カンボジア

カンボジア インターン報告
(1)─平和を取り戻したカンボジアで─


木村 陽子(大学3年生 開発学専攻)
AMDA Journal 2001年12月号より掲載


1 はじめに

 カンボジアと言えば誰もが“地雷”と“アンコールワット”を真っ先に連想する。私もその一人で、今回カンボジアでのAMDAインターンを経験するまではカンボジアについては無知な学生でした。国民の約90%が稲作農民、東南アジアの中でも生活水準は最貧国に位置し、おまけにメコン川が毎年氾濫するという洪水国カンボジアにて、8月8日から9月7日までの約1ヶ月間インターンに参加しました。

 主な活動内容としては首都プノンペン市内にある@AMDA・カンボジア・クリニック(ACC)での医療活動見学及び患者の医療知識レベル調査(ニーズ・アセスメント)Aプノンペンから北へ約60kmに位置するコンポンスプー州の農村地域を対象とした巡回診療、Bプノンペンから南へ約80kmに位置するタケオ州保健行政区での医療活動見学及び医薬品管理の調査を行いました。以降、その活動内容を紹介していきたいと思います。


2 活動内容

@アムダ・カンボジア・クリニック(ACC)での医療活動

 1997年、首都プノンペンにアムダ・カンボジア・クリニック(ACC)が設立して以来患者数は毎年増え続け、毎月患者数400人にも満たなかった開業当初と比べて、現在は2,000人から2,500人にまで達するようになった。ACCでは低料金で質の高い医療提供を目標にしている。実際にプノンペン市内の他の医療機関と比較してもその医療費はほぼ最低ラインに等しい。そのうえ、最貧層の人々や障害を抱えた患者に対しては診察料から薬代まで全額無料で提供している。ACCには小児科、内科、産婦人科に加え簡単な外科手術設備を設けているが、医療器具は全般的に乏しい。ACCでは現在医師4人と看護婦5人体制で医療活動を行っているが、24時間体制で入院患者を受け入れるためには今後さらにクリニック内の業務効率化を図ると同時に、エコー、レントゲンをはじめとする高度な医療器具の設置、及びそれらを使いこなせる現地スタッフの育成が不可欠である。

互いのやり方を尊重し合う


 現在ACCには患者一人ひとりの情報を管理するカルテのようなのもが存在しない。簡単な診察の後に医師が処方箋を書き、看護婦がそれらにもとづいて薬を処方する。患者は各自処方箋を持ち歩き、次回診察の際に前回もらった処方箋を提示するといった具合だ。処方箋には薬の名前と分量が乱雑にかかれているだけで、当然ではあるが、患者は専ら書かれている内容を理解していない。処方方法と分量は薬局で薬を手渡される際に看護婦が簡単に口頭説明する程度である。私はそんな一連の流れに疑問を感じつつ、クリニックの片隅でじっと分析する日々が続いた。

巡回診療に集まる子ども達と筆者

 さらに、医薬品の在庫管理から全ての業務を看護婦が毎日手作業で集計しているから時間もかかるうえ、人為的ミスが起こりやすい。今回のインターンの目的には、これら非効率的な業務のデータベース化があった。コンピューターで薬の在庫管理及び患者の診察状況を処理することで、人件費を削減することができ、集計上のミスも減る。それまで手作業で行っていた使用済み薬品の集計もデータを入力するだけで自動的に行われる。何もないゼロの段階からシス テムを定着させるまでには、育成する時間と現地スタッフの理解が不可欠である。

 看護婦に現在の手作業業務からコンピューターを用いたデータベース化を説明したところ、誰もが口をそろえて「その方が余計時間がかかる。今の手作業の方が楽でいい。」ともらしていた。何でもコンピューターで処理するのが便利で良いとする生活環境の中にどっぷり浸かっている自分と彼らとのギャップ が浮き彫りになった。彼らには彼らのやり方があり、それらを一方的に非効率的とみなし、いきなり変えようとするのは押し付けがましいと自問した。しかし今後ACCが業務を拡大するにあたり、そういった新技術の導入は業務を効率的にするのみならず、看護婦自身のスキルアップにつながるのではないか。

医療ワークショップの開催


 ACC内の業務効率化の可能性を探ると同時に、ACC自身が医療情報を一般市民に定期的に提供するワークショップ開催の可能性を探った。ワークショップの内容は風邪や下痢、マラリヤ・デング熱予防、その他避妊教育、病院出産の推進、HIV感染予防等多岐に渡る。その調査方法として、今回一緒にインターンに参加した医学生米田君と私は、地元カンボジア人のニーズと医療知識レベルを知るために、外来患者を対象にインタビューを行った。インタビューの内容としては、一般市民がどれだけ医療に関する基礎知識を持っているか、どんな病気に関する情報が不足しているか、また医療機関の利用度等に焦点が当てられた。インタビューの際には私たちの話す片言のクメール語がほとんど通じなかったため、ACCスタッフの協力が不可欠であった。

 その結果、風邪や下痢、やけどなど一般的な疾患に対してはほとんどの人々が正しい応急処置方法を身に付けていることがわかった。また、女性は避妊、出産方法、HIV感染に関する知識を知りたがっていた。ACC独自のワークショップ開催に関してほぼ100%の賛成意見が回答者から得ることができた。ワークショップの他にも、クリニックの待合室にテレビを設置し、常時医療に関する情報を提供するなどいくつか方法が考えられる。


 カンボジアには一般市民が医療に関する基礎知識を得る機会が無く、ひどくなって病院に来るまで何の処置もできない場合が多い。驚いたことに、ACCの患者はプノンペン市内の住民に限らず、地方から訪れる患者が少なくない。NGOがしかも低料金で医療を提供してくれるという噂がプノンペンの周辺地方まで知人や友人を通じて広まっているようだ。とはいえ、プノンペン市内ならまだしも、地方で暮らす人々にとって病院とは金のかかる、ほど遠い存在である。そんな彼らが自己予防策及び応急処置方法を自ら身に付けるために、ACCが患者に治療や薬を提供するだけでなく、今後医療情報を自発的に発信する場として一般市民に根付いて欲しい。

A巡回診療(Mobile Clinic)

 ACCはクリニック内で診療を行うだけでなく、プノンペンから北へ約60Kmに位置するコンポンスプー州の農村地域を対象に全額無料で巡回診療を行っている。コンポンスプー州には8つの自治区があり、ACCはその中の自治区、さらに細かく分割すると12の自治体を定期的に巡回している。現在巡回診療は火曜日と木曜日の午前中週2回行われ、12の自治体をローテーションで回っているため、事実上、1つの自治体を1.5ヶ月周期で巡回することになる。各自治区までの道路状況は狭いうえ凸凹道が多く、時には片道2時間を費やすこともある。雨季にはただでさえ狭い田んぼ道がさらに悪化し、巡回が不可能な場合が多々ある。


 現在直面している問題とは、巡回周期が長すぎるが故に、次に診療するまでに患者の容態が悪化してしまうこと。中にはささいな疾患が昂じて重症を引き起こすこともあり、最悪死に至る事態も今回のインターン期間中に実際に直面した。また巡回診療に従事する現地スタッフの不足が挙げられる。現在巡回診療は医師、看護婦、運転手、受付各1名ずつと地元ボランティアによって行われているが、今後巡回頻度を増やすためには人材を必要とする。次に、地元ボランティアの活躍について紹介したい。

  
地元ボランティアの育成


 今後建設的に巡回診療を運営するために、地元ヘルスボランティアの育成と 積極的参加の必要性を実感した。医療設備の整った病院や診療所が無い農村地域では、基礎医療知識を備えたヘルスボランティアが医師や看護婦の代わりとなって活躍することができる。巡回診療が来る前に最低限応急処置を施せば、病気の悪化を少しでも軽減することができる。風邪や擦り傷程度の軽症であれば常備薬で完治することもある。

 現在既に各自治体レベルでハンディーキャップセンター(National Center of Disable People)のヘルスボランティアと協力して巡回診療を行っているが、 今後は彼ら自身が主体となってさらに巡回診療を活発化できると感じた。これらはすでにプロジェクト内で進んでいる計画であるが、今後各自治体レベルにヘルスボランティアが主体となって運営できる小さな診療所(ヘルスポスト)を置き、常備薬を設置する。そうすれば、村人達もわざわざ遠くの都市に出て行かなくても簡単な疾患程度であれば自己完治することができる。ACC側としても、各自治体にヘルスポストが設置されれば、極端に巡回頻度を増やさなくとも効率的に医療活動をすることができる。

Bタケオ州保健行政区での医療活動見学及び医薬品管理の調査

 プノンペンから南へ約80kmに位置するタケオ州保健行政区では、ACCの医療活動とはまた別の医療プロジェクトが平行して進んでいる。州とは別に人口数に基づいてカンボジア政府の保健省が独自に定めるアングキロカ(Ang Roka)保健行政区(人口116,295人)の医療活動をAMDAが掌っているプロジェクトである。保健行政区内には末端医療機関である9つのヘルスセンター(Health Center)とヘルスセンターからの移送患者が入院するレフェラル・ホスピタル(Referral Hospital)がある。ACCと比較すると患者数、医療スタッフ数、医療器具ともに、かなり規模が大きい。人々やオートバイが騒がしく行き交うプノンペンとは一風変わって、タケオ州は静かで何もない田園地帯。地元の人々も観光客慣れしておらず、町を歩けば外国人である私を物珍しそうに見 る。インターン期間中、ここタケオ州でも活動の一環に参加する貴重な経験を得ることができた。



 ここで私は医薬品及び医療消耗品在庫管理システムの改善案を現地スタッフと協力して考えた。具体的には、現在倉庫に保管されている医薬品及び医療消耗品の在庫管理上の人為的エラー分析、不良品及び返品の処理、倉庫の保管状況改善の3つが挙げられる。

 9つのヘルスセンターとレフェラル・ホスピタルで使用される医薬品及び医療消耗品を在庫管理する際に多くのエラーが見つかった。単純な在庫台帳上のエラーをはじめ、在庫品の中に偽造薬が含まれていたり保管状況が悪いが故に薬の品質が変化したり、驚いたのはネズミが点滴液をかじるなど、信じがたい現実がそこにはあった。一日中倉庫内で在庫品を調査する日々が続いた。その間、担当スタッフととことん話し合い、それらのエラーが生じた原因を突き詰めていくと改善策が見えてきた。一滴の点滴液も無駄にはできないし、ましてや人の生死に関わるような人為的ミスを未然に防がなくてはいけない。医薬品に関する知識が全く無い私の意見にも真剣に耳を傾け、ああだこうだと一人呟いていたMr. Vannさんにこの場をかりて改めて御礼を言いたい。

 他のプロジェクトにも共通して言えることだが、いかにスタッフの適正を把握し彼らの専門性を育成し、尚且つ責任を持たせるかがプロジェクトを持続させるポイントとなる。ともすると、上からの押し付け援助になりかねない危険性を孕む現場で、必死で自らが手本となってプロジェクトをリードする日本人スタッフの姿が忘れられない。

3 おわりに

 医療知識も経験も皆無である自分が今回医療の現場に飛び込んだ。インターンという言ってみれば曖昧な立場を逆に肯定的に考え、実際にターゲットとなる患者とプロジェクトを運営する現地人スタッフ、そして現地人スタッフを育成する日本人スタッフといった一連の流れを、新鮮な目で見ることができた。今回AMDAカンボジアインターンを通して学んだことは、今後国際協力のあり方を改めて見つめ直す貴重な要素である。


 何より励みになったのは、悲惨な歴史を歩んだカンボジアにもようやく平和が訪れた今、国を築いていこうとする人々にたくさん出会ったこと。ACCの医院長Dr.Rithyをはじめ、巡回診療を担当するDr.Viseth、そして誰にでも100%の愛情を注いでくれる運転手Mr.Samboには幾度も心を打たれた。これからもカンボジアの医療活動を率先して築いていって欲しい。


(2)AMDAカンボジアにおけるインターン研修へ




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