緊急救援活動

イラン南東部大地震緊急救援速報
      AMDA Journal 2004年2月号より掲載

 イラン南東部ケルマン州バム付近で、2003年12月26日(金) 午前5時半頃(日本時間同日午前11時頃)発生した 地震により、死者は住民の3分の1にあたる4万人を超えるとい われている。AMDA(岡山市)医療救援チームは、 28日エミレーツ航空(EK)317便にて、関西空港からイラ ンの首都テヘランへ向け出発。テヘランには29日午前9時 35分(現地時間)に到着。             

 派遣者3名は、テヘランにて、イラン現地関係者および イラン政府等と協議し、イラン南東部バムへ向かい、AMDAパキ スタンクエッタ事務所へ出張中の小西司緊急救 援事業部長と合流した後、医療救援活動を開始した。  

日本からの派遣者
 佐伯美苗 (さえき みな)
    緊急救援事業部(調整員)  34歳 岡山市在住
 細村幹夫 (ほそむら みきお)
    AMDA登録医師         38歳 埼玉県在住
 古村由香 (こむら ゆか)
    AMDA登録看護師       40歳 神奈川県在住

AMDAパキスタン·クエッタ事務所より現地合流
 小西 司 (こにし つかさ)
    緊急救援事業部長(調整員) 40歳 パキスタン出張中

被災地での活動

AMDA医療救援チームは、在イラン日本大使館、イラン 国内務省など各関係省庁および関係機関を訪問し、地震後 の状況調査、今後の活動内容等を協議した。地震発生後4 日が過ぎても、イラン国内は騒然としており、首都テヘラ ンにおいても情報は錯綜しているため、活動については慎 重に検討していく必要があった。また、パキスタン・ク エッタ事務所から被災地に向け出発した小西 司緊急救援事業 部長も、28日ケルマン州に到着、被災地バムの周辺地域で の被害状況の調査を開始した。被災地で必要とされる支援 を慎重に検討し、最も被害の大きかったケルマン州バム市周辺で の支援の可能性を探り、活動を開始することを決定。

テヘランにて各関係機関との調整を進めてきたAMDA 医療救援チームは現地女性麻酔科医:ザーラ・シャヒーデ ィー(Zahra > SHAHEEDI)医師とテヘランで合流し、31日(水)現地時間10 時(日本時間15時半)IR472便にてケル マンに向け出発。ケルマン空港到着後、州保健科学局との 協議に入り直接の医療活動実施に向け調整を進めた。一方、小 西 司緊急救援事業部長は、現地スタッフと共に医 療物資(粉ミルク10箱、ビタミンC剤200錠、飲料水10本)を被 災地で活動している赤新月社の仮設診療テントへ 寄贈した。

被害の大半がバムの町で、多くの家屋が、日干しレンガ 造りの建物に鉄骨の梁(はり)を利用しており、壁が分厚 いうえ屋根がアーチ型で重く、さらに各家屋の周りが高い 塀で囲まれているために、倒壊時にそれらが重層した事が 多くの犠牲者を出した原因となっていた。またバム市内に ある市立イマムホメイニ病院は倒壊こそ免れたものの、塀 は倒れ、瓦礫に囲まれ、入り口には崩れたベッドや治療台 が通りまで積み出されていた。このような状況でも同病院 では、手当てを受ける患者やその家族でごった返していた。同 市立病院のスタッフは「骨折の応急処置ができる医 師が足りない。また女性医師も不足している」と訴えていた。

30日夜、AMDAインドネシア支部よりインドネシア国籍医師1 名(Dr.Idrus Paturusi:整形外科医)が、さらに31日、AMDAインドネシア支 部の医師2名(Dr.Alamsyah:麻酔外科医 、Dr.Nuralim:胸部外科医)がイランへ向け出発し、医療支援を開 始した。        

31日午後、ケルマン州保健科学局からケルマン州立総合 病院での活動協力を依頼された。同病院に到着後、直ちに ICU病棟にて医療支援を実施した。同病院には被災地から 多くの重症患者が搬送されているが、ほとんどは倒壊物に よって胸部を強打していた。麻酔科医のシャヒーディー医 師と呼吸器科の細村医師の来訪は、病院職員に大歓迎され た。例えば、バム市内で発見され、空港からヘリコプター で搬送された45歳の女性は、一刻の猶予もならない差し迫 った状態にあったが、細村・シャヒーディー両医師、古村 看護師の気管内挿管などの処置により、迅速に呼吸を改善 した。更に、一般病棟でも、細村医師の診察と古村看護師 の処置により、重症患者に対し適切な治療を行うことがで きた。     

2004年1月1日より、AMDA医療救援チームは被災地バ ムを訪れて、地震発生から1週間を経た医療状況の調査後、 本格的に被災者に必要な治療を実施した。

ケルマンからバムへ通じる幹線道路はほとんど被害が及 んでおらず、救援物資などの輸送は順調に進んでいるよう に思える。また周辺の集落にほとんど被害は見受けられず、今 回の地震がいかに局地的な大被害をもたらしたかを 物語っていた。

AMDA医療救援チームはバム到着直後から、バスを使った車輛 内での診療を実施した。受診に集まった患者や付添 い家族、周辺地区の生活状況から推測すると、地震による 外傷的被災者に加え、被災後の衛生・生活環境の悪化から 健康状態に影響が出はじめていること、また比較的軽度な 外傷にもかかわらず、数日間放置されていたために傷口が 悪化している症例が目立っていた。引き続きバム周辺での 巡回診療とケルマン州立総合病院での重症・救急患者への 医療活動を継続。

AMDAチームはバム市北部、さらにバラヴァド南部の住 宅街でも拠点を設け診療を実施。診察していると、車やバイク を停めて診察を受けに来る人々、付近の テントに患者がいることを知らせに来る人々が詰め掛けた。受 診者の中には、被災時の負傷だけでなく 慢性的な疾患をかかえ、テントでの生活によって症状を悪化さ せていたり、ほこりや乾燥による咳、の どの痛み、扁桃腺の腫れ、発熱、下痢、気管支炎といった症例 なども見られた。これらの患者は、病院 が遠いなどの理由でケガを放置、あるいは病院が混雑していて 十分な手当を受けられず悪化したものと 思われた。また、家族や近所の人たちの救助活動のために、自 身の打撲や脱臼を放置していた人も数人 いた。被災直後に頭皮や足などの縫合手術を受けていた患者は 、その後放置されていたため化膿が進行 していた。被災後1週間を経て救急救命の時期を過ぎたとはい え、厳しい寒さの中長引くテント生活から生じ る困難やストレスが健康に影響し始めている。

6日、バムの旧市街では病院施設も復旧しはじめている ようだが、病院での応急処置のあとに継続して治療を受け られなかった被災者、ほこりや乾燥のために呼吸器をいた めたり、疲れなどから風邪をひいた被災者などが目立った。

町の中心部に近く、もとは住宅街であったこの地区は、 市の北辺部と比べるとがれきが多く、その密集度が高いた め、かなり埃っぽいと思われた。被災者用テントの密集度 も高いため、助け合って暮らすことができ、配給を受けや すい利点はあるが、他方、このように怪我や疾病を放置し ている被災者の多いことが懸念される。

7日、ほぼバム市内をひととおり巡回した。地域により、 日により受診者の特徴はやや差異がみられるが、共通して いえるのは、やはり厳しいテント生活の疲れ、震災後の怪 我や病気の悪化である。地元病院の機能回復は進んでいる 模様だが、病院で手当を受けないまま、または受けられな いままの住民はまだ多い。

11日、これまで継続してきた巡回診療活動は、病院での 手当が受けられなかった被災者に対する医療サービスの提 供として一応の成果をあげることができ、地元医療機関の 機能復旧、赤新月社などイラン国内の諸機関のサービスが 徐々に復旧し始めていることなどからひきあげを決定した。開 始当初、呆然としていた被災者の表情は、この2、3 日間でわずかに変化を見せ始めている。家財道具を積んで 他の町に移る家族、再度がれきの片付けにかかる人たちと いった光景が見られるようになり、被災者たちの復興への 意思が窺えるようになってきた。

最終日となった11日は、これまで診察した患者の状態確 認を中心に診療を行った。

なお、AMDAインドネシア支部の3名の医師は引き続き 活動を行う。

バム市内外での巡回診療を11日に終え、イラン政府内務 省に、また翌12日にイラン政府保健科学省ケルマン事務所 に活動報告を行なうとともに、バムでの医療活動のために 汎用性の高い医薬品、医療器材などを現地医療機関などに 寄贈した。

日本からの派遣の3名はケルマンを13日深夜に出発、同 日午前3時ごろテヘランに到着した。テヘランにて、在イ ラン日本大使館ほか関係機関に活動報告と協力御礼を兼ね た訪問を行ない、今後のイラン国内での協力体制のあり方 について協議を行なった後、14日午前11時5分にEK972便にてテ ヘランを出発し、翌15日、関西国際空港に到着した。

岡山県救援物資備蓄センターの救援物資を
イランの被災地バムへ

AMDAはイランイスラム共和国大使館(東京渋谷区広尾) を訪問し12月30日午前10時よりアボルガセメ アルデカニ公使と今後の救援オペレーションなどについて協議 した。AMDAは岡山県の石井正弘知事が、イラン地震被災者のために救 援活動を始めたAMDAと連携して、岡山県救援物 資備蓄センターの救援物資を提供する意向をもっているこ とを伝えた。これを受けて、アルデカニ公使は、「ハタミ 大統領も申し上げた通り、被災地の被害は極めて甚大であ り、特にバムは古都であり、ひとたまりもなかった。国連、 各国、国際機関、NGO各方面からも救援を頂いているが、 まだまだ援助が必要である。」と強調し、このたびの申し 出に対する謝意を述べられた。岡山県救援物資備蓄センタ ーに保管されている救援物資については、イラン大使館と の連携協力のもと、一刻も早く現地の被災者の方々に確実 に届くように図ってゆくことを確認した。また、大使館か らは、バム周辺での救援活動に必要とされる現地の地勢、 行政等の情報提供等を受けることとなった。
 AMDAで は直ちに、この協議の結果を岡山県国際課に報 告、早急に援助物資の提供を県に申し出た。12月31日午前10時 半より岡山空港内救援物資備蓄センターにて、岡山 県石井知事より救援物資の目録をいただき、救援物資を積 み込む作業を行った。こうして岡山空港の救援物資備蓄セ ンターより救援物資をイランへ輸送するため、救援物資が 陸路、岡山空港から成田空港へ向け出発した。

岡山県の救援物資備蓄センターへ物資を送っていただい た皆様ありがとうございました。




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