2001年3月、2週間にわたりホンジュラスとボリビアのAMDAプロジェクトを調査するという機会に恵まれました。初めての中南米でしたが、現地に到着すると明るいAMDAスタッフたちに迎えられ、長旅の疲れも忘れてホッと一息つくことができました。
最初に訪れたのは、ホンジュラスです。この国は、1998年10月のハリケーン・ミッチーの大規模な被害を受けました。今もなお、復興作業が町のあちこちで行われていました。AMDAは緊急救援活動に赴き、その後、復興のためにホンジュラス支部を立ち上げ、被災地への移動診療を中心として活動が開始されたのです。現在は、主にトロヘスとテグシガルパ市近郊地域で、国際機関との協力やAMDAペルー支部・ボリビア支部との連携を図りながらァ草の根無償資金とNGO事業補助金などにより運営実施されています。
(右から5人目 筆者)
近年、首都テグシガルパなどの都市部においてHIV/AIDS感染者増加が大きな問題となっています。カトリック教徒が9割程度を占めるこの国では、女性の地位が低いことと相まってコンドームの普及は遅れており、また配布数も非常に限られたものにすぎないようです。現在まで、ヘルスセンターで働く医療スタッフをファシリテーターとして、ヘルスボランティアに実
施してきたHIV/AIDS研修ではありましたが、講師が知識を教えるという旧態然の指導を実施していました。そのため、ヘルスボランティアが子供達へ教育を実施するにはあまりにも難しく、その方法には大きな問題があったのです。
その解決策として2001年3月3日〜3月8日の期間、首都テグシガルパで活動する100名以上のヘルスボランティア等が、AMDAペルー支部2名の講師による住民参加型のHIV/AIDS研修を受講したのです。その結果、受講者の皆さんから「今まで受講したような、他の堅苦しい講義と違っている」との声が上がりました。そして、「自分たちが楽しんで受講できたので、きっと子どもたちも楽しめるはず」と話してくれました。
早速、一人の(ゴッド・かーちゃんのような)ヘルスボランティアが、
今回の研修で習った事を応用して初めての教室を開くと聞きました。
自分の家を解放し15人くらいの子どもたちにHIV/AIDSの勉強(遊
び)をしてもらうのですが、その中には不良グループの数人も混じっているようです。普通の子どもと一緒に受けることで、良い方向に影響されると期
待できるからです。「研修では、楽しく明るい気持ちで遊びながら実施する事
を学んだので、そのまま自分たちが楽しかったことを子ども達に伝えたい」
「文字の書けない子どもにも、退屈させることなくできる」と準備に忙しそ
うでした。今やっと、始まったばかりです。けれど、一人のヘルスボランテ
ィアから、多くの子どもたちへとその心と命がつながれていくのです。
都市部近郊の貧困地域では、主に9歳から20歳までの少年たちが、ケンカや拳銃の発砲、麻薬売買、女性のレイプなどの社会問題を起こしている現状があります。日本では考えにくいことですが、この現実と医療スタッフやボランティアたちは正面から向き合っているのです。巡回診療に出かけたときに拳銃を突きつけられたが、そのグループの一人がヘルスセンターに受診に来たことがあり、とにかく殺されずにすんだ話など、この地での活動が命懸けであることを知りました。そして大規模な災害後の復興期、国内の経済状態は最悪だと言えます。このような特殊な社会状況を考慮し、貧困や都市問題も視野に入れた幅広い医療支援が必要とされていると思いました。
次に訪れたのはボリビアです。ボリビア国内で標高の低い都市サンタクルスは、暑くても爽やかな気候でした。ボリビア支部では、救急患者の搬送と蘇生法などの研修(PHTLS)をアメリカからの講師を招いて実施されました。この研修は、あくまでも実践が中心となるため、講師も参加者も汗をかきながら激しい運動をこなしているというハードなものです。一人一人が、実際に車の中で交通事故に遭った人を救助するという体験をします。これは、本当に現場で生かせるトレーニングだと感心しました。
緊急時に現場に一番に駆けつけるのは、多くの場合消防隊員であったり、
一般の市民だったりします。そのような人々に救急外傷の知識と実践力が広
がる点で、この研修は非常に貢献できると思いました。この研修の意義は大
きく、ボリビアの救急医療向上と民間の緊急搬送者のレベルアップに貢献することが期待されます。しかし、緊急に解決すべき医療や社会問題が多く存在しているのも、またこの国の現実です。経済格差が激しく、村や山間部で
貧しい生活を強いられている人々は、教育も医療も受けられずにいるので
す。今後はこのような研修を広く一般の人々へ広げていくことと同時に、地域での健康問題にも取り組んでいくことが重要な課題であると思いました。
今すぐにできることではありませんが、ゆっくりとAMDAにできる範囲の中で心を痛めたり、限界に挑戦したりすることが大切なのかもしれません。
最後になりましたが、この誌上をお借りして一言。岡山本部で毎日、目に見えない現場と格闘されている事務局の皆さん、ちゃんとみんな見ていますよ、知っていますよ。そして、皆さんのことを応援している人はたくさんいます。どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。そして、現地で努力しているスタッフの皆さんお疲れさまです。日曜日くらいは、ちゃんとお休みをとり自分の時間も作ってくださいね。日本にいると今まで見えなかったものが、また見えてきたりする今日この頃です。
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