イラク

イラク復興支援 保健・医療調査レポート


看護師・保健師 相原 洋子
AMDA Journal 2003年 8月号より掲載

調査期間:2003年6月3日〜6月10日
(イラク国内)
調査地:バグダッド・アマラ・バスラおよび近郊の病院および保健施設

1.戦前における保健・医療の状況
アマラ診療所:薬局で聞き取り調査をする筆者(中央)
アマラ診療所:薬局で聞き取り調査をする筆者(中央)
 1991年の湾岸戦争以前におけるイラクの保健システムは中東地域の中でも最高水準レベルであり、 イラク政府によると、都市部97%、農村部79%の人口において保健・医療システムへのアクセスは可 能であるとされていた。また保健・医療サービスも公立施設においては無料で提供されていた。

イラクにおける保健指標(2001年)

平均寿命:男性 58.7歳・女性 62.9歳
 (日本:男性 77.9歳・女性 84.7歳
  パキスタン:男性 61歳・女性 61.5歳)
乳幼児死亡率:133人(対1000人)
 (日本:4人・パキスタン:112人)
 (WHO/UNICEFまとめ)

2.戦後における保健・医療サービスの現状

1)保健・医療施設

 イラク戦争による保健・医療施設への被害は大きい。主な原因は無政府状態によるマネージメントの 混乱と略奪である。
 今回訪問した病院においては、略奪の被害は出ていないものの電力不足、酸素および薬剤の入手ルー トの不安定さが大きな問題として挙げられているうえ、湾岸戦争以降の経済制裁にともなう医療機器の 老朽化が目立っていた。アマラにおける総合病院においては、酸素の供給不足により手術が行えず2人の 子供が死亡、また1ベッドを3人の患者で使用している状況であった。
 Public Health Centre(以下PHC)においては、略奪の被害にあったところとなかったところの差が 激しい。PHCは人口1万〜2万に1つの割合で設立されており、主に内科医による簡単な診療・治療・歯科 治療・母子保健(ワクチン接種も含む)・簡単な血液検査および薬剤の処方が行われている。調査時点 においては、1日におよそ100〜 200人のアクセスがあり、スタッフは医師(3人)、看護師(2〜3人)、 歯科医師(1人)、薬剤師(2〜3人)事務員が勤務している。顕微鏡や治療器具の略奪の被害にあったと ころでは、PHCとしての運営危機に見舞われている。また停電による薬の保存管理も困難な状態である。
 薬剤に関しては、薬品はストックされ、街中の薬局においても薬は豊富であったが、輸送に問題があ り、すべての病院、PHCにおいて薬剤不足(特に抗生剤・輸液)の問題が挙がっていた。またディスポー ザブルの手袋やシリンジが不足していることと、医師の清潔操作に対する意識の低さ、あるいは抗生剤 の過剰投与も懸念される。

アマラ 総合病院 幼児用ベッド
アマラ 総合病院 幼児用ベッド

2)スタッフ
 イラクにおける医学教育水準は高く、医療スタッフも十分な人数で運営されていた。しかし、経済制 裁以降の海外の医療情報が入手できないことにより、技術レベルが低下したと考えられる。現時点では、 医療雑誌も少しずつ入手できるようになってきている。しかし一方でスタッフの安全確保と給与の確保 が大きな懸念事項となっており、調査時点では5月の24日にUS$20(戦前は月$100〜500)が支払われ たのみであり、今後の給与保障について、米軍IAC(Iraq Assistance Centre)からの明確な回答は得ら れていない。

3.健康状態

1)総体

 訪問した病院・PHCにおいては、胃回腸炎による下痢・嘔吐・脱水を症状とした消化器疾患が、小児を 中心に急増している。原因は生活飲用水および停電である。特にイラク南部バスラにおいては、生活飲 用水を川から直接使用しており、煮沸消毒は行われていないようである。アルワイル小児病院(バグダ ッド:160床)では、1日500人の外来患者があり、ほとんどが重症な下痢や脱水である。また薬剤不足 により重症化がすすみ、外来・入院患者の5〜10%が死亡に至っている。
 呼吸器感染の危惧も予想されたが、訪問病院では医師からの問題視された意見はないものの、小児病 院においては、酸素治療を受けている小児を何人も見かけた。

バスラ 浄化装置外部 浄化装置内部
バスラ 浄化装置外部 浄化装置内部

2)感染症
 バスラにおいて、ここ数ヶ月以で66ケースのコレラ感染者がでているが、死者はなく、全員が治癒し ている。しかし、生活飲用水および電力不足に加え、夏場における気温の上昇(8月では60度になる)に よりコレラ感染拡大への警戒は必要である。
 アマラの総合病院において、内臓リーシュマニア病(Kal azar)の患者が入院しており、WHOの報告 によると、2003年の4月までにイラク国内でおよそ700の症例が挙げられている。急速な感染拡大は予想 されないものの、サチショウバエを媒体とし5月〜10月にかけて感染するため、その危険性は否定できない。

3)非感染症
 イラクの保健省の報告によると、非感染症としては循環器疾患が死因の第1位とされる。PHCでの説明 によると、戦争および戦後の混乱によるストレスで、症状の悪化が予想されるとのこと。また、糖尿病 患者も多く、インスリンの保存状態についての懸念もある。精神疾患に関しては、戦争に伴うPTSDにつ いてPHCでは、精神保健を取り扱っていないために、回答は得られなかった。

4.まとめ
 今回調査にあたり、イラク国内においては経済制裁による打撃に加え、今回の戦争による混乱が国民 の健康状態に大きな影響を及ぼしていることが分かった。以上の調査に基づき、今後解決される問題点 を以下にまとめる。

優先されるべきニーズ

1.施設およびスタッフのマネージメントの確立
2.生活飲用水および電力不足による消化器疾患および感染拡大の防止
3.薬剤および酸素の輸送供給の安定

今後解決が望まれるニーズ

1.医療スタッフへの教育:先進医療の導入・感染症に関する教育
2.ごみ問題:ごみ収集の確立とごみ分別に対する意識の啓蒙
3.慢性疾患に対する患者教育:医師だけでなく、看護師、薬剤師、栄養士からの多角的な   アプローチを含んだ患者教育の浸透




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