緊急救援活動

米国同時多発テロ
世界貿易センタービル医療現場レポート


町谷原病院 外科医師 小林 直之
AMDA Journal 2001年12月号より掲載

 2001年9月11日に米国で同時多発テロにより世界貿易センタービルおよび国防総省が破壊された。10月12日の時点において、邦人を含む死者・行方不明者は現地からの報道(US Today. comによる)では5,502名といわれるが、現地での被災者の救援状況、外傷の詳細について日本ではあまり知られていない。今回、医療状況の調査および 今後の支援の必要性を判断するため、世界貿易センタービルの被災現場および周辺救急医療施設をAMDA医療支援チームの一員とし て9月21日から24日まで参加したので報告する。

被災家族に話を聞く小林氏

1. 世界貿易センタービル被災現場では…

 周囲の交通は完全に規制され、ビル倒壊現場より1ブロック離れた地点から一般の立ち入りは制限されていた。数十万トンといわれる瓦礫からは当時なお硝 煙がたちこめており、24時間体制で行方不明者約6,000人の捜索活動が行われていた。また、不通になった電話ケーブルの復旧作業が急ピッチで行われていた。

 被災直後に救急センターが数カ所に設けられ、負傷者の救援活動は米国赤十字社を中心として、市内・周辺から駆けつけた医療関係者により行われたという。それに引き続き大量の献血活動、被災者とその家族を対象に精神的ストレスに対するカウンセリングの受付けが行われ、さらに世界貿易センタービル関連の元従業員とその家族を対象にした精神的、財政的援助も実施されていた。

2. 救急医療と支援の現場

(1)Beth Israel病院メディカルセンター(現場から3km北東に位置)

 Marcel Sandoval医師によると被災当時の受診者は約200名であり、うち大部分は挫傷、切創や、ガス、アスベストを含む塵灰による眼球、呼吸器刺激症状を訴える者であった。骨折患者は比較的少なく、重傷患者約20名が入院したが、現在までに全員退院した。

(2) ニューヨーク大学Down Town病院(現場から600m東)

 Lucita V. Decastro看護婦の説明によると被災当時は約400名が受診した。災害発生直後から院内は停電となり、自家発電により診療活動が続けられた。挫傷、切創などの軽傷例が多かったが、下腿骨折の1名、重度熱傷の5名が集中治療のため転院となった。訪問時もレスキュー隊員1名が腹痛を訴えており、救急ベッドに入院中であった。

(3)St. Vincent 病院 (現場から3km北)

 Susannie G Pugh医師は、被災当時600名以上が受診し、うち100名以上が入院したと語った。外傷の内訳に関して今回の災害に特有のものはなく、過去に起きた世界貿 易センタービルやオクラホマ連邦ビル爆破事件などと同様で、熱傷、挫傷、骨折などであった。その後、被災者の精神的外傷に対するケアが行われ、継続して1日10名1程度がカウンセリングに訪れているという。

(4) Bellevue病院 (現場から4km北東)

 Jeff Manko医師によれば約300名が受診し、レスキュー隊員が多かったという。骨折、熱傷などの他、数例のcrush syndromeがみられ、これに対して下肢切断術が行われた。また、損傷が高度な遺体に対して検屍、および身元確認のためのDNA検査を実施してきているとの事であった。

(5)家族支援センター等での対応

 行方不明者の家族に情報を提供しているFamily Assistance Centerを訪問し、医療分野での協力について意見交換した。その後、在ニューヨーク日本総領事館によりヒルトンホテル内に設置された緊急対策本部を訪問し、出木場課長補佐から状況の説明を受けた。この時点での邦人の行方不明者は24名であり、被災直後に入院した6名は収容病院から全員退院したとの事であった。

3.AMDAからの協力─現地NGOを通した支援

 さらに阪神淡路大震災の時から協力関係にあるNGO団体American Jewish World Service(AJWS)を訪問し、その活動方針について協議した。AMDAからはAJWSの実施している被災者への精神ケア、家族への生活支援などの活動に対し、10,000米ドルを提供した。

左から筆者、小西調整員、AJWSスタッフの方々

4.おわりに

 今回のテロ事件における外傷患者に対するトリアージを含めた初期治療は十分に行われたと考えられた。現時点における災害現場における緊急医療支援の必要性は低く、被災者およびその家族、さらに救援にあたった消防隊員、警官等に対する長期的精神ケアが重要と考えられた。

 今回の米国同時多発テロによる被災者およびご家族に心より哀悼の意を表します。

 10月7日、米英軍によるアフガニスタンへの空爆が開始された。民間人が死傷し、何万人もが難民として周辺国に逃れている。一般市民が犠牲になる悲劇は人道的見地から絶対に避けなければならない。



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