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HIV/エイズに立ち向かうAMDAの大きな挑戦
AMDAケニア ジェームス・ムイルリ・ンドゥング
 HIV検査の前後にカウンセリングを受ける人は増え続けている。時にはその病気の衝撃に向き合うために相談をすることになるのだが。利用者の願望を満たすことはカウンセラーにとって大きな試練であり、個人的なストレスに巻き込まれることさえあるのだ。
今なお、HIV/エイズは、静かに広がる社会的感染症であり、ケニアの人々は、ともに生きていく対処メカニズムを身に着けてきた。

 ケニア政府はNGOや他の利害関係者との協力の下、あらゆる社会階層の人々に向けての啓発活動を進めてきた。HIV/エイズの理解力を向上させ、勇気を奮って立ち向かうためのそれぞれの立場に適応する戦略やプログラムを実行に移してきた。1990年代初頭に、人々が自発的にHIV検査が受けられ、そして検査の前後にカウンセリングが受けられるというVCT(Voluntary Counselling and Testing)システムが、妊産婦検診後に組み入れられた。現在では、VCTセンターはHIV/エイズについての情報源であり、付随する疾病の発見や治療の入り口となっている。

 HIV/エイズを精神・社会的な面からみると、VCTセンター利用者は、カウンセリングによって、自ら行動変容されることが多いのである。こうして人間心理に関係する諸問題について総合的な対処法を専門的に訓練されているカウンセラーの存在の必要性が高まるのである。カウンセラーは利用者が直面する問題に対応し、彼らの行動変容やモチベーションの重要性に気づかせることが可能となるのである。VCTサービスは、HIV検査だけではなくカウンセリングも含めた「セット」として提供されているが、HIV検査それ自体よりも、利用者が自分たちの人生において前向きな判断ができるように励ます心理社会学的なカウンセリングはなお一層重要であり、その点にこそVCTサービスの有効性があるとも言える。
 


KCTセンター:HIV/エイズ対策

 行政機関とNGOは、HIV検査結果判明後のケア等に関しても前向きな方向性を協力して探ってきた。自らのHIV感染の有無を知ろうと決断した全てのVCTセンター利用者にとっては、最小限必要なことである。まずHIV陰性(未感染)の検査結果が出た利用者にとっては、その後の危険な性行動を回避すれば今の状態を保てるような気持ちの支えが必要となる。たとえば、ポスト・テスト・クラブ(PTC)というVCT利用者なら誰でも参加できるグループ活動では、検査結果に関係なく、HIV/エイズやHIV感染者、エイズ患者に対する理解をより深めることを中心に、行動変容の一助として、情報交換等を行っている。

 HIV陽性(感染)という検査結果が判明した場合には、HIV陽性者のみが集うサポートグループを結成している。他人への感染を未然に防ぐべく行動することや前向きに生きること、そして抗エイズ治療薬(ARVs)の摂取順守や日和見感染治療についての心理社会的サポートを提供している。

 AMDAケニア事務所ではこのような利用者ニーズにより良く応えるべく、ケニヤッタ国立病院や国境なき医師団ベルギー支部など医療施設との提携関係を持っている。またその一方、HIV/エイズという病気への啓発活動として地域住民を巻き込んだ活動をしている。  例えば、PTCやサポートグループのメンバー自身が民家を一軒一軒訪問し、経験に基づいて感染の有無を知ることや行動変容がいかに重要であるかを伝えている。

 HIVの母子感染予防に関するケアは、妊娠している女性にとってはたいへん重要である。特にHIV陽性である母親にとって、自分のお腹にいる赤ちゃんをどのように守ることができるのかということは、大きな関心事である。

 HIV/エイズに関わる現実には、さらに驚くべき事が起こったりする。たとえば、あるカップルがHIV検査を受け、検査結果がそれぞれで異なっていたりするのだ。一方は、HIVに感染しているが、もう一方は感染していなかった。自分のパートナーが、他人と無防備な性交渉を行ったことによる悲劇である。

 ケニヤッタ国立病院に所属するPIPS(Partners in Prevention Study)という調査団体は、この問題の根底にある原因を調査している。AMDAはPIPSの協力団体の一つであり、AMDA-VCTセンターで検査を受けたカップルで、その検査結果が異なった場合は、調査協力へのふたりの了承を得られれば、連絡先の情報が送られるという仕組みになっている。調査は現在も続いており、原因はまだ究明されていない。

 AMDAケニアのVCTセンターは経済的に貧しく、弱い立場に人々が多く住む、世界最大級のスラムであるキベラで活動を続けている。スラムの人々は、解決されない重要な社会的問題を多く抱えており、そのようなことからの逃避として、危険な性行動へ傾斜することがままある。怠惰、無気力、貧困、劣悪な居住環境と衛生状況、失業率の高さ、そして違法アルコール類の存在である。厳しいスラムの現実の中でVCTサービスを提供することは、カウンセラーとして大きな意欲をかき立てられるが、同時にスラムの住民である利用者たちが今後どう生きていくのかと問うことに対しての倫理的なジレンマと何度も直面している。そうしてセンター利用者は次々と死んでいき、孤児が増え、若い働き盛りの感染者が増え続けている。なぜ誰もこの状況を救ってくれないのかと、カウンセラーは落ち込み、嘆くのみである。
 


 

 

 

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