バングラデシュ

ガザリヤ郡での
マイクロクレジット・プログラム
(AMDA Bank Complex in Bangladesh)


医師  平岡 宏太良
AMDA Journal 2000年 9月号より掲載

 私は学生時代からNGOの国際保健医療協力活動に興味があって、6月よりAMDAのインターン生としてバングラデシュに来ている。
 AMDA-Bangladeshはガザリヤ郡での、グラミーンバンクをモデルとしたマイクロクレジット(低所得家族に対する低金利融資)プログラムを 主な活動としている。6月29日より7月9日にかけて私はガザリヤ郡に滞在して現地の若いスタッフと寝食をともにし、彼らの集配金活動に 同行して実際に融資を受けているメンバーの数人にインタビューを行った。

 ガザリヤはダッカからバスで2時間ほどのところにある農村で、住民の大半が農業または河川漁業に従事しており、 もはや日本ではなかなか見ることが出来なくなった自然豊かな農村風景を呈している。 村自体が川の中に浮かぶ島のようであり、また村内も幾多の小川で分断されているため、船が交通には不可欠である。 川はまた、人々の風呂場であり、台所であり、便所であり、子供の遊び場でもある。 川の水は粘土、プランクトンのためそれほど透明度は高くないが、近くに工業地帯がなく水量が豊富なこと、また人々もごみの出ない シンプルな生活を送っていることにより案外きれいである。(私も実際川で体を洗ったり泳いだりした。)

 人々の生活はいたってシンプルかつナチュラルで、娯楽としてはトランプか、テレビのある家庭ではそれぐらいしかない。 子どもは川で泳いだり、クリケットという日本ではなじみのない、野球に似たスポーツをしたりして遊んでいる。 米、野菜、牛肉、鶏、魚などの食料は豊富で比較的安く、貧しくても食料飢饉の心配はなさそうである。 しかし生活の向上を望む声は強く、融資を要求する主婦を主とするメンバー達の対応に、AMDAのスタッフが窮窮としている場面が よくみうけられた。
 マイクロクレジットがいかにメンバー達の収入、ひいては生活の向上に役立っているかということの実例を以下に示す。

 ケース1
 ホッシンジ村のサヒダさんは35歳の主婦で、夫と3人の子供と暮らしている。夫は40歳で、稲作業に従事しており、 収入は1ヶ月あたり3,000タカ(約7,500円。1タカ≒2.5円)である。これが彼女が融資を受ける前のこの家族の全収入であったが、 99年の5月に第1回目の融資として5,000タカ(約13,000円)を受け、また親戚から7,000タカの借金をして、合わせて12,000タカで乳牛を1頭購入した。 現在その牛乳を売ることにより月々約2,000タカの収入があり、夫の収入と合わせてこの家族の全収入は月々5,000タカとなった。

収入の増加によりこの家族が食料を買うために使える予算が、融資以前は月々3,000タカであったのが、現在は4,000タカまで上昇した。 また乳牛が子供を産んで現在2頭の子牛も飼っており、収入が増加したため4頭のヤギを買い、以前はなかったトイレを設置し、 家の修理もすることができた。2000年6月に2回目の融資として8,000タカを受け、彼女はそれを親戚からの借金の返済にあてた。

 ケース2
 バロワガンディ村のハリマ・アクタさんは27歳の主婦で、4歳の息子と彼女の両親、3人の妹と1人の弟と暮らしている。 彼女の夫はサウジアラビアに出稼ぎに行っているが、向こうで職が見つからず現在仕送りはない。 65歳の父親は渡船業を営んでおり、月々約1,000タカの収入がある。生活は苦しく、2,3ヶ月に一度、約2週間分の食料の配給を 政府より受けるがむろんそれでは足りない。彼女は今年の4月に5,000タカの融資を受け、3,500タカのミシンを買った。 そのミシンにより、シャツやこちらの女性の伝統衣装であるサリーを縫製する内職を行い、月々700タカの収入を得ることができるようになった。

1,2ヶ月後には月々1,000タカ程度の収入が得られる見込みである。収入が増加したため、彼女の家族が食料にあてる予算も 若干増すことができ、また2羽のにわとりと10羽のあひるを飼うことができるようになった。また現在560タカの預金がABCにある。

 ケース3
 バロワガンディ村のセリナさんは25歳の主婦で、30歳の夫と4歳、2歳の二人の息子、18歳の未婚の妹と暮らしている。 彼女の夫はトラックの運転手で、月々2,000タカの収入があり、時々政府からの食料の配給を受けてなんとか暮らしていた。 今年3月に5,000タカの融資を受け、彼女は3,000タカのミシンを買った。 現在そのミシンを使った内職により月々700タカの収入が得られるようになった。 現在3,000タカの預金がABCにあり、彼女は家の修理を考えている。

 マイクロクレジットは低所得者の収入ひいては生活の向上に確実に役立っており、更なる規模の拡大、融資額の増額が促進されるべき であるが、いくつか課題も考えられた。

 ひとつはマイクロクレジットの対象が少額ながらも定期的な預金および融資の返済ができる家族であり、母子家庭のような 安定した収入を望めない最低所得家族は対象とはならないことである。 実際プログラムのメンバーではないが、困窮する現地のAMDAセンターに訴え出てくる家族もあった。 それらの人々にもインタビューを行ったので以下に示す。

 ケース1
 ナジャール村のAMDAセンターに祖父母と6歳と3歳の孫より成る家族がやってきた。子供の母親は病気で1年前になくなり、 父親は他の女性と結婚して8ヶ月前に逃げてしまった。この家族の家計を支えているのは70歳の祖父で、彼は他の人の農作業を手伝っているが、 乾期は仕事がなく、年間7,200タカの収入しかない。近所の人の助けを借りながらなんとか暮らしている。 もしある程度のまとまった金があれば、彼はボートと漁業用の網を買うことにより、乾期に漁業を行って収入が得られるようにしたいと 考えている。必要な予算は約5,000タカである。それにより年間12,000タカの収入増しが望めるという。

 ケース2
 ホッシンジ村のジャミロンさんは推定50歳(正確に自分の年齢をいえない女性が多かった。)の主婦で、夫は10年前に亡くなっている。 17歳、15歳の二人の娘と9歳の息子と暮らしている。娘達は学校に行ったことがないが、息子は現在小学校に通っている。 彼女は家政婦をすることにより月々500タカの収入を得ている。他2,3ヶ月に1度政府より約2週間分の食料の配給を受けている。 また彼女は以前われわれのプログラムのメンバーであったが、預金を続けることができず、やめざるをえなかった。 彼女は自分の家に小さな雑貨屋を開きたいと考えており、そのために必要な費用は5,000タカである。 その雑貨屋により月々約1,000タカの収入が望めるという。

 以上のような非常に苦しい状況に置かれている家族がこの地域にどの程度いるのかということははっきりとわからないが、 おそらく潜在的にかなりいるのではないかと思われる。このような家族を日本では生活保護や老人年金などにより政府がサポートするが、 バングラデシュでは政府の力が弱くそのようなことは望めない。またマイクロクレジット・プログラムに加入させることは 融資の返済の確実性がなく非常にリスキーで、プログラムの破綻につながりかねない。 マイクロクレジットとは違った援助方法をこのような家族に対しては採らなければならないだろう。

 また女性の働き口が非常に少ないということが母子家庭においてはネックとなっている。 女性はあまり家の外に出ることが少なく、買い物も男がする。店の売り手も全て男である。 また、融資を受けるメンバーの大半は主婦であるが、夫の仕事に対して投資するかもしくは家畜を買うなどのためにローンを使う。 他は内職のためのミシンを買うぐらいである。女性に働く機会を与えるため、来年4月に開設予定のAMDA Vocational Trainig Centerにて 刺繍や縫製のコースや、電気機器を使った家具の製造のコースなどを企画している。

 もうひとつの課題はマイクロクレジットにより住民の収入が上がると、購買力も上がり、ひいてはゴミの問題、環境汚染の問題も 出てくるのではないかということある。現在は収入の大半が食料にあてがわれており、また野菜のくずなどは鶏、牛などの家畜が 食べてくれるためあまりゴミが出ないが、ゴミ回収などのシステムがないため人々はタバコの空き箱、ビニール袋をポイポイと 家の前や道端に捨てている。ゴミ処理問題が解決せず人々のゴミに対する意識も変わらないまま、ゴミが増えるとなると環境汚染の問題が 出てくるのではないかと思われる。

 以上のような課題を踏まえた上でAMDAとしては、マイクロクレジットにより低所得者の生活向上を図るとともに、マイクロクレジットの 対象とならないような最低所得者の生活保障、ゴミ問題に対する対策および教育を行っていく必要があるのではないかと思われた。 またガザリヤには医療施設としては政府管轄のクリニックが1つあるだけで、それだけで7万人の住民の医療サービスをカバーできるとは 思われない。モーターボートを使った巡回診療などがこの川の多い地域には必要ではないかと思われた。 ガザリヤが自然と調和した美しい農村として発展していくことを私は期待している。

 最後にガザリヤ滞在中に大変お世話になったShahjalal氏、Arif氏をはじめとするAMDAの現地スタッフのみなさんに感謝する。



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