HIV感染症の予防


HIV感染の予防
 HIV感染の予防として、HIVの感染経路が性的接触、汚染血液製剤の使用、汚染注射器による回し打ち、感染妊婦から新生児への伝播であることを考慮し、これらを遮断する方策を取れば良い。その他の日常的接触では感染しないことを住民に教育することも重要。
保険医療従事者は、医療行為中の事故(針刺し事故など)を防ぐ教育が求められる。
 エイズワクチンは、クリントン米大統領が2007年までに開発する、と宣言したHIV感染予防の重点戦略である。しかし、先進諸国でリコンビナント型やDNA型ワクチンなどが研究されているものの、開発段階までこぎ着けたのは、今のところgp120を抗原とした米VaxGen社のAidsvaxだけに止まる。1998年から米国とタイで開始された臨床第3相試験に対して、二重盲検への倫理道徳的な批判もあり、社会的にも様々な困難がある。

1.性行為感染の予防
 性行為の相手数を減らすこと。感染の危険を減らすため、コンドーム使用を奨励こと。そして何よりも、不用意な性行為はあらゆる性行為感染症に罹る危険性がある事を、衛生教育を通じて、一般に普及することが重要。例えば、避妊目的しかないピル内服と、避妊と性病予防の両方を実現するコンドームは、混同してはならないことを確認する必要がある。カウンセリング後のコンドーム配布は、HIV罹患率を40%低下させた一方、それがないと改善がないことが、東アフリカでの調査で報告されている。

2.汚染血液製剤からの予防
 汚染血液の振り分けは、まず問診が重要。売春婦や薬物依存者といったハイリスクグループには、HIV感染の初期症状の有無も問診し、出来ればHIV感染の振り分け検査を受けるよう説明すべきである。熱帯地方で安全血液の入手に不安がある場合には、予定手術として、自己血輸血を検討したい。

3.汚染注射器からの感染予防
 麻薬中毒患者への「注射器交換プログラム」が欧米諸国で試みられているが、薬物中毒を助長するとの批判的意見も多い。薬物中毒から離脱する根本的な対策がなければ、一時的な効果しか期待出来ない。

4.垂直感染の予防
 HIV感染妊婦から胎児への垂直感染は深刻で、1997には60万人の子供がHIVに感染したと推測される。無治療で自然分娩の場合、20-30%と云われる。分娩前からZDVを予防内服すると、垂直感染の危険性を10%以下に抑えられ、さらに帝王切開を施行すれば、この危険性をさらに減少出来ると考えられる。熱帯のHIV浸淫地域では、妊娠が診断された時点で、問診によるHIV感染の危険性を評価しておくべきである。治療中の授乳には科学的な危険性の評価が充分なされていないが、敢えて中止する必要はない。未治療の母親の授乳は、分娩後の垂直感染を起す危険性がある。
米国CDCのHIV垂直感染予防指針(1998年1月)の要点も参照されたい。

未治療の妊婦 ・まず臨床免疫学的なHIV感染の評価を行い、成人の標準的な治療法を選択
・ZDVの予防内服を奨励する。治療のために、併用療法も考慮
・胎児への影響を考慮して、妊娠10-12週まで治療開始を控えることも検討
治療中の妊婦 ・妊娠12週以降に妊娠が診断された場合は、HIV治療を続行
・妊娠12週までに妊娠が診断された場合は、HIV治療の継続につき本人と相談
・上記のHIV治療を中断した場合は、耐性株の出現を防ぐために、全ての処方薬を同時に投与再開
・上記の治療処方にZDVが含まれていない場合は、妊娠14週以降に追加または変更を奨励
未治療の分娩 ・分娩中のZDV静注と、新生児へのZDV6週間処方を推奨
・分娩直後に母体のCD4+値とHIV-1・RNA量を検査し、母親の治療の是非を検討
未治療の母親
からの新生児
・生後12-24時間以内に、ZDVを投与開始
・ZDVの6週間処方を母親と相談
・ZDV耐性例では他剤併用が行われるが、新生児への安全性は未確立
分娩前 ジドブジン(ZDV)500mg/day,分5、経口、妊娠中毎日
分娩中 ジドブジン(ZDV)2mg/kg,1時間で静注、以後半減して分娩終了まで
分娩後 ジドブジン(ZDV)500mg/dayから、成人の標準的な併用療法へ移行
新生児 ジドブジン(ZDV)2mg/kg,シロップで6時間毎(生後8-12時間から)
ジドブジン(ZDV)1.5mg/kg,静注、6時間毎(経口摂取不能の場合)


5.保健医療従事者の予防
 米国CDCの保健医療従事者のためのHIV感染予防指針(1998年5月) には感染防御だけでなく、針刺し事故などで不慮のHIV曝露を受けた場合の対応が、勧告として出されている。HIV汚染血液に経皮的曝露を受けた場合(針刺し事故など)の平均感染危険度は0.3%、粘膜上への曝露では0.09%、と記述されている。
しかし、熱帯地方では先進諸国並みの徹底は不可能だろう。まず第一に、注射針の安全廃棄や手袋使用の励行といった、基本的な院内衛生管理を徹底したい。
また、巡回診療中の暴行もしばしば問題となる。女性スタッフが一人で巡回したり、複数でも治安が悪い地域へ不用意に立ち入ることは極力避ける。

 医療行為中の事故が発生した際は、次の点を詳細にまとめて、本部事務局へ至急連絡すること。

・事故発生の日時
・どのような仕事をしていた際の事故か?注射針やメスなど鋭利な器具を使用していたか?
・曝露は量的、時間的にどの程度だったか?汚染物質は何だったか?
・事故後、第三者(警察、国連機関の現地事務所など)へ通報、曝露後の処置、経過の詳細

 曝露の程度に拘らず、まず粘膜や体表面を擦らずに流水でよく洗浄する。さらに、粘膜面に汚染物を大量に浴びた場合や針先が表皮を傷付けた場合(曝露レベル2)、表皮を感染に貫いて汚染物が体内に入った場合(曝露レベル3)には、抗レトロウイルス薬の予防内服を開始する。HIV治療指針に従って、レベル2ではZDV+3TCを、レベル3ではそれに加えてIDVまたはNELを服用する。農村部や僻地で活動するスタッフは、都市部へ移動すべきである。


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