はじめに: AMDAとザイナル・アビディン病院
「『AMDAが緊急時に医療従事者を必要とする時、ザイナル・アビディン病院は必ず人材を提供します。』 私は、AMDA本部でこう菅波代表にお伝えしたんです。」 日本での3ヶ月間に及ぶ研修を終え、アチェに戻ったザイナル・アビディン病院緊急病棟長アグス医師は、昨年11月、私と行なった病院内でのミーティングで、熱くこう語られた。
アチェ州立ザイナル・アビディン病院とAMDAの関係は、3年前の津波被災直後から始まった。何十という国際機関が一同に支援を提供したアチェ最大の病院であるが、津波被災後、真っ先に支援に入ったのがAMDAであった。2005年3月までの緊急フェーズ3ヶ月間、本棟二階にある、院長用会議室をAMDAの宿舎兼事務所として提供していただいたことで、病院内またコミュニティーへの支援活動を円滑に実施できたことに対しては感謝に絶えない。
また2005年5月から復興支援が始まり、AMDAのカウンター・パートナーとして、主に緊急時に対応できる人材育成事業を約一年間実施してきたことは、AMDAジャーナルでもこれまでも紹介させていただいた。多くの国際機関が、病棟の修繕・改善、医療器具の寄贈など、ハード面の支援に集中する中、「医療従事者が一挙に激減した今、特に救急に対応できる人材を必要としている。」という病院長の言葉を受け、麻酔科医派遣支援活動・看護士派遣研修支援・HOPE(医療機関緊急対応研修)・ATLS(救急医療資格取得研修)を行なった。これらの支援活動を実施する中で、AMDAとザイナル・アビディン病院、特に救急病棟・外科病棟・ICUとの間では、活動の運営を通じ人間関係が、人間関係を通じパートナーとしての信頼関係を構築する事ができた。そして、その信頼関係が協力関係として深まり、今回の北スマトラ北部洪水緊急医療支援合同活動が可能となったのである。
アチェ・タミアン県での緊急医療支援活動開始
「ザイナル・アビディン病院は、12月27日に第1次医療チームを派遣した。」との報告を受け、その第1次チームの司令塔が救急病棟長のアグス医師、現場統括は麻酔科医派遣支援を共に行ったジャマール医師、医師調整員が紛争後の南アチェ県でAMDAの巡回診療に従事した二ジャルリ医師であることを聞き、「ザイナル・アビディン病院が支援を必要とする時、AMDAに必ず連絡を下さい。」と返答した。そしてその直後、ジャマール医師からは医薬品の調達、アグス医師からは第二次医療チーム派遣の支援が依頼がされ、AMDAは支援を決定。12月29日深夜、AMDAとザイナル・アビディン病院との合同緊急医療支援活動が開始されたのである。
AMDAスタッフが、ザイナル・アビディン病院医師らと現地入りしたのが12月30日早朝。被災直後2メートルに及んだ浸水の水はすでに引いていたが、泥の堆積と舞い上がる粉塵が酷い中、被災者らは気が遠くなるような住居や家具の清掃を、黙々と行なっていた。当時の病院内の状況としては、県立病院のスタッフの多くが被災者となったため、救急医療従事者が急激に不足し、ザイナル・アビディン病院の救急病棟に勤める医師と看護士らが投入された。その一方でAMDAの調整員チームは、被災地の情報に精通している現地NGOを訪問した。
「今、届けられている支援にギャップが生じ始めています。最も被害を受けながらも、交通網が遮断されたために支援が届いていないスンガイ・イユ郡にAMDAは入ることが可能ですか。」
「AMDAとしてはその現場を是非見たい。現場へ行くための交通手段の確保と、村民と我々を繋ぐ橋渡しの役割をお願いします。」
「それでは、ボートと調整役をしている現地のボランティアを提供しましょう。」
この翌日の大晦日である12月31日、AMDA調整員チームはスンガイ・イユ郡での現地調査を開始。30cmほど堆積した泥道を素足で歩き情報収集を行なった。 「通常は群の中心部から車輌で20分程度の陸路が完全に不通となったため、この村までは2時間半をかけて漁船で川を渡らなければなりません。その上堆積した泥はこの有様です。医療チームはこの村までは来ることができませんでした。」
「では、AMDAの医療チームが入りましょう。」
この現地調査の後、アチェ・タミアン県保健省およびスンガイ・イユ郡保健所に現場の状況と、AMDAとして巡回診療を実施する意思を伝え、両者からも支援の依頼を受けた。病院での医療活動に従事してきたザイナル・アビディン病院の医師らとも調整を行い、医療チームを二分し病院とコミュニティーでの診療活動を同時並行で行なうことを決定する。
またその翌週、アチェ・タミアン県保健省の新たな支援アプローチとして、各NGOは郡単位で支援を行っていくとの報告を受け、AMDAは引き続きスンガイ・イユ郡の担当となった。更に、郡保健所が一刻も早く通常の機能を回復することができるよう、ザイナル・アビディン病院からの医療チームを三分し、医師と看護士をスンガイ・イユ郡保健所にも投入した。「AMDAから派遣されたザイナル・アビディン病院の医師と看護士により、24時間体制で入院患者を受け入れ、緊急手術を行なうことができています。患者は他の郡からも来ているほどです。」とは、群保健所の医師と所長から受けた言葉である。
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