結核の予防


 結核の予防は、感染者からの病原菌拡散防止、BCGの予防接種、それに地域での集団予防活動に大別される。

1.感染者からの病原菌拡散防止
 結核菌感染者を出来るだけ早く隔離し、適切な治療を施すことは、感染者個人の健康だけでなく、地域からの結核菌の削減に寄与する。これを実施するには、感染者の登録とフォローアップといった手続き上の管理(adminsitrative control)、結核病棟の換気や消毒など工学的な管理(engineering control)、それに予防衣やマスクの着用によるスタッフの呼吸器管理(respiratory management of staff)が連携しないと満足な結果が得られない。そのため、特に熱帯地域では、地域の実情に合わせた計画を練る必要がある。
 結核の感染力は、空気中に排泄される結核菌の量に比例する。臨床上、結核の感染力は以下のように評価したら良い。

感染力あり 感染力なし
-咳と気道塗沫物をみるか、
 喀痰の抗酸菌陽性
-適切な治療を2週間以上うけ、
 治療に良好に反応している
上記に加えて、 上記に加えて、
-未治療の症例か、
 治療に反応しない*か、
 治療開始直後の場合
-別個の喀痰塗沫検査**が3回
 以上続けて陰性

*症状の改善を見ない場合には、耐性菌や処方・服用上の問題を考慮
**塗沫検査は毎週または2週間に1回施行

 熱帯地方の手続き上の管理として重要な点は、まず、医療施設にかかるのが困難な住民が多いので、巡回サービス中に持続性の食欲不振、咳、血痰、寝汗、微熱、るい痩といった結核の典型症状を呈する者を精力的に見つけ出すこと。このアプローチは、結核の浸淫度が高い地域ほど効果が上がる。次に、HIV感染が明らかになった者に、結核感染がないか積極的に調べることが挙げられる。
排菌性結核感染が証明された時点で、直ちに隔離されるのが望ましいが、速やかな隔離を実現するために、隔離の要綱(入院期間、食事や衣類の支給方法、家族との面会)を事前に整備しておく。
 病棟の工学的な管理は、熱帯の現場では多くの場合困難なため、非感染者と別棟に収容することを目標とする。治療スタッフには特にマスクの着用を徹底したい。蛍光燈による紫外線殺菌が可能であれば、予防衣の殺菌に用いると良い。

2.BCGの予防接種
 BCG(Bacile de Calmette-Giillan)は、1922年にパスツゥール研究所で開発された、ウシ結核菌を用いた生菌ワクチン。肺結核に対するBCGワクチンの予防効果は50%程度と弱いため、ツベルクリン反応が陽転するまで接種を繰り返さねばならない。そのため、先進諸国ではBCG接種を小児予防接種プログラムから除外したところが多い。しかし、BCGは小児の結核菌性髄膜炎の予防効果(約60%)が広く認められているため、熱帯地方では積極的に利用させるべきワクチンである。ただ唯一大きな心配として、生ワクチンのため、先天性HIV感染を受けた小児に接種すると、結核を発病する危険性がある。集団接種の実際については、地域の保健医療当局の政策に従うべき。
個人の予防として特にBCG接種を検討すべき事例は、家族などから継続的な結核菌曝露を受けており、薬剤耐性や遊牧民など予防内服の実施が難しく、かつHIV感染が否定される場合などである。

3.地域での集団予防活動
 最も重要な点は、結核に感染している者は全て登録し、適切な治療を完了することを目的とすること。次に優先すべき事は、その結核感染者と接触した者に伝染していないかを確認することである。その場合、伝染が証明されれば、直ちに予防的治療を開始すべき。接触者への伝染調査は時間的に最も長く接触した者から開始し、特に接触者が小児やHIV感染者の場合は、念入りに調べる。伝染の規模が予想以上に大きい場合は、調査対象を広げる必要がある。
この活動で肝要な点は、その地域の保健医療当局の政策や法律を遵守することと、地域組織との協働を常時心がけることである。米国ワシントン大学(シアトル市)から、文化の多様性を考慮した地域の結核予防活動"Cross Cultural Issues in Tuberculosis"が発信されているので、参照されたい。
保健医療活動以外の機会も利用して、結核予防の重要性を地域住民に啓蒙し続けることも不可欠。

4.保健医療従事者の結核感染予防
 熱帯でも日本と同様、保健医療従事者が結核感染を起す例が後を絶たない。(財)結核予防会千葉県支部(Tel.043-231-5301)からは、「医療関係者の結核予防マニュアル」が1995年3月に出版されており、帰国後の日本人スタッフの健康管理に参考となる。

5.HIV感染者の結核予防
 米国疾病管理予防センター(CDC)から、HIV感染者の結核予防に関する勧告が1998年10月にMMWRへ収載されたので、参照のこと。


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