緊急救援活動

ハリケーン・カトリーナ緊急支援事業報告
柳田 展秀・藤田 真紀子
AMDA Journal 2005年 11月号より掲載

1. 事業地域:
@テキサス州ヒューストン市内各避難所
AThe Salvation Army1運営避難所(アフリカ系アメリカ人)
BVietnamese Dominican Sisters Mis sion2運営避難所(ベトナム系移民)
CVietnam Buddhist Center3運営避難 所(ベトナム系移民)

1 The Salvation Army=世界109か国で伝道事業 社会福祉事業、教育事業、医療事業を推進する キリスト教(プロテスタント)団体。1947年に は国際連合社会経済理事会(ECOSOC)から特 別 協議資格を授与された国連NGO。
2 Vietnamese Dominican Sisters=ヒューストン 市内にあるベトナム系キリスト教会
3 Vietnam Buddhist Center=ヒュースト ン市郊 外のシュガーランドにあるベ トナム仏教会

2. 報告者:
  柳田展秀・藤田真紀子

3. 報告期間:
2005年9月6日  から同年9月17日
4. 事業地の背景

(ア)被災概要
 被災地概要アメリカ南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」は、ルイジアナ州・アラバマ州・ミ シシッピ州など南部地域を中心に死者数千名、一時避難100万人、死者1,200人とも言われるアメリ カ至上最悪の自然災害となった。AMDAが調査・支援先として決定したテキサス州では、避難民全体 の約25%にあたる約24万人を州内各地に受入れ、9月3日以降大規模な被災者受入プログラムを実施 した。ヒューストン市内には被災者の受け入れ先として、リライアントパーク・リライアントアリ ーナ・アストロドーム、そしてダウンタウンに位置するジョージ・ブラウン・コンベンションセン ターなど市内数箇所に受け入れ先を準備、Federal Emergency Management Agency(連邦危機管理 庁「以後 FEMA」)の管轄下で州政府・地元/国内NGOなどとの連携の下、被災者支援事業を開始した 。FEMAを中心とする米国各機関は、被害の発生した8月28日から数日遅れ、ニューオリンズ市内から 逃げ遅れた被災者の大規模な被災者搬送計画を打ち出し§9月3日までに数万人規模の搬送を実施した。
大規模避難所
(イ)事業概要
 AMDA本部では、9月2日、AMDAカナダ支部からの派遣要請を受け、被災地/避難所調査及び支援事業 開始準備のため、本部から職員2名の派遣を決定した。  ハリケーン「カトリーナ」の影響で都市機能が麻痺したニューオリンズ市では、9月3日より本格 的な搬送計画を実施、約100万人が一時州内外への避難へと加速していった。AMDAでは、もっとも多 くの被災者を抱えるテキサス州に仮事務所を構え、以下の活動を通して支援の可能性を探ることと した。
 @災害弱者の掘り起こしと、支援計画の策定・実施、A大規模避難所の状況調査、B小規模避難 所の状況調査、C大規模都市型災害に対する備え、米国広域防災計画の調査。
5. 行政及び地元民間機関の支援活動
 9月6日、調査員2名を本部から派遣、更にAMDAカナダ支部・在米AMDA 登録医師の計4名での調査を 進めた結果、以下の状況が浮かび上がった。
(ア)行政機関・民間機関との円滑な連携
 発災後、2週間ほど過ぎた現在(9月14日頃)、避難所のあるヒューストンでは、すでに住宅支援 や移住にともなう行政支援が活発に開始されている。これは2週間の間にすでに復興ステージに入っ ていることを示しており、今後は比較的中長期的な視点から援助方法を模索する必要がある。現在 ヒューストン市では下記の被災者支援プログラムが開始されている。
@住宅支援プログラム
 民間・行政の共同事業として行なわれる被災者支援事業の一つ。すでに一般家庭への滞在や住居 の斡旋などを開始し、比較的早い段階での大規模避難所の封鎖が見込まれている。サルベーション アーミーも事業の一翼を担っている。
A医療支援プログラム
 市内大規模避難所では、米国赤十字、地元大学病院などの医療センター運営により、ほぼ充足し た人員体制で被災者支援が行なわれている。また、避難民登録終了後、一定期間内(期間不明)は 公立病院で受診できるため、避難所以外の地域での生活再開を容易にしている。
小規模避難所
(イ)宗教団体の独自の支援活動
 市内のカトリック系教会を中心として、被災者への温かい食事の提供が連日行なわれている。日 本では布教活動と取られがちだが、アメリカならではの民間主導型支援の一つとして大きな成果を あげている。大規模避難所からも連日バスに送迎バスを運行し、被災者の精神的サポートとしても 重要な位置を占めている。
@ベトナミーズ・ドミニカン・シスターズ(ベトナム系キリスト教会)
 AMDAでは9月6日以降、大規模避難所の調査を行う一方で、市内に点在する宗教系団体の支援につ いても調査を進めた。同教会では、ルイジアナ州在住のベトナム系移民を中心としたアジア系住民 に避難所として教会の一部を開放し、累計で300人にのぼる被災者を受け入れていた。主に食事、生 活物資、住居斡旋、医療施設及び子供たちの学校斡旋などを提供していた。
 教会に身を寄せている被災者は、ニューオリンズから南西メキシコ湾岸沿いの入り江や沼地地域 に在住していたベトナム系漁師及び水産関係者で、今回のハリケーンによりほとんどの被災者が家 や船をなくし、今後の生活復興にはまったく目処は立っていない。
 またその半数は、家や船に保険をかけておらず、財産と職を一度に無くし、英語も片言しかわか らないため、今回の救援に関する情報も伝わらず、路頭に迷っていたという人々が多く見られた。 彼らのほとんどが、もともとベトナム人コミュニティーの中で生きている人々であるためか、白人 ・黒人の多い避難所から、この避難所へ移動してきている。しかしこの施設は、他のアメリカ白人 や黒人の避難民が多い避難所と比較し、寄付やボランティアに乏しく、決して生活が楽になったと いうわけではない。ボランティアもほとんどいないため、教会のシスター達の献身的な援助貢献に 頼っている状態である。いくつかの避難所を調査したが、同じテキサスのヒューストンの中でも、 それぞれに支援や寄付、援助が違うことが理解できる。またアメリカ社会の中で民族的に少数派で あるベトナム人被災者、そして特に英語がうまく話せない人々、家や財産に保険をかけていなかっ た人々の悲壮感は、より一層深刻な問題として受け止める必要がある。
Aベトナム・ブディスト・センター(ベトナム仏教寺院)
 同寺院でも主にベトナム人系被災者の受け入れを行っている。避難所には最大で130人ほどを受 け入れていたが、内50人はアジア系コミュニティーの支援により早期に移動し、現在は70人が避難 生活を送っている。ここの被災者も同じく漁業を生業にしていた人々が多く、前述した教会の被災 者と同様の困難が見受けられた。
 この寺院では英語の話せるボランティアが少なく、FEMAとの連携が円滑に行われておらず、生活 物資等の受け取りや、各種被災者支援の情報も他に比べ遅れを取っている。地域のサポートにより 、食料などは充足していたが、生活復興後の物資などが不足しているとの報告を受けた。
(ウ)市民の救援参画
支援金贈呈
 市内の避難所では、FEMAの統括の下、災害ボランティアセンターが設置され、20日の大規模避難 所閉鎖までの間、約60,000人に昇るボランティアが参加した。ボランティア登録には、一般ボラン ティアと医療ボランティアの 2種類があり、医療職の救援参加が比較的簡単に行なわれている。そ の為医療専門の民間組織として参画するよりも、公的プロセスの中に民間組織が介入することのほ うが、全体的な事業運営の観点からも重要であると推測できる。
 また今回のハリケーン被害では、食事券の配布や医療マネージメントを、国内NGOや地方行政に委 譲することにより、より細やかなサービスの提供が勧められ、更に政府の過剰な負担を避ける結果 となっている。
 これらのことに共通していることは、官民の連携が強固であること。今回のハリケーン被害では 、一時政府の支援体制の遅ればかりが報道されていたが、その陰に隠れ、地域や宗教、そして民間 団体などが独自の支援を行った結果、比較的早期の復興が実現していると思われる。またこれら民 間団体に行政サービスの一部を移譲し、更にそれを政府が資金面でサポートすることにより、本来 外部からの支援が必要な分野を国民全体で補完できる体制となっている。
6. AMDA支援内容
 AMDAでは、これらの状況を踏まえ、現地協力機関であるサルベーションアーミーを通じて、義援 金支援を決定、また被災者支援を行う宗教組織及び民間団体などへも、生活復興を主眼とした義援 金及び生活支援物資の贈呈・配布を実施した。
(ア) サルベーションアーミー運営避難所
 AMDAでは、ルイジアナ州からの主にアフリカ系アメリカ人(避難民)を収容しているサルベーシ ョンアーミーに対し、当面の被災者支援の費用として、9月13日、10,000ドルの義援金を贈呈した 。サルベーションアーミーでは、引き続き被災者の仮住居を提供すると共に、テキサス州内への居 住を希望する被災者に対しては、永続的に住むことの出来るアパートなどの斡旋を行っていくとの ことである。
(イ)ベトナミーズ・ドミニカン・シスターズ運営避難所
 少数派のアジア系住民に支援を続ける同教会に対し、被災者支援を目的とした義援金5,000ドル と、絆創膏・マスク・衣類などの生活支援物資の供与を行った。教会では、早期に被災者が社会復 帰できるよう、資金面でもサポートする計画で、すでに新住居の敷金や一部ルイジアナに帰還する 住民に対する資金などの貸し出しも行っている。
(ウ)ベトナム仏教会
 主に大規模避難所にアフリカ系アメリカ人が多くみられた理由としては、 その生活習慣の違いがもっとも大きいと考えられた。それは言葉であり食生活であり、さまざまな 点において配慮する必要がある。実際に今回のハリケーンにおいても、アジア系住民はそれぞれの コミュニティーを作り上げ、不便を承知の上で、生活している。同じく支援要請を受けた同仏教会 でも状況は同様であったため、彼らの今後の生活再建に重要な資材として、炊飯器など長期的かつ 必需品である生活支援物資を提供した。
7. 今後の支援について
 8月29日の被災から約3週間が過ぎた9月22日には、ヒューストン市内の大規模避難所はすべて閉 鎖となった。一部報道では初動の遅れを非難する声もあがった今回の災害だが、その後の「官」「 民」一体の支援活動には驚きを隠せない。
 しかしながらニューオリンズ全体の被災状況から推測すると、今後数ヶ月間は家屋やインフラの 再建、また住民に対する防災意識の向上、避難案内など、その多くを見直す必要があることも忘れ てはいけない。今回支援を決定したベトナム系移民の人々も徐々に故郷ルイジアナ州に帰り、普段 の生活が取り戻せるよう、一からの再出発が始まっている。
 今回の支援事業に参加、現在ルイジアナ州に滞在している保志門澄江看護師より、10月2日、被 災地となったニューオリンズ市では、町の清掃作業などが急ピッチで行われているものの清掃用 具などの不足が目立つ、との報告を受けている。AMDAでは、引き続き帰郷したベトナム系移民への 調査を継続し、生活再建のための清掃用具当等の支援を検討している。



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