バングラデシュ

バングラデシュ活動報告

指山 浩志
AMDA Journal 2001年 4月号より掲載

2002年2月5日から28日の日程で、バングラデシュのダッカ、及び農村地域であるガザリア地区で活動した。 主な仕事は、ダッカのスラムにおけるフリークリニックの支援と、ガザリア地区でAMDAが行っているABCプロジェクトにかかわる、マイクロクレジット事業、職業訓練センター、ヘルスセンターのための関係機関とのディスカッション、および現地での医療ニーズの調査であった。

1.マイクロクレジット

現地について、初めの一週間はダッカに滞在し、すでにマイクロクレジットとそれをベースにしたヘルスサービスを行っているNGOの責任者とのディスカッションや、病院などの関係施設を見学したりして過ごした。 これは、プロジェクト全体のイメージが分かった点では収穫があった。

基本的にローカルエリアでのヘルスサービスは利潤を上げることは不可能なので、基盤をつくり継続的な活動をするためには、マイクロクレジットでの成功により、Selfsustainability(自己持続性)を持たねばならないということが、各NGOとも共通の認識であった。 また、コストフルなヘルスセンターのマネージメントは、より効率的になされる必要があることも、強調された。

2.フリーフライデークリニック

フリーフライデークリニックは、ダッカ旧市街のスラム地区で週一回、行っている無料の診療所である。地元のロータリークラブの援助も得て活動しているが、財政的にfacility(施設)に限界があることと、薬も足りないと言う状態から、残念ながら現在は十分に機能していない。 ここは、以前洪水の緊急支援で来た際に始めた活動で、当初は一日100人ほどの患者がきていたそうだが、現在では近くに政府のクリニックが出来たために、患者数が減り、毎回平均10人程度しかきていない。 現状では、この状況が変わる見込みは無く、マネージメントを見直す必要があると思われた。

フリーフライデークリニックの診療風景
フリーフライデークリニックの診療風景

3.現地の医療体制の現状

バングラデシュでは、行政単位は大きいほうからdistrict、thana、unionと分かれており、政府の医療機関はunionレベルまで設置されている。

500床を超えるような、大きな病院は、ダッカに集中し、そういった施設では、比較的レベルの高い医療も行われているが、もちろん患者も集中するので、外来の混雑ぶりは悲惨なものがある。入院施設も20人部屋というように、その施設面でも問題が多い。

また、バングラデシュには公的な健康保険はない。代わりに、政府の医療機関では、無料で医療が提供されていることになっている。

しかし、実際には、予算が限られているために、無料診療には限界がある。これは、患者の生活レベルに応じ、本当に貧しいものには無料で診療が行われるが、高価な薬は処方できず、中所得層では、基本的な安い薬は無料であるものの、高価な薬は外の薬局で買ってもらうことになっている。 高所得層には、完全なプライベート診療が政府の病院内でおこなわれていて、医師が直接診察料を取ったりしているという状況が横行している。

政府の病院内にはレントゲンや血液検査はあるものの、フィルムや試薬が無いため検査が出来ないということも頻繁にあるようだ。従って、一般的に政府の病院の評判はよくない。

4.ガザリア地区での活動

ガザリア地区は川に囲まれた地域で、アクセスが悪く、そのため、今まで、他のNGOからも顧みられなかった地域である。ここで、AMDAは1998年にマイクロクレジット事業を開始し、現在1500人ほどのborrower(融資受益者)を有する。

この地域の医療ニーズを把握するために、この地域の政府病院であるタナヘルスコンプレックスでの診療活動と、各ビレッジのマイクロクレジットセンターを回って、特に砒素中毒を含めた健康調査をすることとした。

タナヘルスコンプレックスは、ガザリア地区の唯一の医療機関であり、実働医師は3人、男女13床ずつの一般病棟と5床の下痢専門ベッドがあり、分娩室と手術室、レントゲン、各種血液性化学検査室も存在する。そして実際、各種保健衛生の啓蒙活動についてある程度の実績はあげている。

ここの2002年1月の外来患者の総数は6933人であり、入院患者は延べ170人であった。外来患者は胃腸疾患、潰瘍、小児の呼吸器疾患、皮膚疾患が主なものであった。

入院患者は、この時期、季節的にとくに乳幼児のARIが多かったが、よくコントロールされており、病棟の衛生状態は良くないものの、現地医師の力量はプライマリーケアレベルについては、おおむね問題ない。

しかし、問題点も多く、まず、外来患者が殺到するため、一人当たりに外来診療にかける時間がとれず、ほとんど薬を機械的に出すだけになる場合が多い。患者の待ち時間も長い。 また、各種検査は、院内で行われている形跡が無く、ほとんど外注になるので、コストがかかる。

全身麻酔を要する外科手術は出来ないため、帝王切開から虫垂炎に至るまで、すべてダッカの医科大病院に送られることになる。ちなみに救急車の料金は莫大であり、自前でトランスポートをアレンジすることとなる。

また、コンサルタントがいないので、ちょっと専門的な病気の場合は、これまたダッカに行くことになる。よって、人々は面倒な病気の場合は、初めからダッカや他の地域のプライベート病院に行く。

この地域の幹線道路では、交通事故が多い。ヘルスコンプレックスに運ばれてきても、ちょっと重症の場合、救急蘇生は全く何も出来ないので、すぐ、ダッカに送る。よって、軽度の打撲以上の患者を見ることは出来ない。 従って、コンサルタントレベルの医師、外科手術可能な施設、救急体制の整備が、この地域での課題であると言うことが判明した。

ヘルスコンプレックスの仕事が終わった後、近くの村で、簡単な健康調査を行った。もちろん、医師が来たと言うので、そのまま具合の悪い人が連れてこられ、結局実際は巡回診療のようにもなった。

ガザリア地区の村落での健康調査
ガザリア地区の村落での健康調査

調査は、3つのユニオンの計7つの村、男性22名、女性95名の計117名におこなった。

頻繁な全身倦怠感、体重減少は約80%に見られ、90%の人が何らかの痛みを訴えていた。しかし、これらが慢性砒素中毒の症状と考えるのは早計であり、今後都市部の貧困層で同様の調査をして、検討すべきと考える。 というのは、これらの症状が、劣悪な生活環境や栄養状態、家庭での日々の過剰労働のためとも考えられるからである。

持病は疥癬、潰瘍、不明熱などが主であり、特に子供の疥癬の頻度は極めて高く、巡回して疥癬ローションを配ったりもしたが、これは根本的な衛生環境を変えないと解決にはならないと思われ、対策が求められた。

砒素中毒については、よく啓蒙されており、ほとんどの人は砒素汚染した水を飲んでいないが、老人や子供のなかには現在でも汚染した水を飲んでいるケースも見られた。

巡回の際の簡単な診察
巡回の際の簡単な診察

5.今後のプロジェクトについて

AMDAヘルスセンターの現在の準備状況では、3-4床のベッドを有し、小外科、正常分娩と簡単な血液、尿検査を出来る施設を備えた、一般クリニックとして開院する見込みである。よって、当初はプライマリーケアに重点が置かれることとなる。

将来的には現地の需要を考えると、より高次のサービスを提供する必要があり、これを、医療保険とのコンビネーションで提供することは、マイクロクレジットのプロモートをする意味でも、機能すると思われた。 しかし、それが、安価な医療であらねばならないところがジレンマである。また、救急体制や安価な患者転送のシステムを確立することは急務であり、ダッカのJBFH(日本バングラデシュ友好病院)やDSH(ローカルNGO)と連携することを視野において、ヘルスセンターに関連した課題として、取り組むべきと考える。

今回、住民の健康調査では、特に小児に極めて疥癬の感染率が高いことが分かった。 これは、住環境や同一世帯居住者のすべてを対象として、コントロールする必要があり、そういった意味での、衛生教育を含めた形の巡回診療は、新たなプロジェクトとして進めるのに適しており、後任の神田看護婦に、試験的な実施を依頼した。 効果があるようなら、今後マイクロクレジットセンターを対象として、広く進めていくべきと考える。




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