緊急救援活動

スリランカ南部洪水緊急救援報告

(派遣者の活動日誌より抜粋)
AMDA Journal 2003年 7月号より掲載

スリランカは、過去20余年にわたるシンハラ人とタミル人との対立により、200万人を超えると いわれる人々の生活を脅かされてきたが、スリランカ南部洪水緊急救援活動では、タミル人と シンハラ人が合同で緊急救援チームを構成し活動することで、医療和平のコンセプトに基づいた 意義のある活動を目指した。今回のスリランカ南部を襲った豪雨による死者は少なくとも260以上 のぼり、行方不明者約200人、自宅から避難している住民は約10万人に達した。AMDA医療和平 プロジェクトチームはスリランカ政府保健省の要請に応じ、セイントジョンアンビュランスと 緊急救援チームを構成した。5 月19日夜AMDAスリランカ支部に所属する医師、調整員(PBPより派遣) を含む1次隊がコロンボを出発し、20日朝、山根達郎調整員(先月よりPBPに調整員として派遣)を はじめとする2次隊はゴール・マータラでAMDA支部チームと合流。
 最も被害が大きいとされる南西部地域のバデガマ(BADDEGAMA)、ウドゥガマ(UDUGAMA)、 ヒニドゥマ(HINIDUMA)、ネルワ(NELUWA)、コタポラ(KOTAPOLA)、アクレサ(AKURESA)にて 救援活動をはじめる。避難民が最も必要としている飲料水、医薬品、栄養食品を供給するため、 水タンク、ガスコンロ、医薬品2週間分、仮テント等を供給した。


現地時間20日、AMDA・スリランカ医療和平プロジェクト濱田祐子現地統括(愛媛県出身・今年2月に 派遣)が南部出身労働省大臣サマシンガ氏と単独で行った会談で得られた情報によると、下流地域では 道路が浸水し、交通が完全に麻痺しているため、救援物資を運搬するためのボートが必須であるという。 これをうけ、PBPチームは、敵対するタミル人とシンハラ人から成る緊急救援チームの3次隊をすでに 被災地に派遣し、続いて4次隊として冨田彩香調整員(岡山市出身・今年3月に派遣)、竹内理恵 レントゲン技師(愛知県出身・5月15日派遣)をAMDAスリランカ支部のカル医師と共に南部の被災地へ 派遣した。一行は21日朝より、カルタラ(KALUTARA)にてエンジンつきボートを3台確保し、 ラトナプラ周辺をはじめとする浸水地域に対し、ボートにより医薬品、物資等を提供した。 山根達朗調整員をはじめとする2次隊、ならびに、医薬品を補充するために現地入りした3次隊は、 ネルワ(Nelluwa)にて巡回診療、飲み水、テント供給等の緊急救援活動を展開した。


現地時間20〜21日、スリランカ南部地域洪水において、AMDAスリランカ医療和平プロジェクトチームは、 2次隊および3次隊(敵対するタミール人とシンハラ人から構成される緊急救援チーム)を、被害の大きい Galle地区のネルワ(Nelluwa)、ヒヌドゥマ(Hiniduma)近郊に派遣し、緊急救援活動を行った。 チーム到着時には道路の水はほぼひいていたものの、道中は険しく、未だ電気の供給等ライフラインが 寸断されている場所がほとんどであった。奥地にあたるネルワでは、AMDAの医薬品提供が初めてという 状況で、地元の医療関係者に大歓迎された。

4次隊の冨田彩香調整員および竹内理恵レントゲン技師は、被災地のカルタラにおいて21日、 サマルシンガ労働大臣の要請に基づき、緊急物資配給のためのボートを3台カルタラ地域緊急救援委員会 に提供した。また、健康科学国立研究所において、同研究所副部長サラ氏とともに当面の援助活動に ついて意見交換を行った後、西部地域開発省のチャンドナ氏とも会談し、カルタラの被害状況について 説明を受けた。同日午後からは、ネルワから駆けつけた2次隊および3次隊と合流し、緊急物資配給用 ボートにて現地視察を行った。カルタラにおけるボート視察をおこなった冨田調整員らによれば、 水面は3.6m上昇した状況で、家屋のみならず生活基盤である田畑も完全に水没している様子で、 今後の生活への影響が懸念される。地元医師との協議で得た情報によれば、今後は、水はひいても、 感染症の被害等も予想されることから、さらなる医薬品の提供およびその保存のためのクーラーボックス 等の提供、また、下痢の症状に対する対策が必要であると考えられ、AMDAではこれらの対策準備を すすめている。


現地時間23日、スリランカ南部地域洪水に関し、AMDAスリランカ医療和平プロジェクトチームの 山根調整員およびスリーニ秘書が、海岸部では最も被害の大きいカルタラ(Kalutara)にて、 医薬品の供給および井戸で使用する排水ポンプの利用の可能性に関する調査等を行った。 医薬品については、AMDA姉妹組織セイントジョンアンビュランスチームおよび健康科学国立研究所の 診療活動に提供した(24日には、寺垣調整員、山根調整員および井上看護師が同活動の巡回診療に 参加)。

健康科学国立研究所ではアムルガマ医師、ピエシリ医師、シルバ医師と今後の医薬品の利用方法、 および井戸水の吸い上げに関する会談を行った。その後、ピエシリ医師が先導する形で、水没被害地域 へ移動、井戸の調査にあたった。21日にボートで移動した田園地帯は、大分水がひいていたが、 まだ一見したところ川のように見えた。水際はひどい悪臭であった。家庭の井戸をいくつか見たが、 水没していたところでは泥水がたまり、使えないところばかりであった。700世帯ほどあるこの集落 では、飲み水をはじめとする生活用水は井戸に頼りきりであるため、一刻も早い解決が望まれる。 AMDAとしては、この要望に応え、24日に排水ポンプを持参し、排水活動にあたる構えである。

なお、ピエシリ医師およびアマルガマ医師の話では、井戸水の浄水にためには、TCL、クロロキン等 の投与が効果的であると述べ、今後予想される不足分の補填の必要性を述べていた(同薬品は、 1コンテイナー、35キロ分で、2000ルピー程)。なお、21日よりAMDAの出資により、緊急物資配給用 モーターボートの利用が可能となっていることに関し、その費用にあてるチェックの授与を、山根より シリワルデナ・カルタラ地区長官に手交した。

他方、同日、ニティ、浜田両調整員は第2次隊、3次隊が巡回診療を行い450人を診療したネルワ (Nelluwa)に再度訪問した。そこでは前回の訪問で地元医師等に求められていたワクチンや医薬品を 保存するためのクーラーボックスを保健所に寄贈。また、洪水で住居を失い、小学校や寺院に避難 している250家族を中心に栄養食品を配給した。現地では復旧作業に取り掛かる人を多数見かけたが、 印象的であったのが、我々が栄養給食を配給するために訪れたある家族のことである。彼等は全壊した 家の横で失望し、呆然と立ち尽くしていた。そこに住み続けてきた主婦は、「家が鉄砲水で流され、 親類も何人か失った。洪水のショックで寝たきりのままの老齢な両親と二人の子供を抱えている。 これからどうしたらいいか。」と涙ながらに我々に語った。また、口唇口蓋裂の子供を抱えたタミル人 の母親にも遭遇した。4歳になる子供は、栄養食品を手渡しても顔を上げようとしない。その母と子は 洪水で住むところをなくし、親戚がいるネルワに来たという。彼等は茶畑で働いているタミル人の家族 だそうだ。イギリスがスリランカの植民地支配を行っていた期間に、紅茶やコーヒーのプランテーション 労働者としてスリランカ中央部の高地地帯に移住させられたタミル人の末裔だという。これを受けて、 スタッフのひとりが驚きの声をあげた。「彼女はタミル語を話す」。

こう述べたニティ調整員はスリランカ北部のジャフナ出身のタミル人である。今回の緊急救援活動で はタミル人シンハラ人が合同で緊急救援チームを構成している。過去の民族対立により親戚、知人らが 殺害された悲しい過去があるが、我々のスタッフの中でも何かが加速した。それは、今回のスリランカ での洪水被害に対する支援が民族の垣根を越えて必要であるという実感である。帰りの巡回診療車の中 でニティ調整員が言った言葉が印象的だった。「タミル人もシンハラ人もイスラムの人も、苦しんで いる人は誰も同じだ。」我々の仕事は、医療で困った人を助けることだけではない。AMDAの活動PBP には、医療を通じて民族の対立を解消すること、和平に向けたもっと大きな意義がある。


現地時間24日、スリランカ南部地域洪水に関し、AMDAスリランカ医療和平プロジェクトチームの 寺垣調査員、井上看護師および山根調整員が、海岸部では最も被害の大きいカルタラ(Kalutara) にて、(AMDA支部のサマラゲ医師等の強い要請を受けて)AMDA側が提供した医薬品を利用している チーム(AMDA姉妹組織セイントジョンアンビュランスチームおよび健康科学国立研究所)に合流して 巡回診療に参加した。なお、ヴァヴニア(Vavuniya)巡回診療チームに属するクマール運転手 (タミル系)も積極的に診療行為を支援した。

巡回診療には4サイト選定しており、総勢20名以上の医師、看護師、薬剤師、PHIが参加していた。 我々はソトガムアス医師(マトガマ地区病院)とジャヤスリヤ医師(健康科学国立研究所)の2チーム に同行した。各サイトでは洪水以後初めての診療であったが、患者の特徴はせき、発熱、怪我など、 通常の巡回診療で対応されるものが多く、特に洪水による影響があるとは思われなかった。

今回は自衛隊さんのテントをお借りしての訓練でした 妊婦の体について説明

1. ワラカゴダ(Warakagoda)
カルタラ南部にある健康科学国立研究所より25キロメートルほど内陸に位置する村。普段も同研究所 の医師らが中心となって村の寺院を利用して巡回診療を行っているが、本件洪水以後は初めて。 100名ほど集まった会場では、冒頭、ソトガムアス医師らによりAMDAの医薬品提供により洪水以後の 活動が可能となっていることへの説明がなされ、その後、寺垣調整員と井上看護師が参加して 同サイトでの診療が始まった。診療手順としては、最初に医師が診察、その後薬剤師が薬を提供する といったもので、多数の患者を誘導するなどの調整は普段は行われていないものと思われた。 井上看護師は率先して血圧等の検査にあたり、また寺垣調整員も積極的に調整を行った。また、 診療終了時には両名とも、各患者に渡す薬の袋詰めを支援していた。結果、156名の患者をみることが できた。

2.ジャイアカバナゴダ(Jhaia Kavanagoda)
ワラカゴダより1キロほどはなれた場所にある村。人口500名程度。カル川に近い。ここでは 山根調整員が巡回診療に関与した。同村では普段は巡回診療は行われてはいないが、保健省による 事前の呼びかけ、および洪水以後の生活の注意点を記載したビラの配布により、アドホックな 洪水緊急巡回診療が実施された。ここでもAMDAによる支援の説明がソトガムアス医師によって行われた。 54名の患者が受診。診療途中、コロンボより到着した支援物資の配給も合わせて行われていた。

いずれのサイトもシリアスな患者はなく、また洪水による深刻な影響を受けた者は限られていると 思われるため、これ以上の洪水対策としての巡回診療支援はAMDAとしては必要があるかどうかに疑問が 残った。バブニヤで勤務する寺垣調整員および井上看護師によれば、診療場所の良さ、病院への アクセスの良さ、深刻な患者が巡回診療でいないことなどへの指摘があった。他方、医療チーム側から は、更なる医薬品の提供依頼があったが、実際にパラセチモール、ペニシリンなどの強い解熱作用を 促す薬品を老若にかかわらず提供していることなども鑑み、その対応の必要性にも疑問が残った。 なお、井上看護師よりは、手袋の不在、トレーなどの物品などの未消毒、など基本的な医療行為への 疑問が提示された。


現地時間26日、スリランカ南部地域洪水に関し、AMDAスリランカ医療和平プロジェクト チームの山中現地職員および山根調整員が、海岸部では最も被害の大きいカルタラ(Kalutara)にて、 AMDA側が提供した医薬品を利用しているチーム(AMDA姉妹組織セイントジョンアンビュランスチーム および健康科学国立研究所)とともに、井戸水の排水作業(井戸水の排水の必要性に鑑み、 PBPは先週末より燃料型排水ポンプの準備を進めていた。)および(同研究所の求めに応じ) TCL(水質を高める漂白剤)150キロ分(ひとつの井戸に対して500グラムの分量を投与)の提供 にあたった。

両名はカルタラに到着後、シルバ健康科学国立研究所所長に対し、同研究所への本件洪水復旧を目的 としたAMDA側貸与の排水ポンプの伝達式、および了解覚書の調印を行った。その後、同研究所の ピエシリ医師およびジャワルデナPHI統括とともに、カルタラより40分ほど離れたレムンナゴダに急行、 排水ポンプの使用にあたった。ピエシリ医師の調査によれば、レムンナゴダには225家族が住んでおり、 140個の井戸が存在し、その内80個が洪水による深刻な影響を受けているという。

排水第一号として、排水準備を進めたが、吸い上げホースには少しでも空気が混入するとポンプが 機能しないことから、2時間の苦闘の末、漸く排水に成功した。但し、最後まで排水してしまうと、 井戸の中の側面が崩落してしまうため、ある程度のところでいったん中止、井戸の水が湧き上がる 翌日を待っての作業再開の見通しを立てた。排水の間、約15分と、手馴れてくれば、一日に7〜8件は 対処可能と考えられる。この排水作業にあたっては、スリランカで唯一のPHI養成スクール (同研究所内に併設)の学生ら20 名も見学し、その内何人かは排水ポンプのセットアップに参加を してくれ、井戸水が引き出せたときには喜びを分かち合った。

27日よりは、同研究所の手により、AMDA貸与の排水ポンプによる井戸水の排水、およびTCLの投与が はじめられた。なお、山中現地職員は、普段はコロンボで医薬品の調達などを担当しているが、 シンハラ語での語学力を活かし、随所で取材を進めるなど、現場での活動参加を通じて、改めてPBPの 大切さを感じていた様子であった。

水は引いたが洪水被害のための復旧作業は大変なことである。被害者も新たに生活の基盤を作り始める ために日々の努力を始めている。このような努力をPBPはこれからも中古衣服提供、ウォーターポンプ での井戸水の排除を中心に続けていく。




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