講している医師たちをひきつけ、家庭医学にも刺激となる救急救命の経験と知識を分かち合ってくださいました。

最初に厳しい冬を過ごした井下医師は血液内科の専門であり、フェリザイへの赴任です。尺八演奏がご趣味で寡黙な方ですが、赴任直後からコソボでの本格的な肥満に関する調査を提案、実施してくださり、概要はコソボの大手新聞にも紹介されました。

冬の始まりと共に育成プログラムが開始されたため、当初受講生も訓練担当の現地医師も、また指導医師もマイナス24℃の部屋で凍えていましたが、その後ストーヴを入れて、講義も安心して受けられるようにしました。 みんな少し過ごしやすくなった部屋で講義を受けたり、議論したりすることができるようになりました。

海外から熟練の知識と技術を携えてくる指導医師に対する現地の期待はさらに高まり、役割は重要さを増しています。 指導医師の発言が今後のコソボの医療体制を方向づけてしまう可能性もあり、その重責を担える高潔な人格と豊かな知識を兼ね備えた医師に長く指導にあたってほしい、とある指導医師が話していました。

高橋 徳医師によるセミナー
高橋 徳医師によるセミナー

医療施設の建築

ホープで計画されているのはファミリーヘルスセンター(FHC)といわれる施設の建築です。FHCはプライマリーヘルスケアを中心とした診療施設です。ここでは、受診者の日常生活を見守りつつ治療を実施するとともに、衣食住の環境や生活習慣の改善をすすめていくことができます。

AMDAはコソボ州内に、4ヵ所のFHCを建設することを計画しています。アルバナ、バニャ、ペア、イストックです。

公開入札によって、建設会社も決定されました。なかには贈り物などでスタッフの歓心をかおうとするような業者もありましたが、入札は非常に厳正に行われ、州内でも高く評価されたと思います。

地域との交流

私たちコソボ事務所が常に気にかけていることは、地域とのお付き合いです。地域とのコミュニケーションがとれていなければ、建築には着手できません。土地の管理、下水道設備、そして安全確保など、いずれもまず地域の人々との話しあいが必要です。 また、準備から地域住民の参加が得られれば、「自分たちのセンター」という意識が高まり、プロジェクトがより円滑になります。プリズレン市近郊のアルバナ村を例にとってみましょう。

アルバナ村住民は計画段階から話し合いを重ねてきました。村のどこにつくるのか、どのようなセンターにしたいのか…、さまざまな問題を少数民族の代表者、女性の代表者が加わった会議で討議してきたのです。

アルバナ村の小学校にて子どもたちにFHC建築について説明する筆者
アルバナ村の小学校にて子どもたちにFHC建築について説明する筆者

この村の診療所は戦争によってほとんど壊されていたため、AMDAが緊急救援活動で修築しました。しかし、8千人の人口を抱える村には、今まで充分保健衛生を管理する施設も乏しく、診療所の建物は雪がつもれば屋根の崩落が危ぶまれるほど老朽化していました。 そのため、住民はちょっとした病気やケガでもプリズレン市の病院に診てもらいにでかけなくてはならなかったのです。

FHCを建てることが受け入れられた後、村では住民による「保健委員会」が組織されました。委員会では建築の進捗状況をチェックしたり、また近々予定されている起工式や数ヶ月後の落成式の計画にも参加するなどしています。 私たちは地域のこうした積極的な参加によって、住民自身が健康について意識するようになり、また医療保健施設と住民の繋がりをより強めることを期待しています。

プリズレン市近郊のアルバナ村の診療所
プリズレン市近郊のアルバナ村の診療所
中央 濱田調整員、右端 インターンの松村 豪さん

その他の活動

1999年、緊急救援活動に参加していた上田明彦医師が、難病に侵されている一人の男児を発見しました。当時3歳だった男の子 ネジールくんでした。かれの左目は「網膜芽細胞腫」といわれる、いわば眼にガンのできる病気でした。

バルカンではこれを根治できる医療機器も、医師の存在も絶望的であったため、日本に招いて手術をし、主治医であったガズメンド医師(現コソボ支部長)にも日本で研修を受けられるようにし、術後の手当ても万全なように手配しました。

その甲斐あってか、現在ネジールくんは小学校にはいり、この春には7歳になります。やんちゃな彼はときおり学校を抜け出してしまうのと、お母さんが笑っていました。

主治医であるガズメンド医師は、昨年プリシュティナ大学病院眼科病棟長に就任し、診療だけでなく学生の指導で多忙な毎日を送っています。

プリシュティナ大学病院眼科病棟のレーザー治療室で治療中のガズメント医師
プリシュティナ大学病院眼科病棟のレーザー治療室で治療中のガズメント医師

コソボは1999年にAMDAがお付き合いを始めたばかりの、まだ新しい活動地です。けれども、AMDAとコソボの友情とパートナーシップ、それに日ごろの奮闘はこれまでも続いてきましたし、これからも変わることはないでしょう。今後ともよろしくお願いします。




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