緊急救援活動

アフガン難民医療支援活動

山上 正道
プロジェクトコーディネーター
AMDA Journal 2002年 6月号より掲載

1.AMDAが活動を行なう2つのキャンプ

ムハンマド・ケイル

パキスタンのバローチスタン州の州都であるクエッタから車で2時間半南西に走ったところに位置し、昨年9月11日以降クエッタ周辺に流入したアフガン人難民を保護する施設として、UNHCRが難民キャンプを設立した。 この地域では最大規模のキャンプで、東西2.5Km、南北4Kmの区域に66,000人以上の難民を受け入れている(2002年3月現在)。この難民の出身地はクンドゥズ、ヘルマンド、カンダハルなどアフガニスタン国内の南部から北部までさまざまであった。

ラティファバド

クエッタからムハンマド・ケイルに行く途中にある。クエッタからの所要時間は1時間15分。広さはムハンマド・ケイルの4分の1ほどになる。このキャンプには8,600人の難民が住んでいる(同上)。このキャンプに住む人々の80%以上がウズベキ系アフガン人で、その他テュルクメン系、ハザラ系、タジク系が住んでいる。

2.AMDAの活動

AMDAはこの2つのキャンプで、緊急医療支援活動として、到着した難民の保健登録と健康診断とラティファバドでの仮設診療所(BHU:Basic Health Unit)の運営を行っている。

保健登録と健康診断

私の着任した2002年1月半ばは、まだ情勢が不安定であったため、前日の夜になるまで翌日に難民が到着するかどうかが分からない状態で、車の手配やスタッフの派遣にかなりの支障をきたしていたが、数日後には1週間ないし10日間の予定が書類で配られ、ほぼ計画通りに行われるようになり、当日の朝慌てて準備することはなくなった。

健康診断では子どもが対象になっていて、生後5ヶ月から15歳までの子どもを登録し、麻疹の予防接種とその記録(ワクチンの番号と予防接種を受けた子どもの年齢、名前、難民登録番号を全て記録する)、ビタミンAの補給を行なう。 また上腕の太さを測り、基準に満たない子どもは身長、体重を測り、この数値を元に栄養状態を確認する。栄養不良と判断された子どもには、世界食糧計画(WFP)より贈られた高カロリービスケットを配る。

麻疹の予防接種実施
麻疹の予防接種実施

ムハンマド・ケイルでは1日あたり350世帯(1世帯あたり6人)、ラティファバドでは1日あたり150世帯の健康診断を行っている。この健康診断は大抵週に3、4回行われていたが、ムハンマド・ケイルは定員間近、ラティファバドでは水不足のため、3月上旬で一時停止の状態となっている。 ラティファバドの水不足は深刻で、今も井戸を掘っているが、水を確保できず、給水車を使って近くの村から運んでいる。

仮設診療所(BHU)

BHUは大きく分けて外来診療所(OPD)、薬局、処置室、栄養管理部、予防接種部、母子保健管理部(MCH:Mother and Child Health)の6つの部門がある。

(1)OPD、薬局、処置室

1月23日より本格的にOPDを開始。キャンプ内の人口が増えるにつれ、一日あたりの患者数が増加の一途をたどっている。女性用、男性用の診療所に分かれ、5人の医師が診療にあたっている。1日約400人の患者が訪れ、診察後にそれぞれ処置室や薬局に行き手当てを受けたり、薬を受け取ったりする。

(2)栄養管理部

主に栄養不良と診断された子どもの栄養補給を行う。週1回、身長、体重、上腕部の太さを一人一人測り、医師と相談しながら対応していく。ラティファバドでは、正確なデータを取るため、キャンプ内にいる全ての15歳以下の子どもを一斉に検診したところ、45人の栄養不良児が明らかになったため、栄養補給を継続している。

(3)予防接種部

当初生後5ヶ月以下の乳児が対象であったが、現在キャンプ滞在中に5ヶ月目を迎える子どもに麻疹の予防接種を行っている。予防接種はこちらから各住居テントに出向いて行っているが、テントを指定された場所から移動させた世帯もあり、探し出すのに手間どったこともあった。

(4)母子保健管理部(MCH)

1月23日にラティファバドで初めての赤ちゃんが生まれ、それから3月半ばまでに30件以上の出産があり、そのうち2件はクエッタの病院へ移送し、そこで出産した。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)には出産間近の女性や重病患者をキャンプにではなく、クエッタの病院に移送するよう提言しているのだが、難民自身が、妊娠や重病などの理由で家族と離れてクエッタに残ることを好まず、これらのことを隠しとおしてキャンプに来てしまう。

MCHでは出産の介助と、妊娠している女性とその出産時期の調査を行い、そのデータをもとに妊婦検診を行っている。出産予定日までまだしばらくある人は、定期的にMCHを訪れてもらい、検診を受けてもらうが、出産間近の患者に対しては、毎日住居テントに赴き、検診を行っている。 出産に関しては、基本的には住居テント内で行ない、難産の時にはBHU内に運び、手術が必要なときはクエッタ市内の病院に送ることにしている。しかし、ほとんどはテント内での出産で無事に産声があがっている。また、出産後の母子に対する健康管理も行っている。

出産予定の妊婦さんの人数(2002年2月〜12月)
2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月合計
21371011161242200115

3.難民キャンプの生活

私が赴任した1月から3月は、1年を通して一番寒い時期にあたり、夜は氷点下8度まで気温が下がった。この寒さの中での生活は私には想像もできなかったが、出産後の子どもと母親の様子を見に行くときに彼らのテントに入れてもらったことがあった(診察終了後)。 石炭のストーブがあるせいか、中は暖かかった。しかし、キャンプでは狭いテント内でストーブを使うので子どもの火傷が絶えなかった。

1月と3月に3日間ずつポリオ予防キャンペーンを行い、難民の各居住テントに赴き、6歳以下の子ども全員にポリオワクチンの投与を行った。1月のポリオキャンペーンは私の赴任後1週間経ったときだったので、難民の生活を知る良い機会だった。

現在のキャンプは20年前にあった難民キャンプの跡地にあり、今ここに住む人々はこの旧キャンプを修復して住んでいる。具体的には、残っている土壁を修復し、屋根にはUNHCRから支給されたテントを使い、住居にしている。またその周りも土壁で囲んでいる。 この土壁が高く私が背伸びをしても向こう側が見えない。しかも区画整理されて住居が並んでいないので、立体迷路と化している。何度も同じところに迷い込んだ。この塀に囲まれた住居の中には犬や馬がいたり、じゅうたんを織っていたり、毛糸を作っていたりと貧しくとも普通の生活があった。

キャンプ内でのじゅうたん製作
キャンプ内でのじゅうたん製作

こうしてキャンプの中を歩いていると、行く先々でお茶を勧められた。何百人もの子どもにポリオの投与をしなくてはならないのでたいていは丁重に断るのだが、1日歩き通しになるので何回かは休憩を取らせてもらった。 この休憩も彼らとゆっくり話せる時間だったので、私にとっては非常に良いときであった。

しかし、お昼時にはお茶だけではなく食事にも誘われる。時間が無い事を話すと、ナンやチャパティーをくれる。私としては決して楽ではない生活を強いられている彼らから食料を貰う事にいささか気がひけたが、あまりにも勧められるので、断るのも失礼と思い、ありがたく頂くこともあった。 焼き立てのナンやチャパティーは香ばしくおいしかった。困ったことに、この時間帯にはどこの家からも勧められた。時間がないのでと言っても、「歩きながら食べればいい」と言われ、最後には食べきれなかったナンを持ち帰ることとなってしまった。

彼らとの話の中で一番よく聞かれたのは、国籍だった。このようなことは今まで何度もあったが、ここでは少し違っていた。 彼らは私に「チノ(中国人)か?、アフガンか?」とか「ウズベキか?ハザラか?」と聞くのだ。 中国人に間違われることは何度もあったが、アフガン人と言われたのは初めてだった。確かにウズベキやハザラは日本人によく似た顔だちをしており、中には「鈴木君、田中君」とつい声をかけてしまいそうになる人たちもいた。顔だちは似ているが、私は彼らにとって、初めて見る日本人だった。

4.2ヶ月間を振り返って

私の着任した時期は24人だったスタッフも36人となった。私の赴任中大変と感じたことは、事務所がなかったことだった。着任当初から、ホテルの私の部屋が事務所となっており、業務が増えた頃から、特に重症患者の搬送、医薬品等の補充や在庫管理が困難を極めた。 幸い赴任して2ヶ月目に事務所を借り上げることができ、これらの問題点は一気に解消された。事務所の大家は政府を定年退職した人で、20年前にムハンマド・ケイルキャンプを設立した人だった。不思議なめぐり合わせだと思った。

めまぐるしく変わる状況に対しては、現地スタッフが柔軟に対応し、厳しい条件の中でひじょうに質の高い仕事をしてくれた。特にローカルコーディネーターのシャノワーズ氏の軽いフットワークと、遠近感を持った視点と考え方にはよく助けられた。 また、関係諸機関ともよい関係を保ち、多くの協力を得ることができた。工藤看護師も現地スタッフとよい人間関係を持ち、多くのアイディアを出してBHUを立ち上げて下さった。

こうした充実した活動ができたのも、多くの人の力添えと共通の目的意識があったからだと思う。難民キャンプでの活動を通してつくられた人間関係と信頼関係はかけがえのないものであり、この先のAMDAの活動に活かされるだろう。




緊急救援活動

アメリカ

アンゴラ

イラク

インドネシア

ウガンダ

カンボジア

グアテマラ

ケニア

コソボ

ザンビア

ジブチ

スーダン

スリランカ

ネパール

パキスタン

バングラデシュ

フイリピン

ベトナム

ペルー

ボリビア

ホンジュラス

ミャンマー

ルワンダ

ASMP 特集

防災訓練

スタディツアー

国際協力ひろば