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ミャンマーにおけるJICAとの協働事業について
 AMDAミャンマー 岡崎 裕之
 ミャンマーでは中央乾燥地帯とコーカン特別地区において母子保健、マイクロクレジット、医療機材供与、貧困農村復興支援、等々多岐に渡る活動を展開している。今回はその内でもJICAとの協働事業に焦点を当てることにしたい。
中央乾燥地帯
 中央乾燥地帯では、2002年7月から2005年6月までの3年間、JICA及びミャンマー連邦保健省と協力し、地域住民、特に母と乳幼児を対象に、基礎保健環境の改善に資するべく、メィティラ、ニャンウー、パコクの3県において、JICA開発パートナー事業「母と子のプライマリーヘルスケアプロジェクト」を実施した。
 中部乾燥地帯は、その名が示すとおり、年間降水量が首都であるヤンゴン管区の約3000mmと比べ、600〜800mmと極めて少なく厳しい自然環境にある。事業対象地域は医療保健施設へのアクセスが悪く、村に地域保健センター(Rural Health Center)や補助保健センター

保健衛生のトレーニングを受ける村人
講師はAMDAスタッフの看護婦


診療所の受付を行う村人と患者

(Sub rural Health Center)などの診療所がある場合でも、医療従事者が常駐していない、基礎的な医薬品や医療消耗品の不備、診療所の建物の老朽化、など保健サービスが十分行き届いていないことが多い。
 同事業では「草の根レベルにおいて母子の健康が維持促進されるための環境整備」を主眼に、一年次には主に医療・保健施設の基盤整備や医療機材の供与、二年次には村落ベースの補助保健施設を基点にした一次診療、栄養給食、保健教育などの活動、三年次には、事業終了後の自立発展性を確保するため、住民(当事者)の自助努力、住民と保健行政の連携を促進する参加型アプローチの実践に取り組んだ。その結果、住民の保健、衛生、栄養などの分野における知識の向上や行動変容の改善が散見され、また良質な公共サービスに対する需要が高まる、などの成果が見られた。

 事業終了後も保健・医療サービスの機会が提供され、住民組織による健康維持・改善活動が継続されていくためには、それらを支える環境の整備と、「参加・協働」を機軸としたコミュニティー活動が必要だと考え、保健ボランティアや健康促進委員会メンバーを含めた事業対象村側と保健行政側の人材を中心にキャパシティー・ビルディング、組織形成、システム構築支援を行った。
 しかしながら、これらの活動が活性化し、公共医療サービスを補完する形として機能するまでには尚一層の時間がかかるものと予想される。そこで、上記事業完了後も一定期間の協力と対象地域住民の「自立発展性」発現の支援が必要であると判断した。事業完了から現在まではモニタリングや村人への各種トレーニングを実施しており、2006年初夏より「フォローアップ」事業を1年間実施予定である。
コーカン特別地域


コーカン地区に住む子ども達


右端が筆者

 かつて「黄金の三角地帯」の一角を担っていたコーカン地区では、2002年末にケシ栽培の禁止という英断が下された。しかしながら、現金収入が激減したことにより、食糧難、栄養・健康状態の悪化、など様々な悪影響が出ている。また、山岳・丘陵地帯が多く、公共医療サービスへのアクセスは非常に悪い。
 コーカン特別地区では、JICAやWFP(世界食糧計画)を筆頭として、様々な団体が活動を展開している。一見すると、約16万人という裨益者に対する支援活動としては規模が大きすぎるようにも見受けられる。しかし、これまでケシ栽培が周辺地域・諸国に及ぼしてきた悪影響、仮に生活が立ち行かなくなって住民がケシ栽培を再開するケースなどを想定すると、これまで活動に携わってきた者として、同地区での継続的・長期的な支援がいかに必要であるか、ということがまざまざと実感できる。
 現在、2004年10月から約2年間、JICA草の根パートナー事業「プライマリーヘルスケアプロジェクト」を実施している。同地区内にある国境地域診療所計7箇所のうち5箇所と周辺の計10村で活動を展開している。国境診療所には医療機材、モーターバイクなどを供与し、診療所の機能強化とアウトリーチ活動を促進している。また、各対象村で保健ボランティアを選出し、基礎保健教育や応急処置に関するトレーニングを実施した。村ではアムダの巡回診療の際に保健教育を実施し、ミャンマー政府の予防接種巡回プログラムの際に拒否反応を示す住民に必要性を説明するなど、保健衛生知識の伝播と公共医療サービスの間接的なサポートなど重要な役割を担っている。また、水施設の整備や衛生知識に関する講習なども実施している。
 活動全般において、中国文化圏であるため言語・習慣の違いによる意思疎通が難しく、「特別地域」の名が示すとおり、外国人の渡航に制限が課せられているため現地視察も思うようにいかない、などミャンマーの他活動地域とは異なる様々な困難がある。しかし、100年以上も続いたケシ栽培が停止になってからまだ3年余りが経過しただけであり、「ケシ栽培が再開されないような安定した環境が醸成される」にはまだかなりの期間が必要であり、当会としても今後もしばらくコーカン地区での活動を継続する方針である。
JICAとの連携
 コーカン地区ではJICAが道路の修復や学校建設、農業指導や保健衛生教育など多岐に渡る活動を長期計画で実践しているが、全支援活動における日本関連の支援の占める割合が比較的高い地域であることから、「日本の支援が中心となっている地域」というイメージが強いように見受けられる。日本大使館もNGO支援無償資金協力事業で当会を通じてラオカイ市立病院に医療機材を供与しており、日本の支援に対してミャンマー政府・コーカン自治政府は好印象を抱いているように思える。当会の活動にしても、JICAと比べると規模は小さいものの、同じ日本の組織ということによるものなのか、現地での関係者との交渉その他が思ったよりもスムーズに進むケースも多い。
 しかし、「日本の支援」という括りで認識されるということは、当会の活動の成否や姿勢も「日本の支援の成否・姿勢」として普遍的に認識される可能性が高いということである。カウンターパートとの交渉その他において、JICAや大使館のお力をお借りするケースは多い。昨年の9月にはJICAミャンマー事務所のお力添えにより、普段あまり会う機会が得られないカウンターパートである国境省のDG (Director General)との会合の場をセッティングしていただき、そのおかげで活動がスムーズに進むようになったこともあった。もし当会がなんらかの問題を起こした場合は、JICAにも多大なご迷惑をかけることになり、現地での活動に支障をきたすことも考えられる。
 そのような事情もあって、コーカン地区での活動においては、他地域での活動に増して
JICAへの報告・連絡・相談を密に取るように心がけている。政治的に複雑な地域であり、不用意な発言回避や関係機関との関わり方について細心の注意を払うべきなのはもちろんのこと、活動内容や方針についても相談することが多い。時には厳しいご指摘を受けつつ、当会では対処の難しい問題に直面したときにアドバイスや助力をいただくことも多い。継続的な支援が必要とされている地域であり、現地住民の期待やコーカン自治政府の日本の支援に対する注目度も高く、当会としては今後もJICAのアドバイスをいただきつつ、活動を継続していきたいと思う。
 


 
 

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