マラリアの病態生理と症候


 マラリア原虫は,赤血球中で無性生殖により分裂増殖し、その赤血球を破壊してさらに別の赤血球に侵入する。この繰り返しがマラリアの基本的臨床症候のもととなる。
 良性マラリアでは、感染赤血球率が全赤血球数の1〜2%をめったに超えないのに対して、熱帯熱マラリア原虫はどの赤血球にも無差別に侵入するため、この感染率は高く、感染赤血球の割合が10%を超えると、重篤な症候を引き起こす。

熱帯熱マラリア 三日熱マラリア 四日熱マラリア 卵形マラリア
感染赤血球の成熟度 無関係 幼弱球好性 老衰球好性 幼弱球好性
感染抵抗性赤血球 HbSS Duffy型抗原(-)
赤血球内発育時間 48時間 48時間 72時間 48時間
感染赤血球の形態変化 大小不同 膨大 縮小 膨大
感染赤血球内の斑点 Maurer斑点 Shuffner斑点 なし Shuffner斑点


マラリアの発熱発作サイクル
・潜伏期:感染7〜14日で発症するが、初感染の熱帯熱マラリア例ではこれより短いことがある。逆に良性マラリアや予防内服例では、3〜4週後に発症することも稀でない。前駆症状として頭痛、筋痛、易疲労感、食思不振がみられることがある。
・悪寒期:強い悪寒・戦慄とともに目眩、悪心が生じ、体温が急激に上昇して30-60分後に40-41℃に達す
・灼熱期:高熱により眼結膜充血、顔面潮紅がみられ、2-4時間にわたって口渇、頭痛、悪心、関節痛などの訴えがあり、意識混濁に陥ることあり
・発汗期:多量の発汗とともに数時間で解熱し、頭痛や疲労感も消失す
・無熱期:原虫血症は続いているが無症候
 このような発熱発作を繰り返すが、特に熱帯熱マラリアでは赤血球への侵襲が乱雑で、稽留熱を呈することもある。

小児と成人における重症熱帯熱マラリアの病態の違い

熱帯熱マラリア 小児例 成人例
病初期の咳 頻繁
前駆期間 1-2日 >2日
明らかな痙攣 頻繁(高熱、脳炎、低血糖で) 少ない(脳炎、低血糖で)
黄疸 頻繁
病初期の原虫血症 >50万/μl 0.5-10万/μl
低血糖 頻繁(治療に先行する) 妊婦で稀に(キニーネ投与後)
器質性腎不全 頻繁
肺水腫 しばしば
治療中の昏睡期 1-2日 2-4日
神経学的後遺症 約10%

Severe and complicated malaria, WHO, 1990による


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