成人T細胞白血病とHAM/TSPの疫学


 成人T細胞白血病(ATL)の分布は、世界的に日本(取り分け四国西部、九州、沖縄)がもっとも高い。アジア太平洋地域では、日本の他にバヌアツ、パプアニューギニアにある小さな浸淫地を除いて、HTLV-I感染者は殆ど認められない。
アフリカではナイル川流域からソマリア、ケニア、タンザニアにかけてと、ルワンダ、ガーナ、象牙海岸など中央部から西部海岸地域の国々でHTLV-I感染が認められる。ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus;HIV)との疫学的関連について研究が続けられている。
南米アメリカでもカリブ海沿岸地域で広くHTLV-I感染者が分布しており、特にインディオなど先住民に感染率が高い。

 HTLV-I関連ミエロパチー(HAM)熱帯性痙性対麻痺(TSP)の報告は、日本の約700例を含め世界で1200例の報告がある。
日本以外ではカリブ海諸国、中南米、アフリカに多く、これはATLの分布と相似している。HTLV-Iキャリアの約1000人に1人の割合でHAM/TSP患者が存在する。
日本で以前から知られていた病因不明のミエロパチーを、1986年に鹿児島大学の納らがHTLV-Iに因るものと証明し、TSPと同一の病態判定とした。
HAM/TSPは輸血後発症群(約20%)、若年発症群(約10%)、その他(約70%)の3群に分けられる。
 母子間垂直感染が感染形式の大半を占めると考えられる。輸血後発症群は、45%の症例で潜伏期が3年未満で、他の2群より短い。
日本の集計結果では、男女比は1:2.5で、発病年齢は11〜80歳(平均41.2歳)。

HTLV-Iによる2つの疾病疫学をまとめると、日本の場合は次のようになる。

成人T細胞白血病 HTLV-I関連ミエロパチー
発病年齢 27-82歳(平均56歳) 11-80歳(平均41歳)
年間発病率 平均0.1-0.2%
累積70年で2-5%
不詳
感染形式 授乳
性行為(男性→女性*)
輸血
左に同じ
男女比 1.5:1 1:2.5

*40歳以上の抗HTLV-I抗体陽性率に男女差(女>男)があることから。HTLV-Iの性行為感染後にATLを発症したという報告はない
#輸血による感染は、日本では1986年に献血スクリーニングが実施されて以来、激減した


熱帯医学データベースに戻る

AMDAホームページに戻る



      このページはAMDA学術委員会により作成されました。


            お問い合わせはmember@amda.or.jpまでお願いいたします。