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腸アメーバ症の症状と診断


アメーバ赤痢の症状
  急性の腸アメーバ症と慢性のそれはその性格、予後、および治療が全く異なる。急性腸アメーバ症(アメーバ赤痢)は病原型が大腸壁にいて、腸の粘膜層にシャツボタン形の微小膿瘍を作るものである*。慢性腸アメーバ症はアメーバ症後の慢性大腸炎とも称され、腸粘膜上に非病原型あるいは嚢子がないと記載された急性腸アメーバ症である§。
 
 *日本ではアメーバ赤痢は届出と患者隔離が義務付けられている(ICD 006.0)。
 
 急性の腸アメーバ症
 
 典型的なアメーバ赤痢
 
 発症:一般にはかなり突発的で、ときおり普通の下痢便や腹痛を訴える。しばしば過労、食物の変化、マグネシウム水の摂取、気候の変化、腸内細菌叢の不均衡、広スペクトラム抗生剤などの誘発因子を認めることがある。 
 
 赤痢様症候群:腹痛、裏急後重(テネスムス)、糞便の異常を伴う。腹痛の位置と強さは多様である。大概中程度で、重苦しい或いは痛い感じで、時折激しい仙痛発作を見る。裏急後重とは盲腸部から始まり、大腸の範囲に痛みが拡がるもので、急いで排便したい欲望にかられてから治まる。テネスムスは肛門括約筋の有痛性の収縮で、排便とは無関係の生理的欲求が大半である。糞便は大量だが、それでも他の腸炎よりは量が少ない。排便回数は1日に5-15回で、典型的なものは糞便自体を伴わない。性状は卵白状の粘血便(図1)で、これが古典的な赤痢様排泄物である。実際には糞便は泥状、液体状、粘液と血液が混ざり合ったもの、或いは特徴的な粘液便と下痢便が交互に排泄されるものが多く見られる。

図1

 
 全身状態:長く不変で保たれる。あるとすれば、衰弱、るい痩、脱水が中程度見られる。発熱は小児例のいくつかを除いてない。体温の上昇を認めるときには、肝への感染を考えなくてはならない。
 
 理学所見:腹部は特に回盲部が敏感で、《直角に切り立った》ようにはっきりとしており、またS状結腸部も攣縮と疼痛を認める。肝は大きさは変わらず、触診や打診で痛みがある。直腸診では膨大部から粘血を認める。
 
 直腸鏡:侵襲性の検査なので、糞便検査がうまく行かなかったものだけが適応となる。粘膜の炎症、典型的には《爪の一掻き》状の、ときには杯状点状の多発性潰瘍(図2)が存在し、綿棒で採取した卵白状の粘液にはアメーバが含まれている(図3・切除組織像)。
この病変には炎症細胞が欠如し、アメーバの周囲にlytic spaceが生じる(図4)のが特徴的である。

図2 図3 図4

 
 臨床経過:正しく治療すれば急性腸アメーバ症は急速に回復し再発しない。臨床所見は数日で改善を示す。直腸の潰瘍は癒合し、糞便中の原虫は陰性化する。治療は10日間続け、再発を防ぐ。
  無治療または誤った治療の場合、急性腸アメーバは症その後必ず悪化する。最初のうち悪化は抑えられているように見えるが、再発や合併症、さらには播種が起こる。多少なりとも小康状態が得られても、再発は避けられない。これは当初の増殖がいくらか抑えられただけで、同一のものである。合併症には、近接部位では腸管内出血、遠位ではアメーバ性肝膿瘍が生じる。急性の増殖が繰り返されると、ついには慢性の大腸炎を形作る(図#・A)虫垂炎、B)穿孔、C)出血、D)腸外転移、E)アメーバ症後慢性大腸炎、F)大腸狭窄)。
 
 亜急性または軽症型  
  亜急性型は通常の下痢便と中程度の仙痛を認める。裏急後重とテネスムスは稀である。糞便は液体状で、ときおり粘液性だが、ふつう血便とはならない。またときどき泥状となったり、便秘と下痢が交互にくることもある。左様なことから、糞便中に貪血性のアメーバを見つけるまでは本症と確定してはならない。このような軽症型でも、赤痢を伴う急性型と同じ発育の可能性を秘めているので、疎かにしてはいけない(図5・病理像)。

図5

 
 劇症または悪性型
 
  稀であるが恐ろしい劇症型は、飢えている者、栄養失調の患者、小児、妊婦あるいは産後の女性に選択的に見られる。西アフリカでは絶対数は多くないが、相対的に頻度が高い。本症はアメーバ以外の寄生虫や(サルモネラ菌、赤痢菌、黄色ブドウ球菌のような)細菌の感染を合併していることが多い。臨床症状が特徴的で、感染による中毒性の症候群と重篤な赤痢様症候群が前面に出る。肛門括約筋が弛緩したままとなり、大量の下痢、血膿、悪臭を伴う血液と粘液が混合したものが垂れ流しになる。さらに稀には、麻痺性イレウスのもとにもなり、原因不明の赤痢様症候群が起きる。理学所見では、鼓腸、腹痛および大なり小なり筋性防御が認められる。肝は肥大し、圧痛がある。腹部X線上は、液性のニボーか大腸の穿孔を示唆する腹膜炎像を呈す。確定診断は、糞便中または直腸診で得られた粘液中から貪赤球性のアメーバを検出することである。直ちに治療を開始しても、予後は不良である。不可逆性ショック、消化管出血、大腸の多発性穿孔、肝の転移性膿瘍により命を落とす。
 
 合併型
 
  細菌性赤痢との合併型は重症である。糞便は大量の粘血性となる。熱発して急速に脱水を伴う。腸管のぜん虫やジアルジアの合併の場合、特に重症とはならない。
 
 アメーバ症後慢性腸炎<BR>   1つあるいは幾つかの急性アメーバ症の所見があったが、貪血性のアメーバやそれに類似したアメーバは見つからないような場合、この範疇に入る。急性アメーバ症による炎症後硬化と神経障害が問題となる。これらはしばしば心身症の素因となる。
 
 臨床症状:普通の慢性腸炎に準じている。腹痛は常時、或いは発作的で、びまん性のこともあれば、憩室性、潰瘍性、あるいは虫垂性のように思われる偏在的、局部的のこともある。たいてい経過上長期間にわたって下痢が見られる。これは早朝あるいは食事後に、突然耐えがたい便意で現われる。希には便秘や下痢と便秘が交互にくることもある。鼓腸は牛乳とパンのような食事には不耐を示す。澱粉質では、《過敏性大腸》疾患の所見をもたらす。大腸の症状にはいろいろな所見があり、神経衰弱、るい痩、食欲不振、悪心、消化不良、耐寒不応といったアメーバ症を疑うには特徴的でない神経症状が見られ、誤診されることがある。検査上は、《双極性》大腸炎と称される盲腸とS状結腸に圧痛を認める所見以外、特徴的なものはない。
 
 補助的な検査:いずれも証明力はほとんどない。直腸鏡では、蒼白で萎縮あるいは正常な粘膜を認める。バリウム透視では、非特異的な(攣縮によって拡大部と狭小部が交互に見られる《積み上げ皿》様の)大腸炎の所見を呈す。本症がとりわけ大腸癌の発生を減少させる、というのは興味深い。糞便検査では陰性か、非病原型と嚢子の一方か両方が認められる。結果が陰性であったときには、問診でアメーバ症を想起させられる症例を除いて、アメーバ症を基礎疾患として確定することは難しい。病原型が認められない場合全ての症例で、慢性アメーバ症後大腸炎と臨床症状が似通った、亜急性腸アメーバ症の鑑別除外が求められる。これらでは予後と治療が異なるからである。
 
 経過:この時期となっては手が付けられず、推奨されている治療法は効果がほとんどない。

アメーバ性肉芽腫
アメーバ性肉芽腫は大腸に極めて稀にできる寄生虫性の仮性腫瘤である。ラテンアメリカに他よりも多く見られる。臨床上も放射線学的にも、大腸癌と紛らわしい。とりわけ盲腸とS状結腸部にニボーをつくる。糞便検査では普通陰性だが、血清検査では陽性である。組織移行性の抗アメーバ薬で、腫瘤が自潰することが考えられる。外科医はしばしば病変部にアメーバ性の特質があることを見誤る。これに反して、組織学的検査では、診断は容易である。豊富な肉芽の中に、形質細胞、多核性好中球、マクロファージが観察され、巨細胞もいくらか含まれている。周囲は結合組織で囲まれている。アメーバは特別な染色で証明されることがあるが、それは稀であり、粘膜の潰瘍部に触れた際にアメーバを散布してしまう(図6・アメーバを中心に肉芽組織を認める)。

図6


腸アメーバ症の診断

積極的な診断:問診;病原体にいつも曝されている熱帯地域の人々には重要性は少ない。フランス国内であれば、浸淫地域に最近滞在したという既往があれば、診断に向けて価値がある。
バリウム透視;非特異的な異常しか描出せず、重要でない。襞の欠損や壁面の潰瘍像が急性アメーバ症で認められる。慢性アメーバ症では、積み上げ皿様の攣縮部と弛緩部が交互に、管状に描出される。
直腸鏡;急性腸アメーバ症では、普通は爪の一掻き状に潰瘍が明らかとなる。しかし、異常が認められなかったり、(鬱血や浮腫など)非特異的な病変しか見られないことも少なくない。
糞便の寄生虫学的検査;この手法が完璧である。糞便の一部を用いた直接検査、或いは検査の直前に採取された赤痢様の排泄物を用いて、生きている非活動型または活動型のアメーバを見つけ、同定する。熱帯地域では、検査の前に糞便を温める必要はない。温帯地方では、検体を顕微鏡のランプで温めて、栄養型に運動性を再び与えることが必要である。たとえ1回目の検査で陰性でも、もう一度繰り返し試みなければならない。場合によっては、(硫酸ソーダやマグネシウムのような)瀉下剤によって、再度検体を得ることも必要である。Thebault法のような集積法を用いて、原虫の嚢子を特別に検出しようとするのも精度を上げる。最終的には幾つかの染色法によって、アメーバの鑑別を行なうのがよい。ルゴール染色やMIF(merthiolate-iode-formol )染色、またはCohn法あるいは鉄ヘマトキシリン法(調製が難しく、実際にはほとんど用いられない)がある。
結果の解釈は簡単である。病原型の E.histolyticaが糞便中に検出されれば、急性腸アメーバであることを示している。非病原型や嚢子が糞便に証明されたときは、別の意味をもつ。即ち、健康なアメーバ保有者として活動していて、アメーバ症の既往が一切ないか、以前に不十分な治療を受けた者となる。陰性の結果では、アメーバ症後慢性腸炎の診断を除外できない。嚢子あるいは E.histolyticaとは異なる種の非病原性アメーバ(Entamoeba coli, E.hartmanni, E.polecki, Endolimax nana, Iodamoeba buetschlii, Dientamoeba fragilis)は、いずれも病原性を示さない。さらにBlastocystis hominis*のようなものや、分類上不明確な生物もアメーバの嚢子と混同される。
Blastocystis hominisは酵母にも分類される。 血清学的検査:間接的免疫蛍光法と沈降反応は、腸アメーバの診断に価値が少ない。急性アメーバ赤痢の検体でも、わずかに陽性か陰性である。
鑑別診断:典型的な急性赤痢型は、直ちにアメーバ症が連想される。(大量の便と発熱、脱水がある)細菌性赤痢との鑑別は容易である。しかしアメーバと細菌の合併には用心しなくてはいけない。バランチジウム症やビルハルツ住血吸虫症による《赤痢様症状》は稀である。出血性の直腸大腸炎は熱帯地域では頻度は少ないが、アメーバ症の合併があるかもしれないので、時折診断が困難となる。
直腸鏡が主要な検査となる。直腸大腸癌、直腸とS状結腸の絨毛性腫瘍、直腸結腸のポリープからアメーバ性の患者を系統的に鑑別するに、直腸鏡、バリウム透視、大腸鏡が欠かせない。しかし内視鏡で採取した試料からはアメーバは大抵認められない(図7・HE染色)。下痢を伴う症例では、(サルモネラ、赤痢、黄色ブドウ球菌それにコレラといった)細菌性下痢症、(カンジダ性)真菌症、ウイルス疾患、(ビルハルツ住血吸虫症、ジアルジア症、イソスポーラ症、クリプトスポリジウム症、糞線虫症のような)寄生虫病が鑑別の範疇に入る。悪性型や、(穿孔、出血のような)急性腹部合併症のある場合、アメーバ症は系統的に思い付く。アメーバ性肉芽腫は大腸に腫瘤ができるから、回盲部の結核が時折鑑別に上がる。大腸のアメーバ症では、寄生虫学的検査が陰性の場合、他の慢性大腸炎や機能的腸疾患との鑑別は事実上困難となる。

図7 図8


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