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ペルー活動報告
 
AMDAペルー ウイリアム・イナフク
(翻訳 藤井 倭文子)
 ペルー共和国では貧富の差が非常に激しく、全人口2,720万人のうち50%以上は貧困層で、約20%は最貧困層である。人口の3分の1は首都リマ市に集中し、同市の貧困層はプエブロ・ホーベンと呼ばれる診計画居住地区に住んでいるが、そこでは、様々な公衆衛生の問題を抱え、それが原因で呼吸器系感染症、下痢、栄養障害、母子の健康問題等に苦しんでいる。
 こうした状況に鑑み、保健省は、健康の推進と病気の予防に関するガイドラインを策定し、不十分な環境衛生、母子の栄養失調の改善などに努めている。
 私たちが活動するカラバイヨ地区は、リマ市の北部に位置する貧困層の居住地域であり、こうした保健問題をすべて抱えているといっても過言ではない。人口約15万人のほとんどが地方から移住して来た貧困層である。不十分な公共サービス、住民の社会的・経済的な理由により、保健医療サービスへのアクセスが非常に限られている。
 この状況が、住民を様々な保健・公衆衛生の問題に直面させているが、中でも母子の栄養に関する問題は最も深刻である。知識の不足による栄養障害は周産期の女性や乳幼児の生命を脅かしている。特に若年層の出産件数が多く、彼女達は、栄養や母子保健に関する正確な知識を持たず、医療従事者や隣人からのサポートもほとんど得られないまま出産している。

 カラバイヨ地区では、妊娠中の女性や母親の約20%は若年層で、地域の保健所によると彼女らの3分の1は栄養上の問題をかかえている。母親の栄養障害は、その子供たちの栄養の問題につながる。これらの状況を改善するためには、地域の保健に対応する能力を向上させることが重要であるが、その一つの方法が、地域住民へ保健教育ができる保健ヘルスプロモーターを育成することである。母子の栄養に関する問題は様々な病気につながり、生命までも脅かすことになるため、早急に対応する必要がある。
 この様な保健課題に対する地域の対応の一つが、COSACA(カラバイヨ地区保健委員会)の設置である。この委員会は、保健所、保健医療関係のNGO、同地区の代表者などにより組織され、地域の保健医療活動をより効果的・効率的に行えるよう調整している。
 ペルー共和国の保健に関する戦略では、栄養改善と妊産婦・乳幼児の死亡率を低下させること、さらにそのために地域の能力を向上させることを優先課題としている。AMDAペルーでは、これらの状況に鑑み、下記の2つの事業を実施している(1事業は終了)。

住民の保健活動支援プロジェクト

 フェリシモ地球村の基金の支援によるこのプロジェクトは2005年7月から2006年6月まで実施された。プロジェクトの目標は、保健プロモーター(ボランティア)の育成を通じた地域の保健に関する能力向上である。保健プロモーターは、主に住民への保健衛生教育、コミュニティ薬局運営の中心的な役割を果たす。地元の保健所やNGO(SES: Socios En Salud) と協力して研修を行い、合計48人の保健プロモーターを育成することができた。
 研修を受けた保健プロモーターは地元住民に対して、参加型の保健教育ワークショップを行った。教育内容は母子保健、栄養、水と衛生、感染症(HIV/AIDS,結核)及びリプロダクティブヘルスに関するものである。この保健教育では、ゲーム、グループワークやロールプレイなどの参加型の手法を活用しながら行い、合計2,684人に対して教育を行うことができた。
 また、このプロジェクトでは、カラバイヨ地区内の3箇所にコミュニティ薬局を設置し、保健プロモーターがそれを運営している。コミュニティ薬局は、基本的な薬品を低価格で提供できる継続可能なシステムである。薬品の販売から得た収益は薬品の補充に使われている。AMDAは既にホンジュラスで同様のプロジェクトを実施しており、このプロジェクトでペルーへも適用させることとなった。
 薬局では、抗生剤や解熱剤などの医薬品を入手することができると同時に、簡単な身体測定や応急処置が受けられるようになっており、プロジェクト終了までに1,098人が薬局を利用した。

 コミュニティ薬局の効果の主なものとして以下の点が挙げられる。


保健プロモータ育成ワークショップ


開設されたコミュニテイ薬局

  • 保健サービスが近くなった。一番近くの保健所へ行くためには数キロも歩かなければならなかったが、現在では薬局まで数百メートルに短縮された。
  • 安全と信頼:コミュニティ薬局は、その地域の誰かの家で運営されているため、遠く町を離れて出かけて事件や事故に遭うような心配もない。
  • 簡単な健診が受けられる。住民はコミュニティ薬局で保健プロモーター(時には巡回医師)に相談することができる
  • 経済的である。価格が安いことに加え、近いため交通費も少なくて済み、かつ、受診に掛かる費用も安い。
  • 住民が利用できるスペースが確保された。コミュニティ薬局も地域のイベント等に利用されている。
栄養・母子保健に関する住民のエンパワーメント支援プロジェクト
  味の素「食と健康」国際協力支援プログラムの支援によるこのプロジェクトは十代の妊婦や母親に焦点を当て、栄養・母子保健に関する住民のエンパワーメントを目指し、2006年4月から2009年3月までの3年間の予定で実施されている。

 このプロジェクトは以下3つの活動から成る。


保健プロモータの育成
(栄養につぃて)


保健プロモータの育成
(栄養につぃて)

  1. 保健プロモーターの育成:コミュニティの住民の中から保健プロモーターを育成する。経験と専門的知識を持つプロジェクトのスタッフが医療や教育分野の専門家と協力して研修を実施する。
  2. 栄養と母子保健に関する教育:研修を受けた保健プロモーターは、コミュニティの妊産婦・母親を対象に栄養と健康について教育を実施する。研修は、ゲーム、グループワーク、調理実習など通じて、母親の積極的な参加を促しながら、実施される。
  3. コミュニティ(母親)グループの組織:保健プロモーターのサポートの下、教育を受けた女性が中心となってコミュニティグループを組織する。同グループは、コミュニティにおける栄養や母子保健に関する活動を推進していく役割を果たす。
 現在、プロジェクトでは、保健プロモーターの育成を行っており、全10回の研修のうち7回目が行われたところである。間もなく、保健プロモーターは、地域の(特に若い)妊産婦や母親に栄養と母子保健に関する教育を行えるようになる。また、この保健教育には、保健プロモーターのうち、ある一定の経験者1人と若者1人の2人一組であたることとなる。

 このプロジェクトにおいて最も重要なことは、地域住民(特に妊産婦・母親)の「エンパワーメント」である。栄養や母子保健に関する基本的な知識が、母と子の健康を守る力の向上に寄与する。その仲介役を果たすのが、住民から育成された保健プロモーターたちである。住民の力によって健康を向上させること、それがこのプロジェクトの目指すものである。

 


 

 

 

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