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結核対策プロジェクト事業がザンビア国ルサカの非計画居住地区(コンパウンド)のジョージとカニャマ地区で開始して以来7月で1年が過ぎ、中間評価の時期を迎えた。評価者として鈴木理事に来ザしていただき、実施された。プロジェクト活動の進捗状況の確認に加え、評価5項目(妥当性、有効性、効率性、インパクト、自立発展性)の中でも特に妥当性、有効性、自立発展性の3点を評価の重点項目として評価が実施された。
この2つの地区はルサカの非計画居住地区の中でも一番人口の多い地区で、両地区合わせて25万人が住んでいる。これら保健センターには約1,700人から2,500人ほどの結核患者が登録されている。
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本結核対策プロジェクトの目標はこれらの結核患者の結核治療の効果が向上することである。それは結核患者の治癒率を上げることを意味しており、そのために患者は約8ヶ月間のあいだ毎日薬を飲まなければならない。そのためにさまざまな角度から活動を展開しており、本事業の活動の最前線に結核治療サポーター(以下サポーター)がいる。彼らはコミュニティーのヘルスボランティアさんである。育成されたサポーターは保健センター結核コーナーでの服薬モニタリング活動の支援、結核患者への家庭訪問の実施、結核患者データ管理向上の支援、コミュニティーでの結核に対する知識向上のための保健教育の実施など、治癒率を上げるために、大いに活躍する。
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プロジェクトの妥当性、有効性、自立発展性 |
妥当性: ルサカではHIVの蔓延に伴い、HIV感染と深い因果関係にある結核の新規感染件数は過去20年で6倍近くにも膨れ上がった(1984年には人口10万人あたり100であったのが2004年には10万人あたり580にまで上昇)。よってこれまでザンビアでも他の疾患の影に隠れがちであった結核の対策は急務である。ザンビア国でも世界保健機関(WHO)が推進する結核治療法である直接監視下短期化学療法(DOTS=Directly
Observed Treatment Short-course)を90年代より導入している。しかし財政難に伴い医療従事者が国外に流れさらにはエイズで亡くなる医療関係者が増え、患者の数に対して医療従事者の数が全く不足している中(現在結核コーナーでは1,700人の患者に対しジョージ、カニャマでそれぞれ2名のナースが従事しているだけである)、草の根レベルで活動をするサポーターの育成を通じてコミュニティーDOTSを促進する本事業の妥当性は高いと評価を受けた。 |
有効性: 家庭訪問の対象となっている結核患者へのインタビューによると、サポーターは服薬モニタリングの支援だけでなく、患者への精神的な支えになっているとのコメントを得た。孤独な闘病生活の中、希望を持つために一緒にお祈りをしたり、患者の家族に対しても保健教育や治療支援に関してアドバイスを与えることもある。また、家庭訪問開始時はベットから起き上がれなかったのが、サポーターの家庭訪問支援のおかげで治療数ヶ月を過ぎると体重も食欲も戻り、今では小規模ビジネスを始めたという患者もいた。しかし、本プロジェクトのコミュニティーDOTS活動支援によって治療効果の向上(治癒率の上昇、脱落率の減少、患者死亡率の低下)を導くことを図るにはまだ時間が必要だといえる。その結果は終了時評価時に成果を測る予定である。また、NGOの柔軟な特色を活かして本プロジェクトは現場レベルで患者や患者の家族、さらにコミュニティーが抱える問題や懸念を、保健センターや行政レベルにまで反映させる重要な役割を果たしていると評価された。 |
自立発展性: そもそもサポーターの有効活用はザンビア国家戦略プランに組み込まれており、本事業が終了しても継続が期待される。育成されたサポーターは"AMDAのサポーター"ではなく、"ルサカ保健センターに所属するサポーター"であり、また
"自分たちのコミュニティーに貢献するサポーター"であるという意識を持ってもらうよう強調している。そのためには、プロジェクトが終了しても、保健局が引き続きサポーター育成研修を毎年実施していくように今後も促していく必要がある。また、サポーター活動の自立と継続のために、サポーターグループの小規模ビジネスの立ち上げを支援しており、養鶏ビジネスから得た利益の還元が、今後サポーター活動のインセンチブの一部になれば自立発展性は高いを考えられる。 |
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プロジェクト終了時に向けての課題 |
中間評価報告を終えた現在、2007年12月のプロジェクト終了時に向けて、今後よりより成果を出すためにプロジェクトスタッフ一丸となって日々活動を遂行している。そのために取り組むべき今後の課題も見えてきた。 |
結核患者データ管理能力の強化支援:
そもそも保健センターにおける結核患者データ管理能力は十分でない。よって今後保健センター・保健局のデータ管理強化の支援にも力を注いでいくことになった。まず手始めとして、先日ジョージ保健センターでカルテの一掃整理を行った。2005年より治療を始めた患者で、途中で服薬をストップしてしまった患者カルテや治療完了の確認ができていないままになっている患者カルテの数は230以上にも及んだ。それらの患者は治療中に死亡したのか、他の保健センターに移ったのか、それとも治療を完全に脱落したのかはミステリーのままである。今後サポーターを通してフォローアップしていく予定だが、正しく住所を記載している患者カルテは半数以下(多くの住民は自分の住所を知らない)であり、今度どのようにフォローアップしていくのか考えていかなければならない。カルテの整理・保管ができるようになった後で、本格的にデータ管理強化を支援していくことになる。
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結核患者コホート調査準備:
上記でも書いたように、現在の保健局の結核患者のデータに誤差があることもあって、プロジェクト側でも成果を示すために別に患者のコホート調査に乗り出すことになった。ある特定の月の新規患者(ジョージで平均約100人、カニャマで平均200人の患者が新規登録される)を治療開始から完了までフォローアップして、彼らの治癒率、脱落率、死亡率を調査していくのである。ジョージ・カニャマ地区だけでなく、比較対象地区(チパタもしくはチャワマ)でもコホート調査を実施することを検討している。来年初めに調査を開始できるよう、そろそろ準備を始めることになる。
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サポーター育成:
現在、100人のアクティブサポーターが毎日活躍している。プロジェクト目標である患者10-12人に対して1名のサポーターが割り当てられるように今後サポーター育成に取り組んでいかなければならない。8月現在1,700人の患者が登録されており、目標達成には少なくとも計140人のサポーターが必要で、現在は40名のサポーターが不足している。ただ単にサポーターの数を揃えるのではなく、サポーターのドロップアウト率を下げ、活動にコミットメントが高いサポーターの選出と育成が鍵を握っている。
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子供結核患者のための服薬モニタリング:
大人の結核患者とは別に子供の結核患者の服薬モニタリングには特に注意を払わなければならない。家族、特に母親が結核になると子供に結核を移すことはよく知られている事実であり、実際にカニャマでは子供の患者の6割以上が家族の中で結核を患っている人がいることが分かった。結核に罹った小さな子供は、薬の服用方法を母親など他のメンバーに頼らなければならず、どうしても毎日の服用が簡単ではない。実際に患者データを調査したところ、大人の結核患者に比べて子供の結核患者のほうが、治療を中断している、もしくは治療完了の確認ができていないことが
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分かった。大抵の場合、子供の結核の診断は保健センターでは難しく、ザンビア大学教育病院で行われる。その後、近くの保健センターで治療を受けることになるが、治療経過の際のテストは病院に行かなくてはならず、どうしても子供患者および家族の負担は大きい。その過程で子供の患者をフォローすることができなくなることが多い。この事実を踏まえ、今後子供患者の服薬モニタリング向上のために、結核を患う子供を持つ母親を定期的に集め(母親のための"結核クラブ")、保健・栄養教育を指導したり、情報交換できる場を設けることも案にあがっている。 |
結核・HIV/エイズ統合に向けて:
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結核患者の多くはHIV感染をしており、HIV/エイズの知識なしには結核患者への十分なケアは難しくなっている。そうした背景でルサカでも結核患者対象としたHIVテスト・カウンセリングが開始されたが、実際にHIVテストを受ける患者はまだまだ少ない。カニャマでは先月、カウンセリングを受けた新規登録患者200人のうち、80人がHIVテストを受ける意思を示したが、結局テストを受けたのはたったの42人であった(そのうち40人がHIV陽性の結果となった)。 |
ますます結核・HIV/エイズすべてに対応できるサポーターの需要が高くなってきており、サポーター研修によって対応していかなければならない。
結核患者が"どうしたら毎日薬を飲み続けることができるか"これは結核対策のテーマである。
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