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ザンビア:結核DOTSプロジェクト
結核DOTSプログラムに関わって
 
AMDAザンビア メスリン・マンダ (健康教育係)

 結核はザンビアにおいて主な死因の一つであり、入院患者のうち13%が結核患者とも言われています。結核はその感染者がエイズ患者と大きな相関関係があること(免疫力が下がったエイズ患者は結核を始めとする様々な感染症にかかりやすくなります)、また薬や医療用具の不足により、その対応は困難を極めています。こうした状況では医療関係者のみに解決策を求めるのは得策ではないでしょう。ザンビアの状況を改善するには、医療関係者とコミュニティーが連携し協力することが求められているのです。

 AMDAザンビアは2003年からジョージコンパウンドでの結核対策に取り組み始めました。2005年にはジョージ地区のプロジェクトは拡大に加え、新たにカニャマコンパウンドも対象地区に加わりました。AMDAはルサカ市保健省と協力して、ジョージ地区76名、カニャマ地区89人の結核治療サポーターのトレーニングを行いました。

 トレーニングを受けたサポーターたちは以下のような活動を行うことになります。
・ 結核治療、結核患者と患者台帳の管理にかかる医療スタッフの業務を支援する。
・ 結核患者の家庭訪問を実施することによって、投薬、容態を確認し、更には患者と家族に対する精神的サポートを行う。
・ 病院、患者自宅、また公共の集まりなどにおいて健康教育を実施する。
・ 地域の人々を対象に結核治療・予防に対する正しい理解を普及するよう働きかける。差別や偏見を軽減し、結核の蔓延を予防する。

 結核治療サポーターの業務は、病院において本来結核患者に対し、より効率的・効果的に対応すべき医療関係者の負担を劇的に軽減しています。また、結核治療サポーターは現在結核患者、そして患者の家族間との良好な関係を築いていることによって、業務をより効果的に行うことができています。このことにより、患者の投薬継続を励まし、脱落者(完治するまでに投薬をやめてしまう患者)を探し出す業務は格段に効果が上がっています。

 

「結核は正しい治療を受ければ完治する」という認識も徐々に普及しています。(以前までは多くの人が結核と診断されることは死刑判決を受けるのと同じように受け取っていたのです。)彼らは結核に対する差別や偏見も克服するよう努めています。医療関係者と緊密な関係を保つことによって地域の人々はサポーターに多大な信頼を置いており、また同時に医療関係者と地域の人々との橋渡しの役割をも果たしているのです。その結果、地域の人々の中に自信が芽生えて来たようです。

 しかしながら、これらの地域の結核撲滅にはいまだ多くの課題も残っています。結核患者が就業している場合には2ヶ月の治療休暇を与えるという決まりがあるにもかかわらず、実際には難しい場合が多く、特に結核感染者が一家の大黒柱であった場合、その家庭にとって経済的影響は深刻です。失業した結核患者は経済的に困窮し、時に食べ物を求めてくることもあります。介護者のいない末期結核患者もサポーターにとっては深刻な課題です。このような場合、持続可能な開発を目標とする国際NGOであるAMDAができることには限界を感じることもあります。AMDAが始めた事業はAMDAが去った後も続いていくことが大切なのですから。故に、「地域の中で助け合う」というシステムがより発展していくことが求められているのです。
プロジェクト中間評価後、そして終了時評価に向けて
 
AMDAザンビア 木下真絹子 
(結核対策プロジェクトマネージャー)

 結核対策プロジェクト事業がザンビア国ルサカの非計画居住地区(コンパウンド)のジョージとカニャマ地区で開始して以来7月で1年が過ぎ、中間評価の時期を迎えた。評価者として鈴木理事に来ザしていただき、実施された。プロジェクト活動の進捗状況の確認に加え、評価5項目(妥当性、有効性、効率性、インパクト、自立発展性)の中でも特に妥当性、有効性、自立発展性の3点を評価の重点項目として評価が実施された。
 この2つの地区はルサカの非計画居住地区の中でも一番人口の多い地区で、両地区合わせて25万人が住んでいる。これら保健センターには約1,700人から2,500人ほどの結核患者が登録されている。

本結核対策プロジェクトの目標はこれらの結核患者の結核治療の効果が向上することである。それは結核患者の治癒率を上げることを意味しており、そのために患者は約8ヶ月間のあいだ毎日薬を飲まなければならない。そのためにさまざまな角度から活動を展開しており、本事業の活動の最前線に結核治療サポーター(以下サポーター)がいる。彼らはコミュニティーのヘルスボランティアさんである。育成されたサポーターは保健センター結核コーナーでの服薬モニタリング活動の支援、結核患者への家庭訪問の実施、結核患者データ管理向上の支援、コミュニティーでの結核に対する知識向上のための保健教育の実施など、治癒率を上げるために、大いに活躍する。

プロジェクトの妥当性、有効性、自立発展性
妥当性: ルサカではHIVの蔓延に伴い、HIV感染と深い因果関係にある結核の新規感染件数は過去20年で6倍近くにも膨れ上がった(1984年には人口10万人あたり100であったのが2004年には10万人あたり580にまで上昇)。よってこれまでザンビアでも他の疾患の影に隠れがちであった結核の対策は急務である。ザンビア国でも世界保健機関(WHO)が推進する結核治療法である直接監視下短期化学療法(DOTS=Directly Observed Treatment Short-course)を90年代より導入している。しかし財政難に伴い医療従事者が国外に流れさらにはエイズで亡くなる医療関係者が増え、患者の数に対して医療従事者の数が全く不足している中(現在結核コーナーでは1,700人の患者に対しジョージ、カニャマでそれぞれ2名のナースが従事しているだけである)、草の根レベルで活動をするサポーターの育成を通じてコミュニティーDOTSを促進する本事業の妥当性は高いと評価を受けた。 有効性:  家庭訪問の対象となっている結核患者へのインタビューによると、サポーターは服薬モニタリングの支援だけでなく、患者への精神的な支えになっているとのコメントを得た。孤独な闘病生活の中、希望を持つために一緒にお祈りをしたり、患者の家族に対しても保健教育や治療支援に関してアドバイスを与えることもある。また、家庭訪問開始時はベットから起き上がれなかったのが、サポーターの家庭訪問支援のおかげで治療数ヶ月を過ぎると体重も食欲も戻り、今では小規模ビジネスを始めたという患者もいた。しかし、本プロジェクトのコミュニティーDOTS活動支援によって治療効果の向上(治癒率の上昇、脱落率の減少、患者死亡率の低下)を導くことを図るにはまだ時間が必要だといえる。その結果は終了時評価時に成果を測る予定である。また、NGOの柔軟な特色を活かして本プロジェクトは現場レベルで患者や患者の家族、さらにコミュニティーが抱える問題や懸念を、保健センターや行政レベルにまで反映させる重要な役割を果たしていると評価された。
自立発展性: そもそもサポーターの有効活用はザンビア国家戦略プランに組み込まれており、本事業が終了しても継続が期待される。育成されたサポーターは"AMDAのサポーター"ではなく、"ルサカ保健センターに所属するサポーター"であり、また "自分たちのコミュニティーに貢献するサポーター"であるという意識を持ってもらうよう強調している。そのためには、プロジェクトが終了しても、保健局が引き続きサポーター育成研修を毎年実施していくように今後も促していく必要がある。また、サポーター活動の自立と継続のために、サポーターグループの小規模ビジネスの立ち上げを支援しており、養鶏ビジネスから得た利益の還元が、今後サポーター活動のインセンチブの一部になれば自立発展性は高いを考えられる。
プロジェクト終了時に向けての課題
 中間評価報告を終えた現在、2007年12月のプロジェクト終了時に向けて、今後よりより成果を出すためにプロジェクトスタッフ一丸となって日々活動を遂行している。そのために取り組むべき今後の課題も見えてきた。
結核患者データ管理能力の強化支援:
 そもそも保健センターにおける結核患者データ管理能力は十分でない。よって今後保健センター・保健局のデータ管理強化の支援にも力を注いでいくことになった。まず手始めとして、先日ジョージ保健センターでカルテの一掃整理を行った。2005年より治療を始めた患者で、途中で服薬をストップしてしまった患者カルテや治療完了の確認ができていないままになっている患者カルテの数は230以上にも及んだ。それらの患者は治療中に死亡したのか、他の保健センターに移ったのか、それとも治療を完全に脱落したのかはミステリーのままである。今後サポーターを通してフォローアップしていく予定だが、正しく住所を記載している患者カルテは半数以下(多くの住民は自分の住所を知らない)であり、今度どのようにフォローアップしていくのか考えていかなければならない。カルテの整理・保管ができるようになった後で、本格的にデータ管理強化を支援していくことになる。
結核患者コホート調査準備:
 上記でも書いたように、現在の保健局の結核患者のデータに誤差があることもあって、プロジェクト側でも成果を示すために別に患者のコホート調査に乗り出すことになった。ある特定の月の新規患者(ジョージで平均約100人、カニャマで平均200人の患者が新規登録される)を治療開始から完了までフォローアップして、彼らの治癒率、脱落率、死亡率を調査していくのである。ジョージ・カニャマ地区だけでなく、比較対象地区(チパタもしくはチャワマ)でもコホート調査を実施することを検討している。来年初めに調査を開始できるよう、そろそろ準備を始めることになる。
サポーター育成:
現在、100人のアクティブサポーターが毎日活躍している。プロジェクト目標である患者10-12人に対して1名のサポーターが割り当てられるように今後サポーター育成に取り組んでいかなければならない。8月現在1,700人の患者が登録されており、目標達成には少なくとも計140人のサポーターが必要で、現在は40名のサポーターが不足している。ただ単にサポーターの数を揃えるのではなく、サポーターのドロップアウト率を下げ、活動にコミットメントが高いサポーターの選出と育成が鍵を握っている。
子供結核患者のための服薬モニタリング:
 大人の結核患者とは別に子供の結核患者の服薬モニタリングには特に注意を払わなければならない。家族、特に母親が結核になると子供に結核を移すことはよく知られている事実であり、実際にカニャマでは子供の患者の6割以上が家族の中で結核を患っている人がいることが分かった。結核に罹った小さな子供は、薬の服用方法を母親など他のメンバーに頼らなければならず、どうしても毎日の服用が簡単ではない。実際に患者データを調査したところ、大人の結核患者に比べて子供の結核患者のほうが、治療を中断している、もしくは治療完了の確認ができていないことが
分かった。大抵の場合、子供の結核の診断は保健センターでは難しく、ザンビア大学教育病院で行われる。その後、近くの保健センターで治療を受けることになるが、治療経過の際のテストは病院に行かなくてはならず、どうしても子供患者および家族の負担は大きい。その過程で子供の患者をフォローすることができなくなることが多い。この事実を踏まえ、今後子供患者の服薬モニタリング向上のために、結核を患う子供を持つ母親を定期的に集め(母親のための"結核クラブ")、保健・栄養教育を指導したり、情報交換できる場を設けることも案にあがっている。

結核・HIV/エイズ統合に向けて:

 
 結核患者の多くはHIV感染をしており、HIV/エイズの知識なしには結核患者への十分なケアは難しくなっている。そうした背景でルサカでも結核患者対象としたHIVテスト・カウンセリングが開始されたが、実際にHIVテストを受ける患者はまだまだ少ない。カニャマでは先月、カウンセリングを受けた新規登録患者200人のうち、80人がHIVテストを受ける意思を示したが、結局テストを受けたのはたったの42人であった(そのうち40人がHIV陽性の結果となった)。 ますます結核・HIV/エイズすべてに対応できるサポーターの需要が高くなってきており、サポーター研修によって対応していかなければならない。

結核患者が"どうしたら毎日薬を飲み続けることができるか"これは結核対策のテーマである。

 
ルサカ・ザンビアでの結核・HIV/エイズ統合に向けて
ルサカ市保健局 結核・HIVオフィサー グラハム・サムンゴレ

 人口1,100万ほどのザンビアは世界でも人口密度の低い国の1つである(ザンビア国人口密度:1平方キロメートルあたり13人)。しかしながら、ザンビアの首都ルサカには約160万人が住んでおり、南部アフリカ地域の中でも最も人口が密集している都市として知られている(ルサカ人口密度:1平方キロメートルあたり65.4人)。

 さて、ザンビアの結核患者の通知数はここ20年間で大きく増加している。1984年は人口10万人あたり100件であったのが、2004年には580件にまでに達した。そのうち30%がルサカ都市部の患者で占められている。

1980年代後半以降の結核件数の増加は主にHIVの流行が起因しており、実際に約50-70%の結核患者はHIVと二重感染していると言われている。このような結核・HIV/エイズ流行の関係性から、結核患者の間でHIV感染を早期に発見するために保健省は今年はじめより結核患者を対象に行うHIV診断・カウンセリング・テスト(DCT)の導入を開始した。

 DCT: Diagnostic Counseling and Testing(診断的カウンセリング&テスト)とは、VCT: Voluntary Counseling and Testing(自発的カウンセリング&テスト)と違い、HIV感染が起因とされる兆候や症状を持つ(結核)患者を対象に医療従事者(ヘルスワーカー)によって行われる。DCT導入により、同じ医療施設内で結核・HIV重感染症患者の総合的なケアと治療を最短時間で提供することを目的としている。しかしながらVCTと同様、HIVテストは義務ではなく、最終的には患者自身がテストをするかどうかを決めることになる。
 ルサカでは実際にDCTによってHIVテストを受けた結核患者の70-80%近くはHIVに感染していることが分かっている。しかし、未だに多くの患者はHIVテストを受けることを拒否しており、このことは結核患者や患者家族の間で、そして地域住民の中でHIVテストの重要性の理解と意識が低いことが原因と考えられる。

この現状に対応するために、今後地域レベルでポスターやパンフレットを効果的に使いDCT促進キャンペーンや啓蒙活動を展開する必要がある。さらに、HIVに感染した患者に対して、現在無料で抗エイズ治療が受けられるというような情報も啓蒙活動を通じて提供していく必要もある。
 そのような中、ルサカ郡保健局結核プログラムチームは、結核・HIV統合サービスに貢献している中央政府や他の関係者団体に感謝している。AMDAザンビアもステークホルダーの団体の1つであり、結核(およびHIV)に関する教材のデザイン・作成や結核治療サポーターの育成などの分野で協力を得ている。これらの活動はすべて、「患者が毎日薬を飲み完治すること」を目的としており、毎日の服薬が必要な結核対策においても抗エイズ治療においてもこのことは非常に重要な要素である。

 その他に結核・HIV/エイズ統合活動を今後さらに展開していく際にヘルスワーカーのトレーニングは欠かせない。2005年にJICAザンビア事務所の支援により実現した日本での研修(ストップ結核トレーニングコース)で習得した私の技術と知識は、その後現場で大いに役立っており、その機会を与えていただいたことに深く感謝している。

 


 

 

 

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