カンボジア

カンボジア インターン報告
(2)AMDAカンボジアにおけるインターン研修


医学生インターン 米田 哲
AMDA Journal 2001年12月号より掲載


1.はじめに

 私は、大学生になってから毎年、発展途上国を旅してきたのですが、その度に現地に住む人にいろいろ助けてもらってきました。いつの日かこちらからお返しをできるようになりたいと思い、今年の夏はAMDAでインターンの研修を受ける事にしました。主な研修内容は、1)AMDAカンボジアクリニック(以下ACC)業務の補助 2)巡回診療(モバイルクリニック)業務の補助 3)アングロカ保健行政区で行っている保健行政活動の視察および業務の補助、の三つです。この三つは、AMDAカンボジアが現在行っている主なプロジェクトそのものです。 また、今回のインターンプログラムは、大学で開発について学んでいる木村さんと一緒に活動しました。以下にその詳しい内容を報告します。

2.研修内容

1)ACCにおける研修
 ACCは、プノンペン市の南部に位置し、一日の平均外来患者数は約80人、四人の医師が勤務していますが、いつもは二人の医師が外来を担当して、一人が一般外来を担当し、もう一人が主に小児外来を担当していました。AMDAカンボジア代表のDr. Rithyは、優秀な医師でもありますが、マネージメントの業務が忙しく、なかなか診察や検査が出来ないようで残念でした。もう一人は若い医師で、モバイルクリニックや小学校の検診、ACCでは外来の診察やさらには小手術の執刀と、忙しく働いていました。このクリニックの特徴は、診察料が無料で、薬の代金もかなり安く抑えてあるため、収入が少ない人でも受診しやすくなっている事です。また、かなり貧しいと思われる患者に対しては、一切の請求は行っていません。

 自分はなにぶん学生で、当初は診察も診断も薬剤の処方も出来ないという有様だったので、直接診療行為に関わる事はあまりできませんでした。その代わり、自分でクメール語を少しずつ学び、問診が少しは出来るようにしました。体温、血圧、脈拍の測定、聴診などもなるべくたくさんやらせてもらいました。(ここで生まれて初めて血圧を測定させてもらった。)

 毎日診察室に入って観察していると、小児科では、主に呼吸器感染症が多い事が分かりました。これは、おそらく世界共通ではないかと思われます。プノンペンは平野部に位置するので、デング熱やマラリアの患者はあまり見る事はありませんでした。カンボジアの衛生状態を考えると、下痢で苦しむ子供が多いと予想していましたが、実際はそれほど多くはありませんでした。これは、カンボジアに住む人がある程度は衛生面に関する知識をもっていて、後でも述べるが例えば生水は飲まないなどの対策を取っているためだと思います。また、プノンペン市内の水道設備もだいぶ整ってきたとのことでした。

 成人の一般外来でよく目に付いたのは、腹痛や下痢など日本でもよく見かける疾患のほかに、“神経痛”という診断名です。たいていは、日本で言う肩こりや腰痛などです。日本では、このような症状で医師にかかる事は少ないと思いますが、カンボジアでは、薬局で薬を買えない人も多いと思われ、また患者の周囲に自分の健康について相談できる人もいないため、病院に来て不安やつらさを聞いてもらいたい、あるいは薬を手に入れたい人が多いのではないかと思いました。意外だったのは、血圧の高い患者が多かった事です。医師の話によれば、カンボジアの人は、脂っこいものを食べて、食塩やアルコールの摂取量も多いらしく、一方で栄養状態が悪い子供が多いことを考えると、複雑な気持ちにさせられました。

 毎日外来を見学するだけでは時間の余裕があったので、木村さんと自分は、来院する人を対象にいくつかアンケート調査を行いました。そこで分かった事は、先に述べたように多くの人が水は沸かして飲むべきだと分かっている事です。ただし、自分や周りの家族が下痢になった場合、どうすればよいか対処法が分かっている人は半数以下で、多くの人が何も分からないからとにかく病院に行くと答えていました。病院の敷居が低く、患者さんが行きやすい環境はうれしい事ですが、逆に、基本的医療知識のレベルが低く、とにかく医師に頼ればよいという状況で、例えば子供が熱や下痢になった場合、水分の補給などに気をつけるように、患者に対して教えていく必要性があると感じました。また、40℃近くまで熱が上がってから来院する人もまだまだ多いことが残念でした。たとえ治療費が安くても、一日の仕事を休める余裕のない人が多いように思われ、カンボジアにおいて早期治療の難しさを感じました。他に、アンケート調査をしていると、遠方から半日、一日がかりで来られる患者さんがいる事も分かりました。知り合いや親戚などからの口コミでACCを知ったそうです。カンボジアでは、各地域に公立の診療所(ヘルスセンター)がありますが、薬を置いていないことも多く、地方での医療レベルがまだまだ低い事がうかがえます。


2)モバイルクリニックでの研修
 ACCでは、週に一、二回、コンポンスプー州内の無医村、あるいは公立の診療所には薬が置いていないような地域に対して巡回診療を行っています。一回の診療で来る患者数は平均50人程度です。初めて行った時は簡単な問診と外傷の消毒程度しか出来ませんでしたが、最後の日は、20人以上の患者さんの診察をこなせるようになりました。(もちろん医師の指導・監督のもとで)地方に行くと、栄養状態が悪い人の割合が都市部と比べて一気に増えます。患者さんの疾患の内容は、ACCと同じく、小児では呼吸器感染症が、成人では腹部の症状や 腰痛などを訴える人が多くいました。残念なのは、現在のところ、一つの地区に対して頻繁に診療活動を行う事が出来ない事です。これは、AMDAのスタッフの数を考えるとどうしようもありません。今後、何らかの形で医療サービスを定期的に供給できるようにして、子供の感染症や外傷の消毒などがすぐに行えるようにしていければと思いました。

3)アングロカ保健行政地区でのAMDAの活動の視察
 AMDAは、アングロカ保健行政地区において、保健行政の組織の中に組み込まれる形で、地域の保健レベルの上昇に向け取り組んでいます。カンボジア国内では、まだまだ薬がなかったり、あるいは医師がいない診療所が多い中で、AMDAが携わっている地区では、しっかりと医師、看護婦、および薬が備わっていて、ある程度の医療サービスは確保されているようです。自分は、アングロカにおいて三日間にわたり活動(おもにその地区の中核病院)を視察し、報告書を作成して現地のスタッフに対しプレゼンを行いました。医学生として一番興味があった事は、アングロカは山間部に近く、マラリアやデング熱の患者が多かったことです。このような地域で働くためには、日本では難しいですが熱帯病を診断できる能力の必要性を感じました。また、カンボジア保健省の意向で各診療所、病院とも24時間サービスを行っていますが、利用者は午前中に集中し、せっかく夜間に医師が当直しているのに患者は来ていない状況で、残念でした。夜中に具合が悪くなっても、交通手段がなく、誰かに連絡も出来ず、もちろん病院に救急車を頼む事も出来ないので、やむを得ないといえばやむを得ない状況ではあります。一つの地域の医療レベルを上げるには、医療や教育だけでなく、通信や道路などインフラ整備も重要であると思いました。

クメール語での問診に挑戦する筆者(中央)

4)その他の活動
 今回の研修期間中に、AMDAのスタディーツアーがカンボジアを訪問したので、ガイドや車、レストランの手配などを行う事になりました。現地に着いたその日のうちにあれこれ手配をせねばならず、また、ツアーの参加者から不満が出たりしないかと初めのうちはかなり心配でしたが、結果的には皆さんに満足していただけたと思います。“コーディネーター入門編”と勝手に思って働いてましたが、とにかくコーディネーターの重要性と大変さが分かった気がしました。ツアーにはさまざまな年齢、職業の人に来ていただき、AMDAをはじめとする海外医療NGOが思った以上に認知され、関心を持ってもらっていると思うと、働いていてうれしかったです。また、さまざまな考えを持った人と話す事が出来て、今回のプログラムの中で思わぬ収穫となりました。このような企画によって、一般の方にもっとAMDAの具体的な活動を見てもらい、裾野を広げていく事も重要であると思います。

3.最後に

 今回の研修を通じて、実際に海外でどのような医療援助活動が行われているかが良く分かりました。ACCなどで行われている診察活動は、日本と比べると機材が少なく、問診、視診、聴診、触診および簡単な検査だけで診断を下す事が多いです。検査機材をこれから増やす事も大切ですが、まずは自分の身一つで 診断を下せるだけの能力が必要であるように思います。日本の医療が検査漬けと言われて久しいですが、検査に頼ってばかりの医者にならないようにしなければなりません。また、診察の基本は何と言っても問診です。現地の人と会話が出来ないと、診断をするのが大変困難なので、英語の他にも、現地の言語をある程度は習得する必要性を感じました。他に、日本では見ることがほとんどないマラリアやデング熱など、熱帯病や風土病に関する知識ももちろん重要です。これからは、日本で通用する医師になる事のほかに、このような点でもしっかりと勉強して、海外でも通用する医師になりたいと思います。

 カンボジアに一ヶ月ほど滞在して一番印象的だったことは、国土の復興が一歩ずつでも進んでいるという事です。多くの人が、つらい過去の内戦の記憶を乗り越え、手を取り合って前に向かって歩いています。医療の面に関しても、私はもっと短期的な応急処置ばかりに追われていると思っていましたが、中・長期的な視野に立って治療できる余裕が少しずつ出来てきているように思えました。現在のところ、ACCではほとんど入院患者はいないので、これからは、AMDAカンボジアも、長期的、慢性的な疾患の患者さんに対していかに質の良い医療を提供できるかが課題になってくると思います。いきなり、ACCの医療レベルを日本の病院並みに引き上げるのは無理がありますし、その医療費を負担するのも患者さん、AMDAどちらの側にとっても困難ですが、カンボジアが一歩一歩復興し、発展していくように、ACCも巡回診療も、少しずつ進歩していけるように、スタッフの方々が毎日頭を悩ませておられます。私も、ちゃんとした医師になって、少しでもお手伝いが出来るように、頑張っていこうと思います。

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