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クワシオルコルの症候(kwashiorkor, symptomatology)


症候 初期:無気力、食欲不振がこの疾患の初期症状である。子供は食べることを拒絶し、活気が無くなる。下痢や合併症を伴うと症状が出揃う。クワシオルコールの臨床症状は地域、児の年齢、蛋白欠乏の程度、どれだけ急速に生じたか等によって異なるが、浮腫、発育遅延、筋肉の消失、精神運動障害の4症状は常に見られる。 浮腫:脛骨の前下方から始まり、足背、足首、下肢全体へと広がり、手背、大腿、背中、上司、顔面にも現われる(図4−3)。眼瞼の腫れで開眼するのを嫌がる(図4−4)。体内の浮腫(腹水など)は稀である。このような浮腫を起こす機序はよく解っていない。低アルブミン血症の関与は確かだが、その程度と浮腫の度合いが平行しないので、すべてを説明出来ない。抗利尿ホルモンの分泌不全という仮説もある。熱帯で起こる他の浮腫性疾患とは鑑別されねばならない。重症貧血やネフローゼ症候群は他の併発症状で鑑別される。鈎虫症との鑑別は難しい。それ自体でクワシオルコールを合併したり、発症に寄与したりするからである。 発育遅延:体重がまず正常の68%位まで減少し、身長はやや低下する(表4−2)。しかしこれらの要素は、治療開始前には浮腫の為に隠れて分からないことが多い。ジャマイカの《可愛い赤ちゃん》は、はっきりした栄養失調があるにも拘らず、皮下脂肪がむしろ厚くて、体重も正常下限位な例もある。 筋肉の消失:上腕の周囲径は浮腫が殆ど生じないため、この部位を測定することで評価が出来る。頚部の筋力低下は、児を両手で支えて直立させてみると分かる。クワシオルコールの筋萎縮には皮下脂肪の消失は伴わない。皮下脂肪は四肢や胸廓では比較的厚く、これは炭水化物が足りているを示している。 精神運動障害:大変特徴的である。患児は悲しみに満ちて、無気力で、臆病そうに見え、刺激され易い。じっと動かないで、時には殆ど嗜眠状態になる。何時間でも動かないで、体を縮めている。周囲の者が持って来た食物にも無関心で、刺激に対しては単調で、か弱い叫び声を上げる。神経学的には筋力低下以外に異常は無いが、神経運動面の検査では大きな障害が認められる。治療により外界への関心が戻り、笑顔が見られれば良い兆候である。 皮膚と毛髪の変化:しばしば見られるが、常にあるものではない。髪は絹のような感じになり、毛根は脆弱になって、痛みも無く、束状に簡単に脱毛する。縮れていた毛は真っすぐになる。髪の色は変色して明るくなる。黒いアフリカ人の子供では、栄養不良が進行する程に、髪が赤茶けてくる。悪化と再燃を繰り返している場合、疾病の期間に一致して、髪の色が縞状に見える。これは中米では《鉢巻きサーフィン》云われている。 皮膚の色はしばしば脱色していくが、人種により皮膚の色は幅広く異なるので、判断が難しい。《剥げ落ちた絵》と呼ばれる皮膚症状は必発ではないが、かなり特徴的な徴候である。これは油絵が乾き、長い間太陽や風雨に曝されて、鱗状に剥げた状態(図4−5)を指す。まず鼠径・会陰部に始まり、臀部、大腿後面、腋窩へと広がり、全身を覆うようになる。この発疹が色素沈着のより強い部分に出来た場合、やがて大きな鱗に覆われたようになる。それが脱落すると、その下の皮膚は弱く、萎縮して、色素が抜けており、時には潰瘍状になっている。この発疹には唇交連裂、耳介後部の線状痕、麻痺性潰瘍、点状皮下出血などを伴うことがあり、これは予後不良を示唆する。ラテンアメリカでは顔面に脂肪が浸潤し、浮腫を合併して、 Cushing様の満月状顔貌を呈することがあるが、これはコルチコイドの上昇のためではない。 消化器障害:食欲不振は必発である。胃液の酸分泌は低下し、それが不症化物を多くして、十二指腸に細菌などを沢山通してしまう結果になる。内因性の要素は正常である。膵の外分泌は常に低下し、通常刺激には殆ど反応しない。小腸の蠕動も低下する。十二指腸の粘膜では、細胞の大きさが小さくなり、縁辺が細かい櫛状となって、分裂能が落ちている。絨毛はあらゆる段階の萎縮が見られる。絨毛膜には細胞浸潤を認める。吸収障害はあらゆる程度で見られる。乳糖不耐症が必ずあり、果糖のみが正常に吸収される。時には浸出性の腸管炎が見られる。大腸粘膜は萎縮する。下痢は常にあり、様々な原因で起こる。肝腫大では肝への脂肪浸潤を示す。Antilles諸島やインドシナではこれがよく見られ、臍を越える程に肥大する。組織学的には脂肪沈着が必ず認められる。 貧血:種々の原因でしばしば起こる。鉄欠乏性(ウガンダ)、葉酸欠乏性(ジャマイカ)、骨髄低形成によるriboflavine 欠乏(ケニア)、vitamine E欠乏による巨赤芽球性貧血(ヨルダン)などである。失調性貧血の増悪因子として、鎌状赤血球症、鈎虫症、マラリアがある。 低蛋白血症:血液生化学上、重要な所見である。普通4g/dl、時にはそれ以下の値をとる。血中アルブミン値は特に低下し、 1.4g/dl位である。β-globulineやsiderophiline は低下するが、γ-globulineは逆に増加する。albumine対globulines比は常に1未満となる。 その他の症状:細胞外体液量、血管外体液量の増加があり、相対的に循環量の減少がある。血中Na量は低下(平均128mEq/L) する。これはNaプールが上昇するにも拘らず、水分で希釈されるからである。血中Kも減少(2.5mEq/L位)、Kプールも25%まで低下する。この状態ではdigitalis に対する感受性が高まり、ほんの少しの量でも律動異常を来すことがある。従って強心剤は絶対適応がある場合に限り、しかも通常の半量で使用する必要がある。このような水電解質の異常は、脱水を確認することを難しくし、調節不可能な大量補液をしてしまう危険がある。血中浸透圧の低下は、アシドーシスの傾向を伴う。血中尿中の尿素は低下する。尿濃縮能も低下する。血糖値は不安定だが低血糖の傾向があるが、低血糖症状(痙攣)は重症感染のような時にしか現われない。治療にも拘らず、予後は必ずしも良くない。骨のX線像では{骨粗しょう症}が認められ、特に中手骨の皮質が薄くなっている。低Ca血症とくる病は稀である。血中のアミノ酸バランスは早期から崩れ、非必須アミノ酸対必須アミノ酸の比率は、通常2未満であるが、上昇する。hydroxyprolineの低下によりcollagen代謝が遅延し、発育が遅れる。成長ホルモン、insuline, cortisolは上昇する。基礎代謝は低下するが、甲状腺でのiode結合は正常である。免疫異常は色々である。抗原に対する抗体産生、特にIgMは正常である。IgAはしばしば非常に高値で、IgGは低い。補体のC3′は減少する。リンパ組織(胸腺、リンパ節、扁桃腺)は萎縮し、リンパ球の減少がある。遅発型過敏反応(tuberculine, Candida, DNCB)は微弱か欠如している。in vitroでは、非特異的mitogeneによるリンパ球の幼若化反応が落ちている。亜鉛の欠乏が、この細胞性免疫の異常にある程度役割を果たしているとされる。食細胞機能は好気性の解糖レベルで低下している。これらの異常は感染に対する免疫能を全体的に弱めている。

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