ジブチ

難民キャンプにおける10年の取り組み
ジブチ共和国


AMDAジブチ Biswajit Biswas医師(医療調整員)
AMDA Journal 2002年 11月号より掲載

ジブチ共和国の難民キャンプには2万4千人のソマリア・エチオピア難民が暮らしているが、そのほとんどは生まれてこのかた学校教育を受ける機会がなかったため、彼らに保健衛生教育を施し理解してもらうことは、非常に困難な事業であった。

1999年に難民キャンプに派遣された際、私はまず彼らの持つ日常の保健衛生に関する知識レベルについて調査し、彼らの知識や生活観念を新たにするために、保健衛生教育プログラムを開始した。

講義をするビスワス医師
講義をするビスワス医師

若者グループや地域の女性(特に母親)を対象とし、形式ばった講義ではなくグループ討論や実用的な内容を取り入れた。この方法は彼らの感性に訴えるためにより有効だった。例えば、“家族用簡易トイレの建て方と下痢症状になったときの実用的な対処の仕方”についての講義では、難民たちは理論上の説明では納得できず、中には講義中いびきをかく人までいた。 しかし私がコミュニティへ行き、実際に現物を見せた時、彼らは初めて納得し正しい手順に従ってくれた。

その上、小人数のグループ討論は、受講者が理解しやすく、正しく実行することができるようになるという点において、とても効果的であることに気づいた。時には寸劇、芝居、歌、小話等の面白さを取り入れた授業は、私の伝えたいメッセージに対し受講生の関心を引くという点でも、とても重要な役割を果たした。

授業中、私はなるべく医療専門用語を使うことを避け、できるだけ単純でやさしい言葉を使うよう心がけた。これは住民が理解しやすいだけでなく、通訳にとっても楽であるからだ。クラス全員の注意をひきつけるためにポスター、パンフレット、ダミー(模造)の模型や図面等、保健衛生に関する道具を使用することも大変有意義であった。

難民キャンプには診療所内で活躍するボランティアもいれば、キャンプのテント一軒一軒を巡回する普及員ボランティアもいる。例えば、診療所ボランティアは母子保健衛生、薬局、傷の手当や下痢、コレラの手当(難民キャンプでは密集した生活環境下にあるので、コレラが発生したときは、患者を隔離する施設を設けている)などを主とする患者の診察及び給食センター等様々な部門に配置されている。 彼らは二ヶ月単位で一つの部門にインターンとして配属され、各自の研修をきちんと終了すると別の部門へと移っていく。

普及員ボランティアは誰でも関心のある人が地域の中から選ばれている。彼らはその地域の医療責任者の監督のもとで、いろいろな衛生プログラムに従事したり、地域住民に保健衛生について認識させるための取り組みに参加している。

ただしボランティアを見つけることは容易ではない。難民たちは無償で他人のために進んで手を貸すことはしない。問題解決のためには何らかの動機となること(例えばボランティアのお礼としてノート、ペン、毛布や中古衣料を配る)を考える必要がある。時には診療所ボランティアの人たちへのお礼に給食センターから給食の残り物を使ったこともある。 しかし、ボランティアにとって一番の魅力はなんといっても研修の終わりにAMDAから贈られる研修参加の証明書である。この証明書でボランティアたちは母国のソマリアやエチオピアへ帰ると医療従事者として採用されることができるのだ。

保健衛生教育とボランティアスタッフへの研修は伝染性の病気や家族の健康管理などに対する住民の意識を高めるためだけでなく、良い人間関係を築き、AMDAのスローガンである“より良い未来のためにより良い生活向上”を図るために役立っている。

質問者:本部アフリカ担当者
回答者:ビスワス医師

質問(1):今後の保健衛生教育について特に力を入れる部分は何ですか。

答:現在は特に衛生に力を入れています。地域医療責任者の協力を得て、新しい方法で教育を始めています。授乳中の母親には少なくても2年位は授乳を続けることを進めています。92%の人が予防接種を受け、妊娠中のケアに力を入れているために、妊婦や幼児死亡率は非常に低くなりました。

またボランティアの育成にも継続して力を注ぎたいと考えています。理想としてはさらに6人の母子保健衛生のサービス、10〜12人の下痢、コレラの手当及び傷の手当、6〜7人の給食プログラム、5〜6人の患者診察補助及び薬局の運営に関る新しいボランティアの育成が必要と思っています。

質問(2):難民のために保健衛生教育を実施することは、彼ら自身の伝統文化を知り、理解することが大切です。これまで先生にとって一番興味を惹き、驚いた習慣は何ですか?

答:いくつかの面白い習慣や迷信があります。女性性器切除はその一つです。

殆んど全ての女性は幼い頃に粗暴な処置を受けなければいけない習慣があります。もしある女性が切除を受けていなかった場合、結婚生活上貞操を疑われ、一生結婚をしないで暮らす人もいるくらいです。また彼らは羊の油身がペニシリン注射剤の用を果たすと信じ、実際に使用していました。 どんな種類の痛みでも、彼らは患部に熱した鉄の棒にその油身をつけてあぶって塗布していました。多重婚はかなり一般的で、離婚も珍しいことではありません。出産後、母親はある特別な木や鉄でできた棒きれを赤ちゃんの周りにおき、それが魔除けになると信じています。 そして赤ちゃんが生後1年以内に亡くなった場合、その赤ちゃんの魂は死後、親の魂を天国へ連れて行くとも信じています。驚くべきことにコンドームの中にはHIV/AIDSが含まれているとまで信じている人がいました。

質問(3):最後に、ビスワス先生はバングラデシュ出身ですが、どのようなきっかけでAMDAに入り、どうしてジブチで働くことを希望されたのかを教えてください。

答:AMDAは世界あちこちの開発途上国で人道支援活動を行うNGOです。日本に本部を置くAMDAは母国バングラデシュを含む30ヶ国に支部を置いています。アジア人であり、医師で、開発途上国出身の人間として、AMDAの中に私の専門的職業と大きな類似性を見いだしたからです。それゆえに私はAMDAを選びました。

アフリカは私にとって驚異の大陸でした。しかし私は地球上のどの大陸にも特にえり好みは持ってはいません。AMDAからはじめに言い渡されたのがアフリカのジブチでの仕事でした。実はその時まで、ジブチがバングラデシュから近いところにあると思っていました(笑)。 世界地図を見てアフリカの角の部分にあることがわかったのは出発の準備をする時でした。

ジブチもまた開発途上国です。ソマリ族、エティオピア人、エリトリア人が一緒に一つの場所で暮らしており、こうした難民キャンプで種々雑多の人々に接することは、彼らの文化、考え方や観念等を理解する上で非常に興味深いことです。 今後も異なった地域におけるプロジェクトで活動する機会を頂くことができれば、この上なく有難いと思っています。

(翻訳 藤井倭文子)




緊急救援活動

アメリカ

アンゴラ

イラク

インドネシア

ウガンダ

カンボジア

グアテマラ

ケニア

コソボ

ザンビア

ジブチ

スーダン

スリランカ

ネパール

パキスタン

バングラデシュ

フイリピン

ベトナム

ペルー

ボリビア

ホンジュラス

ミャンマー

ルワンダ

ASMP 特集

防災訓練

スタディツアー

国際協力ひろば