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ミャンマー国 
コーカン特別地区におけるプロジェクト
 
AMDAミャンマー(コーカン)
Nay Zin Latt(プロジェクト調整員)
 
 コーカン地区は中国雲南省国境沿いに位置する山岳地帯にある。耕作できる土地は限られているが、農業がコーカンの人々にとって唯一の生活手段である。その上気候は厳しく、お茶や他の農産物の栽培にも悪影響を与えている。2002年のケシ栽培の根絶と撲滅禁止後、住民はその将来について大きな課題に直面した。
同地区には、コーカン、パラウン、ミャンウンジー、そしてシャンなどの民族が住んでいる。中でも、パラウンとミャンウンジーは、非常に不便な山里に暮らしている。彼等は貧しく、耕作するにも所有する土地がなく、過半数を占める土地を持つコーカン族に仕える小作労働者となった。この様な状況の中で、彼等にとっての関心事は一日一日を凌いでいくことで、低収入ゆえに医療費や教育費に回す経済的余裕はない。

村に駐在する助産婦と筆者(左)
農業:
 コーカン族は換金作物のサトウキビ、とうもろこし、お茶などを栽培し、中国への輸出に力を入れている。中国市場における農産物価格は不安定であり、大幅な下落も経験している。一部の地域では、低地に販売用の米を作り、高地に家族のための米を作る工夫をしている。しかしながら家族のための十分な米の確保は難しく、年間4〜8ヵ月分がやっとである場合が多い。
健康:
 コーカン地区にはラオカイ市にベッド数50床を持つ病院が1つ、コンジャン郡区とチンシュウハウ郡区に25床ある病院が各1つ、ミャンマー政府保健省の管理下に7つのBACs(国境地域診療所)がある。コーカン当局は中国側の病院と協力して50床ある病院と多くの私設クリニックをラオカイに建てた。実際のところ、総人口の1割以下の住民がラオカイ市に住み、残り9割の住民は辺ぴな村に住んでおり、十分な公共医療サービスや公衆医療サービスが行き届いているとは言えない。
水と公衆衛生:
 コーカン地区には297の村落があるが、国際支援が入る以前に、安全な水の供給があるのは一割の村にすぎなかった。年間を通じて寒く、村民は定期的に入浴もできない。トイレを使う習慣もない。家には窓が少なく台所は家の中にあり、換気装置もなく、喫煙パイプを共有するため、急性呼吸器疾患にかかる可能性も高い。また家屋、敷地内における家畜飼育は、動物の疾病が人体に影響を及ぼすかも知れない。

 AMDAはWFP(世界食糧計画)と協力してシャオカイ村区とマンロー村区域の30村にて緊急食糧支援プロジェクトを実施している。食糧配布を通じたフード・フォー・ワークという形で、社会基盤の建設や修復、モデルトイレの建設、安全な水、畜産、漁業等に関する活動を実施している。
 一方、2004年10月からBACsのある 村落を基点に、10の事業対象村においてプライマリーヘルスケアプロジェクトを実施している。私達は安全な水へのアクセス、衛生に対する知識が乏しく、また環境衛生、適切な医療サービスも受けられず暮らしているコミュニティがあることを知った。ほとんどの母親は6人から9人出産し、そのうち5割から6割が生存し、残りは死産か成長の過程で死を迎えていることが判明した(特にパラウン族の村)。
 私達のプロジェクトのゴールは対象地域の医療と衛生状態の改善で、特に母と子の状態が改善されることである。ゴールに達成するために私達は下記に述べる5つの主な活動をコーカン地区で実施している。

1. 定期的な医療クリニック − 各村で月2回実施:

 2004年1月から延べ5千人以上の患者に治療を行なってきた。村のクリニックへは2人の医師、3人の地元スタッフが医療チームとして村に赴き、必要に応じてその他のスタッフの助けも得ている。また、クリニックで診療を行う際には、村の保健ボランティアやリーダー達のグループも手助けをしている。保健ボランティアとAMDAのスタッフへはクリニックを開く前に保健教育を実施している。
 5歳以下の乳幼児や、授乳中の母親及び妊婦には無料で診療を行っている。また、それ以外の患者はその村のコミュニティ医療資金として、薬代の25%を支払っている。村には2−3日滞在し、その期間中に出産前/出産後の管理のために往診を行なっている。夜間には健康教育に関するビデオを上映し、村の医療と衛生状態について村人に指導している。医療チームは事業対象村のみならず、他の村で突発的なけが人や病人が発生した場合にも対応している。地元医療従事者と協力して政府の予防接種プログラムも支援している。

村人による保健教育が実施された
2. 母と子のための栄養プログラム:

 このプログラムはAMDAがWHPの協力パートナーとして実施している。 2005年に、コーカン地区の20村を対象に栄養に関する調査を実施した。長期にわたる健康と栄養障害は社会経済の赤字によるもので、その影響は今なお続いている。現在の栄養不足・栄養不良への対応として、5歳以下の乳幼児へは、栄養補給と医療面での更なる支援が必要である。
 現在試験的に2村で実施しているこのプログラムを、将来は他村へも広げたいと計画している。
私達は3歳以下の乳幼児、授乳中及び妊娠中の母親に栄養補助食品の配布を行っている。配布の際には体重と身長を記録し、栄養状態の改善状況を観察しながら、相談やアドバイスを行なっている。

3. ボランティア研修プログラム:

 私達は既に10の村で4回にわたり56人の保健ボランティアに健康に関する知識と応急手当についての研修を実施した。彼等が習得した知識をコミュニティに広め、必要に応じてけが人や病人を適切に医療サービス機関へ紹介することを期待している。私達は保健ボランティアがBACs、ラオカイ病院などの医療サービスとコミュニティの繋ぎ役となり、将来大きな役割を果たすことを望んでいる。

4. 水と衛生プログラム:

 私はパラウン族の村で殆ど入浴もせず、汚れた服を着ている子供達を見るにつけ不憫に思う。学校教育を受けていないことにより、保健についての知識が乏しくなり、下痢、皮膚感染をひきおこす原因となる。彼等の暮らしにおける習慣には時折驚かされる。
 前述のとおり、安全な水の供給を受けているのは全村民の一割以下である。私達は流下式給水システムを用いて天然水源から安全な飲料水に変えて、村へ水を供給するプロジェクトを住民参加型で行っている。
 村人は資金や技術が乏しく、給水設備を設置できず、中には海抜200メートルの山頂から山を下って水汲みをしていた(それも不安全な排水)住民もいた。現在では、村人自身により新しい水槽を設置するための追加工事をすすめている。プライマリーヘルスケアチームはこのプログラムの効果として、住民が定期的に入浴するなど身の回りの衛生に関しても考える動機となることを期待している。

5. 医療サービスのために必要な医療機器と医療用具の提供:
 言葉の壁による誤解が生じやすいため、診療方法に関してどうすればBACsと住民の間によりよい関係を作ることができるか、その調整方法を常に考慮している。AMDAはBACsへ医療機器を寄贈すると同時に、BACsの看護師も含めて村についての課題のワークショップを開催した。
 私達の目的はBACsの機能向上と、コミュニティとBACsとの間の関係を上手く機能させることである。医療機器をBACsへ提供することにより、村人が適切な医療サービスを受けることが可能となる。

 とにかく私はコーカン地区で活動することが好きだ。山や旅行が好きだし、子供達も大変可愛いと思う。疾病罹患率の減少、コミュニティの住民が衛生に関して意識を持ってきたこと、予防接種の効果、そして対象村で健康な母親と子供が増えたこと等、私達の活動に関して良い影響が現れてきている。目標に到達するために少しずつではあるが前進していることに感謝している。村人のゴールは私達AMDAスタッフのゴールでもあるから!


左端のクーラボックスは遠隔地への予防接種
ワクチンを運ぶコールドチェーンの要の機材 
(翻訳 藤井倭文子)
 


 
 

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